八月の流星群

さとう涼

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第四章 絶望のクライ

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「昔から記憶力はいいほうなんだが、さすがに君があのときの少女だと気づくまで時間がかかったよ。子どもの成長というものは早いものだな」

 四方堂にも中学生と小学生の娘がいるが、子育てはほとんど妻にまかせきり。一ヶ月近く顔を合わせないこともざらで、今朝久しぶりに家族と朝食を食べた際、急に色気づき、つき合っている彼氏までいた長女に驚くと同時に落ち込んでいたところだった。

「こうして君たちに会えたのはなにかの縁かもしれないな」
「だから疑うんですか?」
「君はともかく、雫石くんはちょっと変わっているんでね。しかしこの間の火事の件は解決したよ」
「……解決? か、火事の原因はなんだったんですか!?」

 四方堂があっさり言うので最初はピンとこなかったが、重大な内容にめぐるは慌てた。

「煙草の火の不始末だったよ」
「やっぱり」

 伊央が煙草のにおいがすると言っていたので、それほど驚きはなかった。

「それで、犯人は捕まったんですか?」
「ああ。放火ではないから逮捕はしていないが。おそらく厳重注意ということになるだろうな」
「誰だったんですか?」
「複数の生徒の目撃証言と……それからある職員の話から三年生の男子生徒だと判明した。本人も認めている」
「学園の生徒……」
「ときどきあの場所で隠れて煙草を吸っていたようだな。興味本位で吸いはじめたが、やめられなくなって困っていたらしい」

 めぐるは呆気にとられ、脱力した。予想していた人物とは違っていた。以前、華耶子が用務員の喫煙を注意したと言っていたので、てっきりその用務員が原因だと思っていた。

「今回の火事はおそらく爆発物騒動とは無関係だろう。彼にはそういった専門的な知識はないようだったし、自宅からも関連するものはなにも出てこなかった。火事のことで事情聴取したときも彼はひどく脅えていた。そんなやつにあんな大それたことはできない。あの二件の爆発物騒動は、世間へのアピールであり、警察への挑戦でもある。自己顕示欲が強くて、ひどくゆがんだ精神の持ち主だよ」

 四方堂は饒舌に語った。めぐるが聞いていない情報までもあっさりとくれた。

 しかし警察がそういった情報を一個人ににベラベラと話してもいいのだろうか。
 今聞いたことをクラスメイトに話し、学園どころか世間にまで広まってしまうことを四方堂が想像できないわけがない。これはなにか魂胆があるのではないかとめぐるはいぶかった。

「ところで、雫石くんのことなんだが……」

 案の定、四方堂が再び口を開き、思った通りだとめぐるは警戒心のバリアを張った。

「それ以上、めぐるに近づいたら許さない」

 地を這うような声が聞こえたのは、四方堂がめぐるに向かって一歩踏み出したときだった。肩で息をした伊央が怒りを込めた瞳を四方堂に向けていた。

「おおっと、時間切れか。だけど、わたしもそろそろ出勤の時刻だ」
「それは嘘だね。あんたはめぐるをおとりにして、僕を待ってた。めぐるがいれば、僕を足止めできると思ったんだろう?」

 だが四方堂はたいして驚きもせず、落ち着きはらって、こう答えた。

「さすが雫石くん。わかっているなら話が早い。どうだい? 今度ゆっくり話でもしないか?」
「なんのため?」
「雫石くんのことならなんでも知りたいんだ。たとえば、どんなふうに育って、どんなことに興味を持っているのか」
「僕の生い立ちをさぐって、どんなふうに爆発物を作るサイコパスになったかを突き止めたいってこと?」
「そうは言ってない」
「はっきり言いなよ。あんたは僕のなにを疑っているの?」

 やはりこの子は普通じゃないと四方堂は感じた。自分の娘と比較しても、伊央の洞察力や勘の鋭さは目を見張るものがあり、言葉を濁しても彼は人の心の奥まで目を凝らし、本性をさぐりだす才能があるのだ。

「わかったよ。なら質問させてもらう。六月三十日の午後一時半から午後二時半まで、雫石くんはどこでなにをしていたんだい?」

 六月三十日というのは、駅前に不審な赤いキャリーバッグが置かれていた日のこと。西城ヶ丘学園で起きた爆発物騒動の捜査が行き詰まりをみせており、四方堂はその四日前に起きた赤いキャリーバッグの件について捜査していた。

「六月三十日? でもその日の僕の行動については、どうせ調べはついているんだろう?」
「ああ。午後一時半、駅前のコンビニで買い物をし、店を出ていく雫石くんが店内の防犯カメラに映っていた。その直後、近くの防犯カメラも雫石くんが歩いている様子をとらえている。それからマンションのエントランスのカメラ映像も管理人に見せてもらったが、雫石くんが帰宅していることを確認できた」
「そこまでわかっているなら、わざわざ僕に聞かなくてもいいよね。僕の住むマンションは駅から歩いて五分のところにあるんだから、駅前にいたって不思議じゃない。そうそう、ついでに教えてあげる。僕が通ったとき、あそこに赤いキャリーバッグはなかったよ。僕が通ったあとに置かれたんだと思う」
「それは目撃証言と一致するな。あのエリアを担当している宅配業者が言うには、午後一時半にはなかった赤いキャリーバッグが午後二時半には置いてあったらしい。つまりその一時間の間に置かれたということだ」
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