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4.ふたりの過去がつながるとき
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「これは違うの!」
とっさに出てきた言葉だった。
「違う? じゃあ、どうしてふたりきりでいるの?」
「それは……」
なんて言い訳すればいいんだろう。わたしと降矢くんの間には、ナギのこと以外に接点がない。
「俺が呼び止めたんだよ」
すかさず降矢くんが間に入ってくれた。けれどナギはわたしの腕を取ると、自分のほうに引っ張った。
「千沙希に近づくなって言っただろう。なんなんだよ? あれから練習だって毎日やってるのに、なんの文句があるんだ?」
珍しくナギが声を荒らげた。
「そうだよな。約束を破った俺が悪かったよ」
降矢くんが柄にもなく沈んだ様子だった。
「今度、千沙希を泣かせたら、ただじゃおかない」
涙はぬぐわれていたが、たぶん目が赤くなっていたんだろう。それで気づいたんだ。
「これは降矢くんのせいじゃないの」
「降矢のせいじゃないなら、なんで泣いてるの?」
「それは……。目にゴミが入ったからで……」
「ああ、なるほどね。それでイチャついてたんだ?」
急にナギが投げやりになる。
「わたし、イチャついてなんてないよ」
涙をぬぐってもらっていたのを誤解しているみたいだった。
ナギの腕を掴み、必死で訴える。
「本当に目にゴミが入ったの。それで痛くて……」
そうじゃないのに。わたしはナギを思って泣いていたのに。
わたしにはナギだけなんだよ。ほかの誰も興味なんてない。
言えないけど。好きと伝えたら、全部失ってしまうような気がして、今は伝える勇気はないけれど、わたしにはナギだけなんだよ。
「けど、いい雰囲気だったよ」
「えっ……?」
氷のように冷たい目。ナギがなにを言おうとしているのかわからないけれど、その目をとても怖いと感じた。
「男なら誰でもいいの? それとも降矢だから? 降矢に興味があるの?」
ちょっと、なにそれ。いくらなんでも……。
「ひどい! そんなわけないじゃない」
そんなふうに思われていたなんて。わたしはナギだけ。男の人はナギにしか心を許していないのに。体だって……。
「まあ、別にいいけど。降矢って格好いいもんね」
「だから違うって言ってるじゃない!」
心配してくれたんじゃないの? 千沙希に近づくなってセリフ、うれしかったのに。
「津久井、俺が言うのもなんだけどさ──」
降矢くんが申し訳なさそうに言う。
「自覚があるなら黙ってて」
「まだなにも言ってねえだろう。だいたい津久井はこいつのなんなんだよ? そんなふうに突っかかってるってことは、おまえ──」
「黙れ!!」
ナギが怒りにまかせて叫び声を上げた。雷が落ちたような衝撃が走り、そして一瞬にして静まりかえった。
まわりにいた下校中の生徒たちが硬直したように立ち止まっていた。
「津久井、おまえ……」
降矢くんが向ける視線を受けて目を伏せたナギは、固く拳を握っていた。
感情をむき出しにするナギを初めて見た。ナギも怒ることがあるんだ。
ナギから漂う荒々しい気迫に、わたしも降矢くんも言葉を失い、しばらく沈黙が続いた。
降矢くんの言葉を遮った理由が気になる。
でもきっと否定しようとしたんだよね。わたしとは恋愛感情があって一緒にいるんじゃないんだって、そういう意味なんだ。
「千沙希、家まで送る」
しばらくしてナギがようやく声を発した。
まわりを気にしてか、声をひそめている。そういう判断ができるということは、だいぶ落ち着きを取り戻している証拠だ。
「でも部活は?」
「今日はもう終わったよ。軽くミーティングがあるから、一旦戻んなくちゃならないけど」
ナギが降矢くんにチラリと目をやる。視線に気づいた降矢くんが「そっか」とつぶやいた。
「それを知らせに来たのか」
降矢くんが、ナギがいきなりここに現れた理由に納得したように言った。
「それじゃ、津久井、俺は先に行ってるぞ」
降矢くんは遠慮がちに言う。ナギは「ああ」と小さくも力強く頷くと、軽快に走り出した降矢くんを見送った。
とっさに出てきた言葉だった。
「違う? じゃあ、どうしてふたりきりでいるの?」
「それは……」
なんて言い訳すればいいんだろう。わたしと降矢くんの間には、ナギのこと以外に接点がない。
「俺が呼び止めたんだよ」
すかさず降矢くんが間に入ってくれた。けれどナギはわたしの腕を取ると、自分のほうに引っ張った。
「千沙希に近づくなって言っただろう。なんなんだよ? あれから練習だって毎日やってるのに、なんの文句があるんだ?」
珍しくナギが声を荒らげた。
「そうだよな。約束を破った俺が悪かったよ」
降矢くんが柄にもなく沈んだ様子だった。
「今度、千沙希を泣かせたら、ただじゃおかない」
涙はぬぐわれていたが、たぶん目が赤くなっていたんだろう。それで気づいたんだ。
「これは降矢くんのせいじゃないの」
「降矢のせいじゃないなら、なんで泣いてるの?」
「それは……。目にゴミが入ったからで……」
「ああ、なるほどね。それでイチャついてたんだ?」
急にナギが投げやりになる。
「わたし、イチャついてなんてないよ」
涙をぬぐってもらっていたのを誤解しているみたいだった。
ナギの腕を掴み、必死で訴える。
「本当に目にゴミが入ったの。それで痛くて……」
そうじゃないのに。わたしはナギを思って泣いていたのに。
わたしにはナギだけなんだよ。ほかの誰も興味なんてない。
言えないけど。好きと伝えたら、全部失ってしまうような気がして、今は伝える勇気はないけれど、わたしにはナギだけなんだよ。
「けど、いい雰囲気だったよ」
「えっ……?」
氷のように冷たい目。ナギがなにを言おうとしているのかわからないけれど、その目をとても怖いと感じた。
「男なら誰でもいいの? それとも降矢だから? 降矢に興味があるの?」
ちょっと、なにそれ。いくらなんでも……。
「ひどい! そんなわけないじゃない」
そんなふうに思われていたなんて。わたしはナギだけ。男の人はナギにしか心を許していないのに。体だって……。
「まあ、別にいいけど。降矢って格好いいもんね」
「だから違うって言ってるじゃない!」
心配してくれたんじゃないの? 千沙希に近づくなってセリフ、うれしかったのに。
「津久井、俺が言うのもなんだけどさ──」
降矢くんが申し訳なさそうに言う。
「自覚があるなら黙ってて」
「まだなにも言ってねえだろう。だいたい津久井はこいつのなんなんだよ? そんなふうに突っかかってるってことは、おまえ──」
「黙れ!!」
ナギが怒りにまかせて叫び声を上げた。雷が落ちたような衝撃が走り、そして一瞬にして静まりかえった。
まわりにいた下校中の生徒たちが硬直したように立ち止まっていた。
「津久井、おまえ……」
降矢くんが向ける視線を受けて目を伏せたナギは、固く拳を握っていた。
感情をむき出しにするナギを初めて見た。ナギも怒ることがあるんだ。
ナギから漂う荒々しい気迫に、わたしも降矢くんも言葉を失い、しばらく沈黙が続いた。
降矢くんの言葉を遮った理由が気になる。
でもきっと否定しようとしたんだよね。わたしとは恋愛感情があって一緒にいるんじゃないんだって、そういう意味なんだ。
「千沙希、家まで送る」
しばらくしてナギがようやく声を発した。
まわりを気にしてか、声をひそめている。そういう判断ができるということは、だいぶ落ち着きを取り戻している証拠だ。
「でも部活は?」
「今日はもう終わったよ。軽くミーティングがあるから、一旦戻んなくちゃならないけど」
ナギが降矢くんにチラリと目をやる。視線に気づいた降矢くんが「そっか」とつぶやいた。
「それを知らせに来たのか」
降矢くんが、ナギがいきなりここに現れた理由に納得したように言った。
「それじゃ、津久井、俺は先に行ってるぞ」
降矢くんは遠慮がちに言う。ナギは「ああ」と小さくも力強く頷くと、軽快に走り出した降矢くんを見送った。
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