1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

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第2章 秘めし小火と黒の教師編

22.禁呪(仮)と守る思い

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屋上に繋がるドアを開ける。
本来なら、吸い込まれてしまいそうな青空がどこまでも広がっているはずであった。


しかし、今は黒く淀んだ巨大な煙が渦を巻いて居座っている。それは、見上げる者を嘲笑っているように見えた。


「2人とも、早くこっちへ!」

「ライナ!もうすぐママに会えるからね!」

「うん!!きっと、ママしんぱいしてるから、はやくさがさなくちゃ」


屋上の扉を閉めようと5階を覗くと、まるでファイ達を追い詰めるかのように、煙がフロアを充満しつつあった。火はまだ広がっていないものの、もう少し助けるのが遅かったらと想像するだけで、自分でも気づかないうちに冷や汗が頬を伝っていた。


「ファイ!ライナをお願い!!」

「わかった!ライナ、今度は俺に捕まってね」

「うん」

「まだ魔力残ってるよね?」

「あぁ……だけど、あと1発が限界だと思う」

「……実は、アタシも。だったらチャンスは1回だけだね」

「でも、失敗するは気全然しない。だよね?」

「とーぜん♪」

「いいかい、ライナ?これから俺たちがいいって言うまで絶対目を開けちゃいけないよ?」

「なんで?」

「これからね、お姉ちゃんとお兄ちゃんが魔法でライナをあのビルに連れて行くからだよ!」

「え!おねえちゃんたち、そんなまほーつかえるの!?らいなも、まほーつかうところみたい~!!」

「それは出来ないんだよ、ライナ」

「えー、なんでー?」

「なぜなら、今から使うのが………"禁呪"だからよ!!」

「そうそう、"禁呪"って………えぇ!?」

「そう!この"禁呪"は使うことを決して許されることはない、危険かつデェンジャーな魔法。そして、この魔法を見た者さえも罰せられると言われてるのっ!?」

「………危険とデンジャーって、同じ意味じゃ」

「らいな、しってるよ!"きんじゅ"!ママがとってもあぶないまほーだっていってた!」

「だから、ライナには目を瞑ってて欲しいの。じゃないと、ライナも捕まっちゃうかもしれないから、ね?」

「うーーーん………わかった」

「いい子だね、ライナ♪おねえちゃんたちが、必ずあのビルに連れて行ってあげるからね!!」


そう言うと、ウィンはライナを強く抱きしめる。それは、その小さな存在をしっかりと確かめるために。
また、ライナを絶対助けたいと確かに、心に誓うために。


「手筈はさっきと同じ。いくよ、ウィン!!」

「こっちはいつでも準備おっけーだよ!!」

「じゃあ、ライナ。これからしばらく目を瞑っててね」

「うん!」


ただ、強く吹く風の音が響き渡る屋上。ときたま、下の階から何かが爆発する音が聞こえているが、徐々に激しさを増す風の音にかき消されていく。
この屋上に繋がるドアから漏れる黒く汚れた煙も、ウィン達の周りに発生してる竜巻に吸い込まれているが、竜巻の中までは入ってこれず、ただ風に流されて空に溶けていくだけであった。


「………絶対、守るから!!守ってみせるんだから!!」


それは、竜巻の勢力が最高潮に達した瞬間であった。3人は風を纏う嵐の化身となって百貨店の屋上を吹き抜ける。
しかし、その時ファイはある違和感を感じ取っていた。
最初は、あまりの緊張で勘違いしているのかもしれないと思ったのだが、そうではなかった。

結論から言うと、単純に早かったのだ。
先ほど、ここに飛び移る前に居たビルよりも現在居る百貨店の屋上の方が1.5倍ほど広くにも関わらず、一瞬で端まで来てしまっていたのだ。


「ファイ!!」


ファイは、今起こった不思議な現象に気を取られていたが、ウィンの声で我に返った。


「わかってる!!………考えるのはあとだ。火・風合成……」

「”禁呪”!!」

「へ?」

「インフェルノォォオオーー・ストォオーーームッッ!!!」



突如、春の空に鳴り響く爆発音と共に、立ち登ってくる黒煙を切り裂いて火炎の竜巻が姿を現した。
その姿はまるで、紅蓮の炎をその身に纏い、破壊のかぎりを尽くそうとしている真っ赤な竜のようであった。


ホウキに乗った3人は、インフェルノ・ストーム(仮)を放った衝撃で、目標着地点である所々に足場が組まれたままになっている建設途中のビルへと飛んでいった。


「「………いっけぇええーーー!!!」」


合成魔法の爆発音に混じり、2人の願いが木霊する。
その願いが通じたのだろうか、このままの高さと速度であれば建設途中のビルにはギリギリ届きそうなので、ひとまず安心ではあるが本当の難所はこれからだった。


「ねぇ、ファイ!着地ってどうするの!?アタシ、もう魔力なんて残ってないよ!!」

「大丈夫!!ちゃんと、考えてあるから!!」


ファイはそう言うと、段々と近づいてくるビルの屋上を指差した。
建設途中のビルの屋上には、泥で作られた山吹色の壁がなんと3枚も設置されており、その周りには、ついさっきまでここでビル建設の仕事をしていたと言わんばかりの作業着姿の男達の姿があった。
その泥の壁はいかにも柔らかく、さらに弾力がありそうで、これなら多少の速さでも受け止めてくれるはずである。


「なるほど!あれで止まるんだね!」

「そう言うこと!舌を噛まないように、気をつけてね!!」



グニュ~~ン!!


見事、まるで狙いすましたかのように1枚目の柔らかい壁のど真ん中へと突っ込んだファイ達であった。

ところが、計算外のことが起きてしまった。

多少、百貨店からこのビルとの距離が離れていたため、十分以上の魔力を込めたかもしれない。
しかし、それが仇となってしまった。
簡単に言ってしまうと、予想以上にスピードが早すぎたのだ。
1枚目の壁を余裕で突き破ってしまった3人は、そのすぐ後ろの2枚目の壁も間髪入れず呆気なく貫通してしまった。
最後の砦となった3枚目の壁も、ファイ達を押し返そうと必死に伸び続けているのだが、ブチブチと言う不気味な音が聴こえてきて、嫌な予感しかしなかった。


ブッチーン!!


案の定、その嫌な予感はすぐに的中してしまった。その柔なくて弾力がある泥の壁は、ファイ達を押し返すことはなく、さらにとても悪いことにその壁が耐えきれず引きちぎれてしまったのだ。


「……….なっ!?」

「そ、そんなぁ!?」


そして、ファイの目には数秒先にこれから起こるであろう悲惨な未来が映った。
ビルの外へと投げ出されたファイ達は、落ちないように足掻くもその甲斐虚しく、真っ逆さまに地面へと落ちていってしまう。

なぜこんな未来の状況が見えたのかは理由はわからないが、おそらくこれは絶対に起きてしまうと言う事だけは理解できた。
だったら、やることは一つしかなかった。


「ウィン!!………ライナを頼んだよ!!」


自分に掴まっていたライナをウィンに預け、2人を柔らかい泥の壁の穴が開いてない根元部分へと思いっきり力を込めて押し飛ばす。


「………え?」


壁の根元部分に押し飛ばされたウィンとライナであったが、もちろん怪我などはせずに無事に屋上に着地することができた。


「そうだ!ライナ、大丈夫!?」

「う~~ん、なにもみえない」

「フフッ、もう目を開けていいよ」

「うん!……わぁ、ほんとうにこっちのびるにきてるー!おねえちゃんたちすごーい!!」

「もう、安心だからね♪」

「あれ?おにいちゃんは?」

「………え?」



ウィンは周囲を見渡すが、ついさっきまで隣に居たはずの"彼"の姿がどこにも見当たらないことに気がついた。


「ファイ?………どこ行っちゃったんだろ」


そして、さらに3枚目の壁が突き破られた瞬間、誰かに押し飛ばされたことを微かに思い出し、慌てて立ち上がった。


「そんな………嘘でしょ………ファイ!!………ファイ!!!」


ウィンは屋上から身を乗り出し、ビルの下を覗き込みながら"彼"の名を大きな声で呼び続けた。
しかし、その呼び声は時折強めに吹くビル風に掻き回されて虚しく消えていくだけであった。





「うわあああぁぁぁぁ!!!………うぇっぶ!!」




突然、空から"何か"が降ってきた。そして、その"何か"は、先ほどまで泥の壁だった残骸の上に豪快に落下し、その衝撃で周囲に大量の砂埃が舞い上がった。


「ゴホッ、ゴホッ!!………何が起きたの?」

「………イタタタタ………今日は、ホントついてないや」

「………!?」


まだ空気中に砂埃が滞留している。
そのせいで、一体何が降ってきたのか確認しようにも、黒くてぼんやりとしたシルエットしかわからなかった。
だが、その聞き覚えがある声のする方へとゆっくりと近づくと、黒いシルエットが徐々に鮮明になり、ついにその正体を現した。


「…………ファイ!!」


なんと、それはてっきり落ちてしまったと思っていた"ファイ・フレイマー"であった。


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