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第3章 秘めし小火と級友の絆編
39.賢者と付き人
しおりを挟む「ファイ!おっはよ~~!!」
「あ、ウィン。おはよう」
クロノス魔法学園の校門付近を歩いていたファイに、丁度同じタイミングで登校していたウィンが元気よく声をかける。朝からこんなにも元気なのは、学園の中でも彼女くらいであろう。
「あれから、もう3日経つんだね」
「早かったね。そろそろクランも退院できるといいんだけど」
7組のメンバーにとって散々であったと言う記憶しかない野外実習行事、“遠足“から3日。当時こそ、学園内でもレイヴンが校長や教頭に呼び出されたり、クランに付き添っているレイヴンの代わりにスティーリア先生がファイたち7組の授業をすることになったりと色々忙しかったのだが、今ではその騒ぎも落ち着いてきたのか以前の平穏を少しずつだが取り戻しつつあった。
「きっともうすぐ退院できるよ!そしたら、快気祝いでみんなでどこか食べに行こうよ!」
「それ、いいかも!」
「でしょ♪」
1年7組の教室のドアを開けると、そこにはフリッドの姿があった。
2人よりも早く教室に来ていた彼は表紙に難しそうな題名が書いてある本を、器用に片手で持ちながら読んでいた。これは、ファイたちがこの学園に入学した次の日くらいから行われている、フリッドの毎日の日課であった。
「おはよう、フリッド!相変わらず早いね~」
「………おはようございます」
本来ならば、フリッドより早く登校している筈のクランが、教室の窓かか見える外の景色を眠そうに眺めているのため、3日経った今でもそのクランの席が空いていることに違和感を拭うことはできなかった。
「皆さん、おはようございます」
青白い髪を靡かせて一人の女性が教室へと入ってくる。学園から支給されているのであろう、彼女のその美しい髪の色と同じローブを羽織っている姿はとても佳麗で、密かに男子生徒の間ではかなりの人気となっているらしい。
「おはようございます!」
「スティーリア先生、今日もレイヴン先生はお休みですか~?」
「いえ、先ほどまで学園には来ていたのですが色々忙しいとのことで、昨日に引き続き私が授業を行います」
「スティーリア先生の授業はわかりやすいので、僕としては嬉しいですけどね」
「確かに!レイヴンの授業って時々大雑把になる時あるよね~」
「あるある!要点はまとまってるから内容はわかるんだけどね」
「きっと、詳しい説明が面倒なんだなぁ、って感じることはありますね。まぁ、それが先生らしいんですが」
「ははは………あなた達も、結構苦労してるのね」
苦笑いを浮かべるスティーリア先生の眼差しには、ファイたちに対してほんの少しだけ同情の気持ちがあったのは言うまでもなかった。
「………やっぱり、俺待ってちゃダメかな?」
「何を言っておる?当事者であるお前さんが居らんと話にならぬじゃろ」
キラキラと輝くラメが散りばめられいる銀色のローブを纏っている老人が、隣を歩いている黒いコートの男と何やら話している。
しかし、その黒いコートの男はこれから起こる事を想像してしまったのか、あからさまに嫌そうな顔をしており、何度も深いため息をついていた。
「でもよぉ。昔からお偉いさんってのは、どうも苦手なんだよなぁ」
「お主の気持ちは分からんではないが、召集がかけられてはのぉ」
この時、レイヴンと校長はある場所を目指していた。
しかし、そのある場所に入るためには、大きな正門に配備されている重装備で固められた兵士による身分確認を突破しなければならない。
もし、許可なく侵入しようものなら、たちまち屈強な兵士たちに拘束されたのち、外に放り出されるか、最悪牢屋に打ち込まれてしまうのである。
「身分確認しますので、何か身分を証明できる物の提示をお願いします」
「これでよいかな?生憎、今はこれしか持っておらんでのぉ」
そう言うと、校長は懐から"勲章"を取り出し、それを兵士へと預けたのであった。
「立派な"勲章"ですね。えーっと…………ウォルク・ホーライ・K=クライメットッ!?」
校長の持っていた"勲章"に書かれている名前を目にした兵士の一人が思わず興奮した様子で叫んだのを聞き、もう一人の兵士が慌てて駆け寄りその"勲章"を確認し始めた。
「あの“賢者クライメット“様でしたか!気づけず、誠に申し訳ありません!!」
「今日は、ここで行われる重要な会議に呼ばれておっての」
「総司令官殿から聞いております!………失礼ですが、そちらの方は?」
「ワシの付き人みたいなもんじゃ。一緒に通ってもよいかの?」
「勿論です!“賢者“様であれば、御付きの方でも、獅子でも、ドラゴンでも、どうぞお連れになってください!」
「ほっほっほ、すまんのぅ」
「では、改めて“賢者クライメット“様。ようこそ、“センテリュオ城“へ!!」
無事、身分確認をクリアできたレイヴンと校長は、二人の兵士による敬礼で見送られながら、目の前の大きな門を潜るべく歩き始めた。門と言っても短いトンネルとなっており、侵入してくる敵を迎え撃つ魔法を放つためか、レンガの壁の所々には穴が開いていた。
「さすが、"賢者"パワーはスゲーな。それにしても、いつから俺は爺さんの付き人になったんだ?」
「そう言ったほうが、簡単に入れると思ってのぉ」
「まったく、悪い"賢者"様だぜ。それにしても、さすがに城にドラゴンは連れて入っちゃまずいだろ」
少々薄暗かった短いトンネルを潜り終えると、突然体が真っ白い光に包まれるような不思議な感覚に陥ってしまう。
そして、その直後のことであった。レイヴンたちの目の前に、息を呑むほど美しい白亜の城が聳え立っていたのであった。
王都フラッシュリアの中央に位置する、王城、"センテリュオ"。
その白く輝く外壁は、15年前の"魔族侵攻"で亡くなったブライト前国王の誠実さを象徴するかのようであった。
内装は、国民からの反感を受けない為にも、ある程度の品を保ちつつ、あまり豪華過ぎない造りとなっている。
骨董品や絵画なども飾られているのだが、それは目玉が飛び出るほどの高価な物ではなく、絵や陶芸が趣味であったマーレ王妃が、生前に作っていた作品たちであった。
「どうじゃ、久しぶりの王城に来た感想は?」
「………変わってねーな」
「ほぅ」
「あの時から、全然変わっちゃいねー。もう、かれこれ11年ぶりだってのにな」
久しぶりの王城の中へとやって来たレイヴンの眼差しには、どこか寂しさが感じられた。それは、まるで大切な何かを失ってしまったかのような、そんな悲しみが混じった寂しさであった。
「さて、時間にはちと早いが、そろそろ“円卓の間“に向かうとするかのぉ」
「………あぁ、わかった」
しかし、レイヴンは昔を思い出して沈んでいた気持ちを切り替えたのか、いつにもなく真剣な表情で城の奥へと進んでいった。
「………また来てやったぜ、“マーレ“」
ポツリと呟いたレイヴンのその言葉が、城の廊下を吹き抜ける風の中へと消えていった。
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