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第2章 秘めし小火と黒の教師編
21.幼い少女と救出作戦
しおりを挟む「でも、一体どうすれば………ん?アレは?」
「ファイ、どうしたの?」
「………待てよ、それにこの前の授業で教わったあの魔法だったら………」
「ねぇってば!何か良い方法思い付いたの?」
「あ、いや。これはとてもいい案じゃ………それに、リスクがかなり高いし」
「そんなの、試してみなくちゃわからないよ!それに、もうそんなに時間だってないし」
確かにウィンの言う通りであった。
今こうしている間にも、何もかもを焼き尽くすであろう赤く燃える火の海が、必死に助けを待っている少女に迫りくると言う、まさに一刻の猶予もない状況なのだ。
「うーーん。………じゃあ、ウィン。もう一度確認させてもらってもいいかな?」
「え?確認って、何を?」
「さっきの、『あの子一人救えないようじゃ、英雄なんてなれない』って言葉。嘘じゃないよね?」
「勿論だよ!アタシ、あの子を助けられるなら何でもするよ!」
「………わかったよ。その言葉、忘れないでよね」
「せーの、でいくよ。ウィン!」
「オッケー!………せーの!!」
『火・風合成!!"バーニング・ブラスト"!!』
ファイとウィンが呼吸を合わせて同時に放った激しい火炎は、渦を巻きながらほぼ直線方向へと発射される。
そして、標的である土で出来た人形に見事命中し、それを跡形もなく粉々に砕いた。
「………すごい、こんな威力の魔法が俺達から出たなんて、信じられない!」
「ホントホント!アタシたちの普段使ってる魔法の3倍くらい強かったんじゃない!?」
「これが合成魔法だ。属性魔法を組み合わせる事で、より強力な魔法を生み出すことができる」
「どんな魔法でも合成できるんですか?」
「それは、相性次第だな。この前の授業でも教えたが属性魔法には相性があり、合成するにもそれが関係する。例えば、風は火を強くするため相性がいい、と言う感じでな」
「………なるほど」
「合成魔法は組み合わせ次第では、とても強力な魔法にすることが出来る!その組み合わせは自分たちで見つけるのも面白いかもな」
「……お!向こうのビルからの合図を確認!あっちは準備出来たみたいだね」
「………ねぇ、ファイ。本当にやるの?」
「コレが俺が思いつく最善策だよ」
燃えている百貨店のビルから少し離れた別のビルの屋上で、1本のホウキに2人で跨ると言うおかしな格好のウィンとファイの姿があった。
「………整理すると、合成魔法の力であの百貨店まで飛んでき、5階の窓から中に入って、あの子を救い出してから、その屋上から向こうのビルへ着地する………そう言うことだよね?」
「うん!バッチリ☆」
「全然バッチリ☆、じゃないんですけど!?アタシ、ちゃんと飛べるか自信ないよ……?」
「大丈夫!この方法ならあっという間に飛んでいけるから。きっと、高い場所を飛んでるなんて感覚もないよ」
「そうかもだけどぉ……」
「ウィン、さっきの言葉は嘘だったの?」
「…………もぅ~~~!!やるよ、やればいいんでしょ!?………こうなったら絶対あの子を助けるんだから!!!」
「あぁ!!絶対助けよう!!」
ファイは、魔法の反動で振り落とされないようにウィンの肩に右手を置いた。ウィンには「腰じゃないと振り落とされる」と言われたのだが、流石に難易度が高かった。
2人を乗せたホウキの周囲に、円を描くように風が集まりだす。その風は段々と激しくなっていき、まるで竜巻の中に居るかのようであった。
「待っててね!今助けるからっ!!」
ウィンの言葉を引き金に、長距離ライフルから発射された弾丸のような速さで飛び出した。ファイはその反動で振り落とされそうになり、思わず肩にあった手を腰へと置き直したのだった。
そして、屋上の端から端へと10秒もかからないうちに駆け抜け、空に羽ばたく鳥のように飛翔する。
今、まさに炎の中に取り残されている少女を助けるため、必死の救出劇が始まったのだ。
『火・風合成!"バーニング・ブラスト"!!』
ジェット噴射の如く放たれた火炎の竜巻による加速により、2人は目的地である百貨店へとあっという間に接近できた。しかし、そのあまりも凄まじいスピードにより生じる鋭い風が頬に当たる度に、引き裂かれるような痛みを感じるほどであった。
「ウィン、このまま窓を突き破って中に入るよ!!」
「うん!もう一回、"アレ"だね!!」
ウィンとファイは再び手をかざし魔力を注ぎ始める。だが、今度は先ほどとは違って後ろにではなく、目前に迫り来る百貨店の窓に向かってである。
『火・風合成!"バーニング・ブラスト"!!』
魔力を込める時間が少なかったせいか、ここまで飛んできた時のジェット噴射のような威力はなかったものの、目の前の窓ガラスを粉々にするには十分過ぎるほどであった。
さらに、逆噴射のような作用が働いたため僅かだが突入時のスピードも緩和されたのもあり、5階のフロアへと上手く滑走しながら着地できて何から何まで完璧であり、あとは足を床に強く当ててブレーキをしながら止まれば文句なくの成功のはずだった。
「………やった~~!!!」
「ちょ、まだ手を離しちゃ………うわっ!!」
だが、成功してあまりにも嬉しかったのか、完全に止まりきってはいなかったのにも関わらず、操縦者であるウィンが手を離してしまい、それにより大きく体勢を崩した2人は予定では無事に着地予定であったフロアに勢いよく投げ出されてしまった。
「きゃっ!!」
「危ないっ!!」
ファイとウィンは床をゴロゴロと転がり、壁に激突することでどうにか止まる事ができた。先ほど2人が投げ出された時に、乗ってきたホウキも別方向へと飛ばされてしまい、数m離れた場所にポツンと落ちていた。
「イタタって、あれ!?……あんまり痛くいない?」
「………俺は痛いし重いから、早くどいてくれると助かるんだけど」
ファイは投げ出された瞬間、咄嗟にウィンを庇うように抱きしめた為、床に落ちて転がり、更に壁にぶつかった際の衝撃がファイに全部かかってしまったので、ウィンは少し擦り傷を負った程度で済んだのであった。
故に、これでファイがウィンの下敷きになってしまったのは、これで2回目である。
「ちょっと!女の子に重いとか禁句なんですけど!!」
「はぁ……前にもこんな事あったなぁ」
「そうだ!!早くあの子を助けないと!!」
「ここにはまだ火は来てないみたいだけど、急ごう!!」
「おい!!さっき、誰かあの百貨店に飛び込んで行かなかったか!?」
「あぁ………でも、まさかあり得ないだろ」
一方その頃、火事現場である百貨店の下では野次馬達が何やら騒いでいた。どうやら、ファイ達がビルから飛び移った瞬間を何人かに見られていたようだ。
「………フフ。無茶だけど、いい選択だよ。………ファイ」
「あ、居た!!助けにきたよ!!」
扉を開けた部屋に居たのは、綺麗な黄色の髪が可愛らしい3歳くらいの幼い少女であった。ずっと1人で不安だったのか、ファイ達が部屋に入ってきた時も怯えた表情でこちらを警戒していたほどであった。
「おねぇちゃんたち、だれ?さっきのくろい人たちのなかま?」
「くろい人たち?」
「そのくろい人たちがてから火をだしたの。………わたし、とてもこわくて………こわくて………」
「そっか。でも、もう大丈夫だからね」
「俺たちはキミを助けにきたんだよ!」
「ほんとう?」
「アタシはウィン。こっちのお兄ちゃんはファイだよ。キミ、名前は?」
「あたしは、らいな。"らいな・えるくてぃお"」
「じゃあ、ライナ。おねぇちゃんに捕まって!ここから脱出するよ!!」
「うんっ!!ありがとう、ウィンおねえちゃん!ファイおにいちゃん!」
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