エマ・ケリーの手紙

山桜桃梅子

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タウンハウスの訪問者

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それを少し苦笑しながら、エマに軽い口調で声をかける。


「緊張してる?」

「そんなこと、ないわ」


この日、アランは気分が良かった。
男として意識されているのだから。
彼女の警戒しているような距離の取り方や表情、声音につい嬉しくなってしまう。

ただこの婚約者、未だ自分を言い合いばかりする子供かライバル、幼なじみだという意識が抜け切れていない。
成長していけば自ずと特別な感情を同じよう抱いてくれると、当然のように思っていただけに。
少しばかり苛立ってしまうことも健全な証拠であり、やはり「エマが悪い」のだ。

(まあ、すぐに切り替えろと言う方が難しいだろうな)

アランは逸る気持ちを何とか抑えながら口調を崩さぬように丁寧な段階を踏もうと努める。


「なあエマ」

「何よ……」

「俺、もうすぐ卒業だろ?」

「そうね」

「エマを卒業パーティ、プロムの相手として誘いたい」

「え……あ、ああ。そういうパーティもあるわよね。確かに相手が居ないのでは流石に可哀想ね!」


これである。
相手はいつもの会話や空気にしようとしているのだろうが。今すぐその感情の抵抗を奪い、ささやかな意識を深いものにして認めさせてやりたくなってしまうのだから、やめて欲しい。

(顔を真っ赤にして、本当……)

月明かりの下、小さなベンチに胸ポケットからハンカチを取り出し敷いて促すと、素直に腰を下ろしてくれる。
横で俯いたままなので名前を呼び、必死な視線で質す。


「エマ、それって?」

「まあ、貴方がどうしてもって言うなら、行ってあげないこともないわ?」


下手に出たことで僅かに上機嫌そうな単純なエマに、男は喉奥を鳴らして笑い立ち上がる。
そして口元に手をやり一つ咳払いをすると、眼前で片膝をついて手を差し出す。


「頼むよエマ。どうしてもエマが良い……」


さっ、と風が吹き、目を見開いたままのエマの顔を、緩く巻かれた長い髪が隠したが……。
風が止めば髪はまた肩へと落ちた。

そこには胸元を両手で押さえる彼女が綺麗に赤面し薄く涙まで浮かべているのだ。


「ず、ずるいわ!」


何を言い出すかと思えば。
しかしアランには手に取るように理解出来てしまう。

(どうせ、俺のくせに生意気だって思っているな)

ただもうこの手を取るまで譲る気も、はぐらかして許す気もない。


「手、取ってくれないのか?」

「なんで、貴方そんなことをするような……」

「言ったよな。どうしてもって言うならと」

「そ、そうね」

「気に入らないならもっと。きちんと誘おうか?」


ゆったりとした口調で問えば、「もうそれ以上はやめて……」と言わんばかりの表情で、滑らかで柔らかい色白の指先が控えめに重なった。

そのまま立ち上がればエマも一緒に釣られるよう立って、頬にかかる僅かな髪を払ってやれば。
唸りながら小さな桜色の唇が薄く開く。


「アランのくせに……っ」


ほらやっぱり。
と笑ってしまう。
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