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第四章 絶望のクライ
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赤いキャリーバッグが置かれた近辺には残念ながら防犯カメラがない。さらに、いつ、どうやって赤いキャリーバッグをあの場所に運んだのかも不明だった。
そのため周辺地域を徹底的に聞き込みしてまわったのだが、その際に先のような重要な証言が得られた。
「おそらく事前に付近の空き店舗か空き地にでも赤いキャリーバッグを隠しておいたんだろう。徒歩で運んだか車を使ったのかはわかっていないが、怪しまれることなく持ち込むことは可能だ。夜間であれば、なおさら目立たない。そして当日、犯人は現場に行き、それをセッティングしたと、わたしは考えている」
「へえ、なるほどね。たしかに当日に赤いキャリーバッグを持って歩いていたら、すれ違った誰かがそれを覚えていても不思議じゃない。それを防ぐために事前に仕込んでおいたってことか」
「その通りだ。だが、わたしが引っかかっているのは、雫石くんがマンションに帰宅したのが午後二時半ということ。コンビニからマンションまで五分ほどの距離なのに、どうして帰宅に一時間もかかったんだ?」
「マンションの近くの公園に立ち寄って、そこでコンビニで買ったパンを食べていたからだよ」
けれど、伊央はかすかに顔を引きつらせており、四方堂はその変化を敏感に感じ取った。
刑事の勘というべきか。ほかの者なら見過ごしてしまうほどの微妙な変化であった。
「マンションが目の前にあるのに、わざわざ公園で食べるとは変わっているな」
「気分転換だよ。その日は風が涼しくて気持ちよかったんだ」
落ち着いた様子ですらすらと話す伊央を、四方堂は逆に恐ろしく思えた。
もしこれが嘘ならば、刑事である自分の前でこんなにも堂々と振る舞えるその神経が、高校生にしては図太すぎる。
「もうそろそろ行っていいかな? 遅刻しちゃうから」
「ああ、引きとめて悪かったな」
四方堂は腕時計を見て、これ以上話を聞くことはあきらめた。
伊央がめぐるに向かって「行こう」と声をかける。四方堂はふたりが歩き出すのを黙って見守った。
しかし、五歩ほど歩いたところで伊央が振り向いた。
「僕のことを調べる暇があるんなら、爆発物の模型を作った人間をもっと真剣にさがしなよ。たとえば薬品やネットに詳しくて、手先も器用で、そこそこ暇な人とか。過去の犯罪歴なんかもあらったら? そういう人間って、過去にもなにかしでかしてるよ、きっと。それでそのなかから西城ヶ丘学園とかかわりのある人間を絞り込んだほうが早いと思うけど」
「そうしてみるよ」
そんなのはわかっている! という言葉を飲み込み、四方堂は答えた。
本当に憎たらしい子どもだ。四方堂は頭を掻きむしると、イライラする気持ちを落ち着かせようと、ぼさぼさの髪のままワイシャツのポケットから煙草を取り出した。口にくわえると、ライターで火をつける。と、そこまでの動作をして、ふと思い立った。
該当者がいる!
赤いキャリーバッグの事件後、県内で起きた過去の事件について調べ、三人の人物がピックアップされた。しかし三人とも西城ヶ丘学園の件も含めて事件当日のアリバイがあり、捜査は難航していた。しかし、ひとりだけ西城ヶ丘学園とのつながりがありそうな人物がいたのだ。
蛯名孝伸。
彼は十一年前、爆発物取締罰則違反と火薬類取締法違反容疑で逮捕された。当時、十八歳の高校生だった。
十一年前。郊外の空き地を不審者がうろついていると近所の住民から通報があり、駆けつけた警察官が職務質問をした。所持品も確認したところ、爆発物が見つかり、その後の調べで、製造した爆発物の威力を確認するために空き地にいたということだった。
その威力は小さいものだったが、さらなる捜査で、市内にある施設を爆破する目的でより大きな威力の爆発物を製造しようとしていたと判明。逮捕された。
先日、四方堂は浜口とともに蛯名の自宅を訪ねた。
それまで管理の厳しい父親と同居していたが、今年の四月から2DKのアパートでひとり暮らしをはじめており、その日は二度目の訪問だった。
一度目は赤いキャリーバッグ事件の捜査だった。四方堂はそのときと同様に、玄関先で西城ヶ丘学園の事件当日のアリバイを確認した。
自炊はしていないのか、ダイニングキッチンには冷蔵庫と電子レンジしかなく、食器棚や調理器具は見あたらなかった。代わりに置いてあったのは引っ越し屋のダンボール。六箱ほどが整然と積み重なって置いてあり、あまり生活感は感じられなかった。
しかし、開いていた一番上のダンボールのなかをこっそり覗いたら、写真入りのクッションやTシャツ、缶バッチなどのアイドルグッズが乱雑につめ込まれ、大量のCDも確認できた。昨今はこういったアイドルオタクという人間がいることは四方堂も知っていたので、それほど重要視していなかったが……。
たしか西城ヶ丘学園の生徒にアイドルのメンバーがいたはずだ!
四方堂は急いでスマートフォンを取り出すと画像検索をはじめる。
するとすぐにさがしていた画像が出てきた。ダークブラウンの長い髪の少女。間違いない。この少女は蛯名の部屋にあったアイドルグッズに写っていた少女と同一人物だ。
四方堂は浜口に電話を入れた。
「わかったぞ、浜口。おそらく犯人は蛯名だ。『マカロン☆ハニーガール』というアイドルグループがあるだろう? そのメンバーに西城ヶ丘学園の生徒がいるんだが、その子と蛯名がつながっているはずだ。今すぐ令状をとって蛯名の自宅を家宅捜索だ。俺もすぐ署に戻る」
四方堂は蛯名の部屋にあった少女の写真を見たとき、どこかで見たことがあるとは思ったが、てっきりテレビなどで活躍している有名アイドルだとばかり思っていた。
だが違った。少女は『マカロン☆ハニーガール』のメンバーで、西城ヶ丘学園の生徒である野垣莉々亜だ。
そして蛯名は爆発物の知識だけでなく、昔からITに関しても詳しい。
西城ヶ丘学園に送られたメールの発信元を突き止められなかったのは海外サーバーを経由していたせいなのだが、蛯名ならそんな技を使うのは朝飯前だ。
さらに蛯名は勤めていた自動車整備工場を二ヶ月前に辞め、現在は無職。あり余る時間を使い、精巧な爆発物の模型を作ったのだろう。
蛯名は危険人物だ。本物の爆発物を作った前科があり、すでに新作の爆発物が製造されているかもしれない。一刻も早く、やつを確保する必要がある。
そのため周辺地域を徹底的に聞き込みしてまわったのだが、その際に先のような重要な証言が得られた。
「おそらく事前に付近の空き店舗か空き地にでも赤いキャリーバッグを隠しておいたんだろう。徒歩で運んだか車を使ったのかはわかっていないが、怪しまれることなく持ち込むことは可能だ。夜間であれば、なおさら目立たない。そして当日、犯人は現場に行き、それをセッティングしたと、わたしは考えている」
「へえ、なるほどね。たしかに当日に赤いキャリーバッグを持って歩いていたら、すれ違った誰かがそれを覚えていても不思議じゃない。それを防ぐために事前に仕込んでおいたってことか」
「その通りだ。だが、わたしが引っかかっているのは、雫石くんがマンションに帰宅したのが午後二時半ということ。コンビニからマンションまで五分ほどの距離なのに、どうして帰宅に一時間もかかったんだ?」
「マンションの近くの公園に立ち寄って、そこでコンビニで買ったパンを食べていたからだよ」
けれど、伊央はかすかに顔を引きつらせており、四方堂はその変化を敏感に感じ取った。
刑事の勘というべきか。ほかの者なら見過ごしてしまうほどの微妙な変化であった。
「マンションが目の前にあるのに、わざわざ公園で食べるとは変わっているな」
「気分転換だよ。その日は風が涼しくて気持ちよかったんだ」
落ち着いた様子ですらすらと話す伊央を、四方堂は逆に恐ろしく思えた。
もしこれが嘘ならば、刑事である自分の前でこんなにも堂々と振る舞えるその神経が、高校生にしては図太すぎる。
「もうそろそろ行っていいかな? 遅刻しちゃうから」
「ああ、引きとめて悪かったな」
四方堂は腕時計を見て、これ以上話を聞くことはあきらめた。
伊央がめぐるに向かって「行こう」と声をかける。四方堂はふたりが歩き出すのを黙って見守った。
しかし、五歩ほど歩いたところで伊央が振り向いた。
「僕のことを調べる暇があるんなら、爆発物の模型を作った人間をもっと真剣にさがしなよ。たとえば薬品やネットに詳しくて、手先も器用で、そこそこ暇な人とか。過去の犯罪歴なんかもあらったら? そういう人間って、過去にもなにかしでかしてるよ、きっと。それでそのなかから西城ヶ丘学園とかかわりのある人間を絞り込んだほうが早いと思うけど」
「そうしてみるよ」
そんなのはわかっている! という言葉を飲み込み、四方堂は答えた。
本当に憎たらしい子どもだ。四方堂は頭を掻きむしると、イライラする気持ちを落ち着かせようと、ぼさぼさの髪のままワイシャツのポケットから煙草を取り出した。口にくわえると、ライターで火をつける。と、そこまでの動作をして、ふと思い立った。
該当者がいる!
赤いキャリーバッグの事件後、県内で起きた過去の事件について調べ、三人の人物がピックアップされた。しかし三人とも西城ヶ丘学園の件も含めて事件当日のアリバイがあり、捜査は難航していた。しかし、ひとりだけ西城ヶ丘学園とのつながりがありそうな人物がいたのだ。
蛯名孝伸。
彼は十一年前、爆発物取締罰則違反と火薬類取締法違反容疑で逮捕された。当時、十八歳の高校生だった。
十一年前。郊外の空き地を不審者がうろついていると近所の住民から通報があり、駆けつけた警察官が職務質問をした。所持品も確認したところ、爆発物が見つかり、その後の調べで、製造した爆発物の威力を確認するために空き地にいたということだった。
その威力は小さいものだったが、さらなる捜査で、市内にある施設を爆破する目的でより大きな威力の爆発物を製造しようとしていたと判明。逮捕された。
先日、四方堂は浜口とともに蛯名の自宅を訪ねた。
それまで管理の厳しい父親と同居していたが、今年の四月から2DKのアパートでひとり暮らしをはじめており、その日は二度目の訪問だった。
一度目は赤いキャリーバッグ事件の捜査だった。四方堂はそのときと同様に、玄関先で西城ヶ丘学園の事件当日のアリバイを確認した。
自炊はしていないのか、ダイニングキッチンには冷蔵庫と電子レンジしかなく、食器棚や調理器具は見あたらなかった。代わりに置いてあったのは引っ越し屋のダンボール。六箱ほどが整然と積み重なって置いてあり、あまり生活感は感じられなかった。
しかし、開いていた一番上のダンボールのなかをこっそり覗いたら、写真入りのクッションやTシャツ、缶バッチなどのアイドルグッズが乱雑につめ込まれ、大量のCDも確認できた。昨今はこういったアイドルオタクという人間がいることは四方堂も知っていたので、それほど重要視していなかったが……。
たしか西城ヶ丘学園の生徒にアイドルのメンバーがいたはずだ!
四方堂は急いでスマートフォンを取り出すと画像検索をはじめる。
するとすぐにさがしていた画像が出てきた。ダークブラウンの長い髪の少女。間違いない。この少女は蛯名の部屋にあったアイドルグッズに写っていた少女と同一人物だ。
四方堂は浜口に電話を入れた。
「わかったぞ、浜口。おそらく犯人は蛯名だ。『マカロン☆ハニーガール』というアイドルグループがあるだろう? そのメンバーに西城ヶ丘学園の生徒がいるんだが、その子と蛯名がつながっているはずだ。今すぐ令状をとって蛯名の自宅を家宅捜索だ。俺もすぐ署に戻る」
四方堂は蛯名の部屋にあった少女の写真を見たとき、どこかで見たことがあるとは思ったが、てっきりテレビなどで活躍している有名アイドルだとばかり思っていた。
だが違った。少女は『マカロン☆ハニーガール』のメンバーで、西城ヶ丘学園の生徒である野垣莉々亜だ。
そして蛯名は爆発物の知識だけでなく、昔からITに関しても詳しい。
西城ヶ丘学園に送られたメールの発信元を突き止められなかったのは海外サーバーを経由していたせいなのだが、蛯名ならそんな技を使うのは朝飯前だ。
さらに蛯名は勤めていた自動車整備工場を二ヶ月前に辞め、現在は無職。あり余る時間を使い、精巧な爆発物の模型を作ったのだろう。
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