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伯爵令嬢、エマ・ケリー
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「そうね……」
その瞬間、エマが目を瞑りアランの肩へと寄りかかった。
「エマ?」
「少し落ち着きたいわ」
「そうだな……ジャスパーからもきちんと聞いたよ。あいつが夏以降の長期休暇に帰らない理由は。あのティーパーティーの日の出来事があったからだったのだな」
アランがあやす様な心地のよい声で、エマの肩に腕を回して側頭部を優しく撫でた。
「俺だけが知らずにあの日、エマを責めた……本当に悪いことをした。今更だが許して欲しい」
時折、髪を指で梳き、頬に当たれば耳に掛けてくれる。
「貴方から愛おしそうに名を呼ばれ、手を握られたって。本当?」
アランの手が止まった。
エマの語尾が震えている。危うくこちらが晒し者になるところだったのだ。先ほどを思い出して泣いているのだろうか、内心で焦ってしまう。
「違う、あの日……。屋敷の窓からエマたちが楽しそうに談笑していて。現れた彼女が〝あんなに近づいて、見つめ合って赤面までして。こんなの邪魔するようで戻れない〟と後ろから抱きつかれた」
エマが震えている。すぐにアランが着ていたジャケットを器用に脱いで、小さな肩にそっと掛けた。
「その時に。止めてくれと名を呼び、腕を解くために彼女の手を掴んだ。ただそれよりも、俺がさせたこともない笑顔を簡単にさせるあいつが、妬ましい気持ちでいっぱいで……」
「そうだったのね」
「狭量で呆れただろ?」
(違うの……あれが貴方の卒業パーティーではなかったら、悔しくて引っ叩いていたかもしれないわ。私は本当にあの人の言う通り性悪よ。だって今、こんなにも安心しているのだから)
風で少し冷えてきたと感じる頃、涙を流したことを悟られまいと俯き、ジャケットの礼を口にしようとして。
「好き……」
背後にある人々の雑話、音楽、風が葉を擦るこの世のすべての音が止んだような感覚だった。
耳に届いた彼女の声だけがやけに鮮明に響いて、アランが目を丸くした。
しかしそれよりも口にした本人の方がよほど驚いて固まっている。
「エマ、今……」
「あの、私はお礼を、あれ?」
考えが追いつかない。
それほど自然に出た言葉だと思った。
するとアランが信じられないという表情でエマの名を愛おしそうに呼び、肩に回していた手で冷えた指先をそっと掬う。
その温もりに漸く理解した。
「私は、嫉妬をしていたのだわ……」
理解し納得してしまえば何てことはなかったのだ。
(好きだと伝えてくれたこの人を。どんな態度で何を言っても許される関係を。二人で踊ったあの高揚感、安心感。すべて奪われるかもしれないだなんて思ったら……実は凄く焦ったし許せなかった)
アラン・ベネットという男が隣りに居ない日々を想像も出来なかったのだ。
「俺のこと……本当に?」
縋り催促をするような瞳が真っ直ぐに向けられている。
(そうよ、他の女性たちを喜ばせる余所行きの表情ですら違和感を感じていたのも、つまりはそういうことなのよ)
エマはそれとは真逆なその情けなくて、絶対に誰にも見せられないであろう特別な表情が、自分にだけに注がれていることに満足して微笑み、また涙が溢れてしまうのだ。
「貴方が好きよ……アラン」
その瞬間、エマが目を瞑りアランの肩へと寄りかかった。
「エマ?」
「少し落ち着きたいわ」
「そうだな……ジャスパーからもきちんと聞いたよ。あいつが夏以降の長期休暇に帰らない理由は。あのティーパーティーの日の出来事があったからだったのだな」
アランがあやす様な心地のよい声で、エマの肩に腕を回して側頭部を優しく撫でた。
「俺だけが知らずにあの日、エマを責めた……本当に悪いことをした。今更だが許して欲しい」
時折、髪を指で梳き、頬に当たれば耳に掛けてくれる。
「貴方から愛おしそうに名を呼ばれ、手を握られたって。本当?」
アランの手が止まった。
エマの語尾が震えている。危うくこちらが晒し者になるところだったのだ。先ほどを思い出して泣いているのだろうか、内心で焦ってしまう。
「違う、あの日……。屋敷の窓からエマたちが楽しそうに談笑していて。現れた彼女が〝あんなに近づいて、見つめ合って赤面までして。こんなの邪魔するようで戻れない〟と後ろから抱きつかれた」
エマが震えている。すぐにアランが着ていたジャケットを器用に脱いで、小さな肩にそっと掛けた。
「その時に。止めてくれと名を呼び、腕を解くために彼女の手を掴んだ。ただそれよりも、俺がさせたこともない笑顔を簡単にさせるあいつが、妬ましい気持ちでいっぱいで……」
「そうだったのね」
「狭量で呆れただろ?」
(違うの……あれが貴方の卒業パーティーではなかったら、悔しくて引っ叩いていたかもしれないわ。私は本当にあの人の言う通り性悪よ。だって今、こんなにも安心しているのだから)
風で少し冷えてきたと感じる頃、涙を流したことを悟られまいと俯き、ジャケットの礼を口にしようとして。
「好き……」
背後にある人々の雑話、音楽、風が葉を擦るこの世のすべての音が止んだような感覚だった。
耳に届いた彼女の声だけがやけに鮮明に響いて、アランが目を丸くした。
しかしそれよりも口にした本人の方がよほど驚いて固まっている。
「エマ、今……」
「あの、私はお礼を、あれ?」
考えが追いつかない。
それほど自然に出た言葉だと思った。
するとアランが信じられないという表情でエマの名を愛おしそうに呼び、肩に回していた手で冷えた指先をそっと掬う。
その温もりに漸く理解した。
「私は、嫉妬をしていたのだわ……」
理解し納得してしまえば何てことはなかったのだ。
(好きだと伝えてくれたこの人を。どんな態度で何を言っても許される関係を。二人で踊ったあの高揚感、安心感。すべて奪われるかもしれないだなんて思ったら……実は凄く焦ったし許せなかった)
アラン・ベネットという男が隣りに居ない日々を想像も出来なかったのだ。
「俺のこと……本当に?」
縋り催促をするような瞳が真っ直ぐに向けられている。
(そうよ、他の女性たちを喜ばせる余所行きの表情ですら違和感を感じていたのも、つまりはそういうことなのよ)
エマはそれとは真逆なその情けなくて、絶対に誰にも見せられないであろう特別な表情が、自分にだけに注がれていることに満足して微笑み、また涙が溢れてしまうのだ。
「貴方が好きよ……アラン」
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