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そしてB型の部活動は始まる
67.サバゲー適正
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皆で奮い立った翌朝、空はどこか火照ったような夏の予兆を滲ませていた。
そんな中、登校途中の皆人は強に肩を引っ掴まれ、雑に引きずられる形で校門へと辿り着くことになる。
「解放してくれ……」
文句を零しながらも強引さに慣れきった皆人は成すがまま。
やがて二人が校門をくぐったその瞬間だった。
遠目に大きな荷物を抱えた鉄将と並んで歩くローズの姿が校舎の中へと消えていった。
「……なんか運び込んでるぞ、あいつ」
「ローズはやるって言ったら、絶対にやる女だからな」
「いや、それは分かってるけどさぁ……」
皆人は思わず額に手を当てる。
サバゲーの準備とはいえ、あの量は尋常ではない。
サバゲーをするためになにを持ってきたのか。巨傲に加減などという概念はない。
「ま、ローズが忘れてたら、俺のウルトラマグナムが火を噴いてたけどな!」
強が胸を張って懐から取り出したのは割り箸鉄砲だった。
無駄に塗装された木製のボディには手作業の誇りすら感じさせるが……。
「……アホそう」
それだけを告げ、皆人はそそくさと教室へ逃げるのであった。
「ってことがあってな」
教室に着くと、皆人は秋山とHR前の雑談をしていた。
昨日の顛末を一通り話すと、秋山は堪えきれず吹き出す。
「そんなに面白いか?」
「くくっ、すまんすまん……普済がさ、あまりに楽しそうに話すからさ」
「……楽しくなんかないぞ。むしろ、苦労の方が勝ってる」
「そうか? 俺はお前らの部活、結構羨ましいけどなあ」
「……秋山は何も分かってない。あいつらのあの――」
皆人が言い切る前に廊下の向こうからバタバタと足音が響いた。
直後に怒号と悲鳴、そして謎の叫び。
「こらーー! 待ちなさいよ!!」
「誰が好き好んで縛られたがるかよッ!」
「ここにいるぞ!」
「僕を縛ってください!!」
「何だお前ら!?」
瞬く間に形成された百鬼夜行。
見知った顔も見知らぬ声も混じったカオスな一団がA組の前を駆け抜けていく。
騒ぎが去った後、秋山は静かに頭を垂れた。
「……すまん。お前の言いたいこと、分かった気がする」
皆人はどこか誇らしげに頷いた。
冗談はさておき、秋山はこの話の本筋へと踏み込んだ。
「けど本当にサバゲー同好会とやり合うのか? 大丈夫なのかよ」
「なんかヤバい噂とかあるのか?」
「……風の噂だけどさ、サバゲー同好会って金敷部を敵視してるって話だぞ」
「……は?」
皆人の眉がぴくりと跳ねた。
「うちはできたばっかだぞ?」
「……まぁ噂だよ。噂」
軽く流す秋山に皆人は「眉唾だな」と小さく返す。
だが心のどこかに引っかかるものが残る。
今は静観するに留めるがいずれは火種になるかもしれない。
皆人はそう考えるのだった。
◇◇◇
そして放課後。
ローズが運び込んだ装備は多目的室でその姿を現す。
ハンドガン、サブマシンガン、スナイパーライフルに至るまで――。
整然とは程遠いがそれでも手入れの行き届いた数々のエアガンが机の上に並べられていた。
男という生き物にとって銃はロマンの象徴である。
その機械的なフォルムに無条件で心が惹かれる。
そんな中、ムックが不釣り合いなライフルを構えると即座に撮影会が始まる。
一方その頃、桐人はというと隅のハンモックでゆらゆらと夢の中。
耳栓までして完璧な安眠体制に入り、もはや騒ぎにすら気付かない。
「とりあえず皆さん、ゴーグルは絶対装着してくださいまし! 危ないですわ!」
ローズの号令に従い、一同はゴーグルを装着する。
だがムックだけはなぜかフルフェイスガード仕様。
「くうちゃんの可愛いお顔が傷つくなんてとても我慢できませんわ! 絶対に守りますの!」
「……俺達には無いのか、その特別仕様」
「貴方達にはそれで十分ですわ」
強の溜め息混じりの疑問にローズは即答する。
ファンクラブ会長の寵愛は相変わらずムックに全振りだった。
それぞれが思い思いに銃を手に取り、最初の試し撃ちへと移る。
的はムックの鞄から現れた空き缶の山。
ローズが事前に頼んでいたようだがその量は明らかに鞄の限界を超えていた。
「……これ、今日全部飲んだのかよ」
皆人がぼそりと呟いたがもうツッコム気力はなかった。
【学食の黒渦】は今日も健在だ。
缶を並べ、距離をとって照準を合わせる。
初めて触るエアガンに戸惑いながらも皆、目を細めて真剣に引き金を引いた。
――パン。
一斉に放たれた弾が空き缶を何個か吹き飛ばした。
二射、三射と続けるうちに向き不向きが見えてくる。
「当たらないじゃないのよこれ!! 壊れてるんじゃないの!?」
美月の怒号が響いた。
構えているのは小柄なハンドガン。だがその弾道は狙いから大きく外れ、あらぬ方向へ飛んでいく。
「それは貴女が下手なだけですわ」
「煽るな煽るな……」
皆人が呆れたように割って入る。
彼自身も当たってはいるものの、命中率は芳しくない。
もちろん全弾外した美月よりはマシだが。
「ローズも全然当たってないじゃない」
桜のするどい指摘にお嬢様はぷいっと顔を背ける。
「そうでしょうか?」
「こっち見なさいよ」
たじろぐローズ。
どうやら武器を揃える情熱とは裏腹に彼女も腕前はからっきしのようだった。
そんな中、登校途中の皆人は強に肩を引っ掴まれ、雑に引きずられる形で校門へと辿り着くことになる。
「解放してくれ……」
文句を零しながらも強引さに慣れきった皆人は成すがまま。
やがて二人が校門をくぐったその瞬間だった。
遠目に大きな荷物を抱えた鉄将と並んで歩くローズの姿が校舎の中へと消えていった。
「……なんか運び込んでるぞ、あいつ」
「ローズはやるって言ったら、絶対にやる女だからな」
「いや、それは分かってるけどさぁ……」
皆人は思わず額に手を当てる。
サバゲーの準備とはいえ、あの量は尋常ではない。
サバゲーをするためになにを持ってきたのか。巨傲に加減などという概念はない。
「ま、ローズが忘れてたら、俺のウルトラマグナムが火を噴いてたけどな!」
強が胸を張って懐から取り出したのは割り箸鉄砲だった。
無駄に塗装された木製のボディには手作業の誇りすら感じさせるが……。
「……アホそう」
それだけを告げ、皆人はそそくさと教室へ逃げるのであった。
「ってことがあってな」
教室に着くと、皆人は秋山とHR前の雑談をしていた。
昨日の顛末を一通り話すと、秋山は堪えきれず吹き出す。
「そんなに面白いか?」
「くくっ、すまんすまん……普済がさ、あまりに楽しそうに話すからさ」
「……楽しくなんかないぞ。むしろ、苦労の方が勝ってる」
「そうか? 俺はお前らの部活、結構羨ましいけどなあ」
「……秋山は何も分かってない。あいつらのあの――」
皆人が言い切る前に廊下の向こうからバタバタと足音が響いた。
直後に怒号と悲鳴、そして謎の叫び。
「こらーー! 待ちなさいよ!!」
「誰が好き好んで縛られたがるかよッ!」
「ここにいるぞ!」
「僕を縛ってください!!」
「何だお前ら!?」
瞬く間に形成された百鬼夜行。
見知った顔も見知らぬ声も混じったカオスな一団がA組の前を駆け抜けていく。
騒ぎが去った後、秋山は静かに頭を垂れた。
「……すまん。お前の言いたいこと、分かった気がする」
皆人はどこか誇らしげに頷いた。
冗談はさておき、秋山はこの話の本筋へと踏み込んだ。
「けど本当にサバゲー同好会とやり合うのか? 大丈夫なのかよ」
「なんかヤバい噂とかあるのか?」
「……風の噂だけどさ、サバゲー同好会って金敷部を敵視してるって話だぞ」
「……は?」
皆人の眉がぴくりと跳ねた。
「うちはできたばっかだぞ?」
「……まぁ噂だよ。噂」
軽く流す秋山に皆人は「眉唾だな」と小さく返す。
だが心のどこかに引っかかるものが残る。
今は静観するに留めるがいずれは火種になるかもしれない。
皆人はそう考えるのだった。
◇◇◇
そして放課後。
ローズが運び込んだ装備は多目的室でその姿を現す。
ハンドガン、サブマシンガン、スナイパーライフルに至るまで――。
整然とは程遠いがそれでも手入れの行き届いた数々のエアガンが机の上に並べられていた。
男という生き物にとって銃はロマンの象徴である。
その機械的なフォルムに無条件で心が惹かれる。
そんな中、ムックが不釣り合いなライフルを構えると即座に撮影会が始まる。
一方その頃、桐人はというと隅のハンモックでゆらゆらと夢の中。
耳栓までして完璧な安眠体制に入り、もはや騒ぎにすら気付かない。
「とりあえず皆さん、ゴーグルは絶対装着してくださいまし! 危ないですわ!」
ローズの号令に従い、一同はゴーグルを装着する。
だがムックだけはなぜかフルフェイスガード仕様。
「くうちゃんの可愛いお顔が傷つくなんてとても我慢できませんわ! 絶対に守りますの!」
「……俺達には無いのか、その特別仕様」
「貴方達にはそれで十分ですわ」
強の溜め息混じりの疑問にローズは即答する。
ファンクラブ会長の寵愛は相変わらずムックに全振りだった。
それぞれが思い思いに銃を手に取り、最初の試し撃ちへと移る。
的はムックの鞄から現れた空き缶の山。
ローズが事前に頼んでいたようだがその量は明らかに鞄の限界を超えていた。
「……これ、今日全部飲んだのかよ」
皆人がぼそりと呟いたがもうツッコム気力はなかった。
【学食の黒渦】は今日も健在だ。
缶を並べ、距離をとって照準を合わせる。
初めて触るエアガンに戸惑いながらも皆、目を細めて真剣に引き金を引いた。
――パン。
一斉に放たれた弾が空き缶を何個か吹き飛ばした。
二射、三射と続けるうちに向き不向きが見えてくる。
「当たらないじゃないのよこれ!! 壊れてるんじゃないの!?」
美月の怒号が響いた。
構えているのは小柄なハンドガン。だがその弾道は狙いから大きく外れ、あらぬ方向へ飛んでいく。
「それは貴女が下手なだけですわ」
「煽るな煽るな……」
皆人が呆れたように割って入る。
彼自身も当たってはいるものの、命中率は芳しくない。
もちろん全弾外した美月よりはマシだが。
「ローズも全然当たってないじゃない」
桜のするどい指摘にお嬢様はぷいっと顔を背ける。
「そうでしょうか?」
「こっち見なさいよ」
たじろぐローズ。
どうやら武器を揃える情熱とは裏腹に彼女も腕前はからっきしのようだった。
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