1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

文字の大きさ
41 / 72
第3章 秘めし小火と級友の絆編

41.退院祝いと担当医

しおりを挟む





学園内に、綺麗な鐘の音が響き渡る。
現在、時刻は15時半を丁度回ったところであり、その鐘の音はここ“クロノス魔法学園“での授業の終了を示していた。


「……今日の授業はここまでだな」

「ふぅぅ~~~。今日もなんとか終わった~~~」

「アタシも疲れたけど、先生の授業久しぶりだったから、なんだか新鮮だったね♪」

「確かに、昨日までスティーリア先生が授業してくれてましたからね」

「お前たちにも迷惑かけて、本当にすまなかったな。でも、俺がいない間、寂しかったんじゃないか?」

「いえ、別に」

「なんで???」

「……あ、そう」


少しこの教室を留守にしていたせいか、可愛がってきた教子の態度が冷たく感じられるようになってしまったレイヴンなのであった。


「……俺は寂しかったよ」


しかし、その中でファイだけは違っていた。


「俺は先生が居なくて困ってたよ!」

「……ファイ、お前」


そう、ファイだけは一日千秋の思いでレイヴンの帰りを待ち続けていたのだ。そのファイのあまりにも真っ直ぐな気持ちに、レイヴンの目から思わず涙が溢れそうになってしまうほどであった。


「だって……だって、先生が放課後に鍛錬してくれないと物足りなくて困ってたんだよー!!」

「……へ?」

「やっぱり、毎日やってたからかな?ここ三日間の一日の終わりが寂しくて寂しくて」

「そ、そうか……」


ファイの予想外のその言葉により、レイヴンの目から溢れ落ちそうになっていた涙も一瞬で引っ込んでしまい、ただただ呆れるしかなかった。


「そう言うことで、出来なかった三日分の鍛錬お願いします!!」

「あー、張り切ってるとこすまんが、今日は無理だ」

「そ、そんなぁああああ~~~!!!!」

「それと、これからお前たちに付き合って欲しいところがある」




"国立インゲニウム総合病院"の一室の前に、ファイとウィン、フリッドの3人姿があった。その部屋の部屋番号の下には、“クラン・グランディール“と書いてあるネームプレートが貼られていた。
軽くノックをすると、中から小さな声で「どうぞ」と言う声が聞こえた。なので、横にスライドするドアを開けると、結構広めの個室の中でクランが退院のために着替えなどの荷物を整理しているところであった。


「クラン、久しぶり~!!元気してた~~??」


ウィンは、クランの姿を見るや否や傍に駆け寄った後、思いっきり抱きつく。そのウィンによる突然の激しい抱擁に、クランはとても驚いた顔をしていた。
しかし、ある程度状況を理解したのか、ほんの少しだけ柔らかい表情となって、こちらも負けじとウィンをしっかりと抱きしめたのであった。


「…………ウィン、久しぶりだね。…………心配かけてごめんね」

「いいよ!だって、アタシたち友達でしょ?」

「…………うん!」


そして、勢いよく突入していったウィンの後に、少々遅れる形で部屋に入ったファイとフリッドであったが、女の子が二人で抱き合っている尊さが溢れ出ている光景に若干の居心地の悪さを感じてしまうのであった。


「えっと……クラン、元気になってホントよかったよ」

「退院、おめでとうございます……」

「…………ファイもフリッドも来てくれたんだ。あれ、レイヴンは?」

「それが、学園を出ようとしていたら、タイミング悪く教頭に捕まってしまって」

「で、退院の手続きはしてあるから、みんなでエントランスで待っててくれって」

「…………そうなんだ」

「終わったらすぐ行くって言ってたから、きっともうそろそろ来るよ♪」

「…………うん」




クランの支度が済んだので、みんなで一緒にエントランへ向かっていると向こうの方から綺麗な花束を持った白衣の男が歩いてきた。
その男は、スタイルがよく高身長で、おまけにかなりの美形であるためか周りに居た女性たちから小さな黄色い声が飛び交っていた。
すると、ファイたちの目の前で立ち止まると、持っていた花束をクランへと差し出したのだった。


「退院おめでとう、クラン。元気になって本当によかったよ」

「…………ありがとうございます、先生。大変お世話になりました」

「君のためなら、どうってことない。あぁ、コレは私からの退院祝いと言うことで」


差し出された綺麗な花束をクランが受け取ると、男は爽やかな笑みを浮かべる。
その姿は見た感じ好青年そのものであるが、目の奥は決して笑っておらず不思議な雰囲気を漂わせていた。


「クラン、この人は???」

「…………この人は、私の担当医で…………」

「……ハロルド・グラース」


それは、初対面であろうファイたちのために、クランがその男の紹介をしようとした矢先のことである。
なんと、一番後ろを歩いていたフリッドが、鋭い目つきで男を睨みながら、その名前を呟いたのだ。


「ん?フリッド?なぜ、お前がここに……あぁ、そう言えばクランと同じクラスだったか」


ここに、フリッドが居ることを疑問に思いながら、男は首を傾げる。しかし、その疑問に対する答えを既に持っている事を思い出したのか、早々と自己完結してしまった。


「こうして話すのも、2週間ぶりですね……"ハロルド兄さん"」

「え、"兄さん"ってことは……」

「も、もしかして、フリッドのお兄さんっ~~!?」


白衣の男は驚くファイとウィンの反応を見ると、爽やかな笑みを浮かべた。

鮮やかな空色の長い髪は、まるでエステにでも通っているかのように艶があり、さらにサラサラで後ろ姿だけ見たら女性と間違えてしまいそうなほどである。
白衣の下は、薄い紫色のシャツを着ているのだが、前のボタンの上から3つが留まっておらず、胸元の一部が露わになっており変な色気が醸し出されている。


「改めて自己紹介をするとしよう。"ハロルド・グラース"だ、いつも弟がお世話になっている」

「い、いえ!僕たちもフリッドにはいつも助けられてますから!」

「でも、まさかフリッドのお兄さんがお医者さんだったなんて知らなかったよね~」

「残念だが、私は医者ではない。一応、医師の資格は持ってはいるがね」

「え?でも、さっきクランが担当医って……?」

「あぁ、それはクランが使っている“魔道医療機器“を作ったのが私だからだ。なにぶん、複雑な機器でね、困ったことに私以外の人では動かせなくてね」

「じゃあ、お兄さんって“技術士エンジニア“の人なんだ?」

「いや、私は……」

「そんなことより、兄さんっ!!」


突然、フリッドが大きな声を出してハロルドの言葉を遮る。普段からあまり大声など出すことがない“冷静“なフリッドが、こんなにも荒っぽくなるのは珍しいことである。
しかし、その様子は“あの時“の感じと似ていた。
そう、クランが“巨大な黒い腕“を出した後に、その黒い腕の真実を知るレイヴンを問い詰めようとした、"あの時"である。


「クランに兄さんが関わっているって言うことは、兄さんもクランの秘密を知っているんですね?」

「フリッド、それは先生から……」

「そーだよっ!先生から頼まれたじゃん、クランから話してくれるまで待とうって!!」

「…………え?…………どういうこと?」

「………すみません、クラン。さっき、ウィンが言った通り、“あの時“クランに起きたことを先生に聞こうとしたら、クランから話してくれるまで待ってくれと言われました」

「…………そう、なんだ………」


フリッドから告げられた真実に、クランは納得がいっていないようであった。それもその筈である、なにせ自分の知らないところで、自分の事についてそんな約束がされていたのだ。納得できないのも当然である。


「僕も、それでいいと思ってました。……でも、兄さんが関わっているのなら話は別です!」

「どう言うこと……フリッド?」


フリッドは、熱くなる感情を必死に抑えようと一度だけ深呼吸をする。その様子は、心を落ち着かせると同時に、まるで覚悟を決めたかのようなそんな顔であった。


「それは……兄さんの知っているクランの秘密が、僕にも関係があるかもしれないからです!!」


真剣な眼差しでハロルドを睨みつけるフリッド。
しかし、当のハロルドはと言うと、そんなフリッドの突き刺すような視線をもろともせず、生意気な弟の発言を聞き流しているかのように、口元を僅かに緩ませた小さな笑みを浮かべるだけであった。


「さぁ、答えてもらいますよ。兄さん!!」

「……フリッド、お前には昔から言っているはずだ。『得たい真実があるのなら強請るな、強さを持って勝ち取れ』と」

「……いいでしょう。勝負です、兄さん……いや、“ハロルド・グラース“!!」






この時、ファイはこう思ったのであった。
これから繰り広げられるであろう、この"壮大な勝負兄弟喧嘩"からは、波乱の予感しかしないのだ、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...