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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福
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風のない市街地は夏の日射しとアスファルトの照り返しに加え、車の排気ガスで息苦しく感じる。電車を降り、駅構内を出ためぐるは不快感にげんなりした。
伊央の住んでいるマンションは駅から徒歩五分ほどのところにある、二十六階建てのいわゆるタワーマンション。都会には四十階や五十階のマンションがいくつもあるが、このM市には二十階以上のマンションはこの一棟しかない。
めぐるはマンションの前まで来ると、大きく息を吸った。
見あげるほどの建物はいつも遠くから眺めていた。この街は高層ビルが少ないので、めぐるの家のベランダからもこのマンションがよく見えるのだ。
「いったいいくらするんだろう」
思わずつぶやいてしまうほど、豪華なマンションだった。完成して一年も経っていない。エントランス、外壁、ベランダ、目につくところすべてがめぐるには輝いて見えた。
ところで伊央はスマートフォンを持っておらず、連絡手段がない。おまけに部屋番号もわからない。当然めぐるはオートロックマンションの共用玄関の前で右往左往する羽目になり、大量の汗が背中や顔にふき出していた。
「当マンションになにか御用でしょうか?」
声をかけてきたのはマンションに常駐しているコンシェルジュだった。
真っ赤な顔をしためぐるを心配したのだろう。紺色の制服を着たやさしそうな女性がにっこりと笑顔を作っている。
「と、友達に会いにきたんですけど、部屋番号がわからなくて……」
「お名前を教えていただければ、こちらでお取次ぎしますよ」
「いいんですか!?」
「ええ」
親切な人でよかったと安堵し、めぐるは伊央の名前と自分の名前を教える。コンシェルジュは「なかへどうぞ」とエントランスに案内してくれた。
一階はまるでホテルのラウンジのようだった。
大きくて高級そうなソファがずらりと並び、壁際の半円のガラステーブルに置かれた花瓶には赤や黄色の鮮やかな花が生けてある。
コンシェルジュはフロントの電話機で伊央の部屋を呼び出してくれた。だが受話器を置いたコンシェルジュの顔は思わしくない。
「申し訳ありません。雫石様はお留守のようです」
「……そ、そうですか」
「ご伝言があればお伺いしますが」
「じゃあお願いします」
おそらく伊央は居留守を使っているのだろう。コンシェルジュは電話口でたしかに誰かと話していた。伊央の父親が在宅中だったのかもしれないが、だったらなおさら面識のある自分に会うことなく追い返すことはしないような気がした。
めぐるはメモ用紙にメッセージを書き残すと、コンシェルジュにそれを託した。
「よろしくお願いします」
両手でメモ用紙を渡し、頭をさげる。
「はい、たしかにお預かりいたしました」
最後にもう一度頭をさげると、めぐるはうしろ髪を引かれる思いでマンションを出ていった。
伊央の住んでいるマンションは駅から徒歩五分ほどのところにある、二十六階建てのいわゆるタワーマンション。都会には四十階や五十階のマンションがいくつもあるが、このM市には二十階以上のマンションはこの一棟しかない。
めぐるはマンションの前まで来ると、大きく息を吸った。
見あげるほどの建物はいつも遠くから眺めていた。この街は高層ビルが少ないので、めぐるの家のベランダからもこのマンションがよく見えるのだ。
「いったいいくらするんだろう」
思わずつぶやいてしまうほど、豪華なマンションだった。完成して一年も経っていない。エントランス、外壁、ベランダ、目につくところすべてがめぐるには輝いて見えた。
ところで伊央はスマートフォンを持っておらず、連絡手段がない。おまけに部屋番号もわからない。当然めぐるはオートロックマンションの共用玄関の前で右往左往する羽目になり、大量の汗が背中や顔にふき出していた。
「当マンションになにか御用でしょうか?」
声をかけてきたのはマンションに常駐しているコンシェルジュだった。
真っ赤な顔をしためぐるを心配したのだろう。紺色の制服を着たやさしそうな女性がにっこりと笑顔を作っている。
「と、友達に会いにきたんですけど、部屋番号がわからなくて……」
「お名前を教えていただければ、こちらでお取次ぎしますよ」
「いいんですか!?」
「ええ」
親切な人でよかったと安堵し、めぐるは伊央の名前と自分の名前を教える。コンシェルジュは「なかへどうぞ」とエントランスに案内してくれた。
一階はまるでホテルのラウンジのようだった。
大きくて高級そうなソファがずらりと並び、壁際の半円のガラステーブルに置かれた花瓶には赤や黄色の鮮やかな花が生けてある。
コンシェルジュはフロントの電話機で伊央の部屋を呼び出してくれた。だが受話器を置いたコンシェルジュの顔は思わしくない。
「申し訳ありません。雫石様はお留守のようです」
「……そ、そうですか」
「ご伝言があればお伺いしますが」
「じゃあお願いします」
おそらく伊央は居留守を使っているのだろう。コンシェルジュは電話口でたしかに誰かと話していた。伊央の父親が在宅中だったのかもしれないが、だったらなおさら面識のある自分に会うことなく追い返すことはしないような気がした。
めぐるはメモ用紙にメッセージを書き残すと、コンシェルジュにそれを託した。
「よろしくお願いします」
両手でメモ用紙を渡し、頭をさげる。
「はい、たしかにお預かりいたしました」
最後にもう一度頭をさげると、めぐるはうしろ髪を引かれる思いでマンションを出ていった。
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