エマ・ケリーの手紙

山桜桃梅子

文字の大きさ
66 / 101
伯爵令嬢、エマ・ケリー

2

しおりを挟む
途中、後ろから鈴を転がすような声がかかる。


「エマ様ではなくて?」


立ち止まり身体ごと向けると、相手の令嬢が深く礼をしてその綺麗な顔を上げた。


「ご機嫌よう、先日はとても素敵な贈り物を感謝申し上げます。素敵な婚約者様とご参加なさると思っておりましたから、お会い出来ることを楽しみにしてましたのよ」

「まあ、ウィロウ様ではないの。こちらこそ先日のお茶会では素敵な手土産を戴きまして感謝しております。麗しのご令嬢と名高い貴女のこと、必ずお会い出来ると思っておりました。嬉しいですわ」


互いに好戦的な視線を交わすが、もちろんパートナーは会釈するだけで気付いていない。
するとウィロウが口角を更に上げ言う。


「そうそう、先ほど夕暮れに染まるシクラメン子爵令嬢のリリィを馬車の中から見かけましたの。それは懸命に咲こうと可愛らしい花でしたわ」

「……そうでしたの。ウィロウ様は目が良いのね。ありがとう、私も後で拝見してみますわ」

「ええ、でもお気をつけて?  道端の花って。毒が伝染っているものも一緒かもしれませんでしょう?」


ウィロウが得意の言い回しで告げている。
子爵令嬢のリリィと手を組んでいる人間がいるかもしれないと言うのだ。


「そうね、その通りですわ。安易に手を伸ばさないようにしなければね……」

「あらあら私ったら、申し訳ございません。お二方の足をお止めしてしまいましたわね。それではエマ様、ダンスとても楽しみにしておりますわ。賞賛の嵐でございましょうね……くれぐれも人の目に酔って溺れませんことを」

「肝に銘じておきますわ」


にっこり互いに微笑み合い、膝を折って顔を反らしてまた歩き出した。

(どうせ得意のダンスで酔いしれて調子に乗っている間に、何か起こることを楽しみにしているのでしょうね)

相変わらず下衆な楽しみ方をするものだと、表情を変えずに胸中やきもきしていれば、アランが一言、


「なあ、ここに来る時にそのような花など見たか?」


と呑気に耳打ちするので、エマは満面の笑みで「貴方は気にしなくていいのよ」と続けた。


「私と踊るダンスのことだけを考えていて?」

「それは、エマだけを見ていろってことか?」


はっ、と恥ずかしいことを言ってしまったと口ごもったが。まあ、それも悪くはないと頷いた。


「そういうことよ」

「それなら言われるまでもないな」


そんな風に返されてしまえば、心配事など吹き飛んでしまうと思いながら。
何を心配しているのだろうと頭の片隅に疑問が浮かぶ。

(まあ……もう何だっていいわ)


「仕方のない人ね」

「お互い様だろ」


アランが笑うので、確かにそうか、と釣られてしまう。きっと今日このパーティーで何か起きても、何だかんだ上手くことを終えるのではないかと思うくらいには、今の関係が悪くないと安心してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

紫の桜

れぐまき
恋愛
紫の源氏物語の世界に紫の上として転移した大学講師の前世はやっぱり紫の上…? 前世に戻ってきた彼女はいったいどんな道を歩むのか 物語と前世に悩みながらも今世こそは幸せになろうともがく女性の物語 注)昔個人サイトに掲載していました 番外編も別に投稿してるので良ければそちらもどうぞ

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

教師と生徒とアイツと俺と

本宮瑚子
恋愛
高校教師1年目、沢谷敬介。 教師という立場にありながら、一人の男としては屈折した感情を持て余す。 そんな敬介が、教師として男として、日に日に目で追ってしまうのは……、一人の女であり、生徒でもあった。 ★教師×生徒のストーリーながら、中身は大人風味の恋愛仕立て。 ★未成年による飲酒、喫煙の描写が含まれますが、あくまでストーリー上によるものであり、法令をお守り下さい。 ★こちらの作品は、他サイトでも掲載中のものに、加筆・修正を加えたものです。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

処理中です...