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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福
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筧と華耶子がポンポンと会話を交わすのを、めぐるは気恥ずかしい気持ちで眺めていた。
やはりこのふたりは恋人同士なのだろうか。教師と生徒という関係にしては距離感を近く感じる。
「高比良さん、大丈夫?」
めぐるが落ち込んでいるように見えたようだ。華耶子が心配そうに言った。
「如月先輩と筧先生って、仲がいいんだなあと思いまして」
ずっと気になっていたことなので、つい直球的に質問してしまった。
「第三者から見たら、そんなふうに見えるのね。でもそれは誤解よ。筧先生とわたしは前からの知り合いというか、わたしが中一のときの水泳の専属コーチなの」
華耶子は意外にも気負いなく答えた。
「水泳の専属コーチ?」
「わたし、小三のときに海で溺れて以来、泳げなくなっちゃったの。それで中一の夏休みに水泳の特訓を受けることになったんだけど、そのコーチが筧先生。きっかけは筧先生が西城ヶ丘学園に教育実習に来たときに、父が筧先生を気に入っちゃって。ほら、この人ってやたら愛想がいいでしょう。高校のときにインターハイに行けるほどの実力だったと聞いて、それが決め手で父が勝手にお願いしたの」
「え? 筧先生って水泳部だったんですか?」
美大出身なので、てっきり高校時代から美術部一筋かと思っていた。
「こう見えても小学生のときから水泳少年だったんだよ。だけど高一のとき、インターハイ直前に交通事故で両足を骨折して入院。そのまま水泳部を辞めた。ついでに不登校になって留年して、翌年一年生をやり直したんだよ」
「留年していたとは知りませんでした。意外に苦労してるんですね」
「あの頃の俺は水泳がすべてだったから、それを奪われてほぼ抜け殻状態だったんだよ。そんなときに担任が毎日のように家に来てくれた。担当教科が美術なもんだから、絵を描くことをすすめてくれたんだ。最初は仕方なくだったけど、あまりにも熱心に教えてくれるものだから、俺もまじめに描くようになったんだよ」
めぐるは感動的な話にうっとりと聞き入っていた。
一方、華耶子は小さくため息をついている。
「それで筧先生も美術の先生を目指そうと思ったんですね」
「そう。あの先生のおかげで今の俺があると言っても過言ではないな。『筧くんは芸術の才能があるわ』なんて言われて、舞いあがってたよ。夏休みに教室の窓からふたりきりで花火を見たり、美術室で一緒に先生の手作りクッキーを食べたり。楽しかったなあ」
「えっ、女の先生だったんですか?」
なんてピュアでいい話だと思っていたら、どうもそうでもないらしい。
「ね? 聞かないほうがよかったでしょう?」
華耶子があきれていた理由がわかり、めぐるも軽く脱力。さらに華耶子は驚くべき事実を補足した。
「ちなみにその美術教師とは泣く泣くお別れして、彼女はその後に知り合った男性と翌年に結婚。それから旦那さんの転勤についていくために学園を辞めたんですよね? 筧先生?」
「そんなことまで話したっけ?」
「ええ。当時わたしは中一でしたので、多少衝撃はありましたけど」
「言っとくが、不適切な関係ではなかったからな。先生はあくまでも俺を立ち直らせようと思って気にかけてくれただけなんだ」
筧は必死に言い訳するが、それが本当だとして、めぐるのなかにはモヤモヤが残る。他人のそういうことは生々しくて、華耶子の言う通り、できれば知らないままのほうがよかった。
ただ、気楽に生きているように見えても、過去や抱えているものは必ずしも明るいものではないというのはわかった。
人は表面だけを見て、この人はこんな人だと決めつけてはいけないのかもしれない。内面を知られるのを恐れ、自分を偽る人間はきっと多い。
莉々亜もそのひとりだった。伊央も同じだ。恐怖心を虚栄心に変えて、本当の自分を隠し続けて生きてきた。
めぐるは華耶子から預かった茶封筒を大切に抱える。これを渡すためにすぐに伊央に会いにいこうと思った。
やはりこのふたりは恋人同士なのだろうか。教師と生徒という関係にしては距離感を近く感じる。
「高比良さん、大丈夫?」
めぐるが落ち込んでいるように見えたようだ。華耶子が心配そうに言った。
「如月先輩と筧先生って、仲がいいんだなあと思いまして」
ずっと気になっていたことなので、つい直球的に質問してしまった。
「第三者から見たら、そんなふうに見えるのね。でもそれは誤解よ。筧先生とわたしは前からの知り合いというか、わたしが中一のときの水泳の専属コーチなの」
華耶子は意外にも気負いなく答えた。
「水泳の専属コーチ?」
「わたし、小三のときに海で溺れて以来、泳げなくなっちゃったの。それで中一の夏休みに水泳の特訓を受けることになったんだけど、そのコーチが筧先生。きっかけは筧先生が西城ヶ丘学園に教育実習に来たときに、父が筧先生を気に入っちゃって。ほら、この人ってやたら愛想がいいでしょう。高校のときにインターハイに行けるほどの実力だったと聞いて、それが決め手で父が勝手にお願いしたの」
「え? 筧先生って水泳部だったんですか?」
美大出身なので、てっきり高校時代から美術部一筋かと思っていた。
「こう見えても小学生のときから水泳少年だったんだよ。だけど高一のとき、インターハイ直前に交通事故で両足を骨折して入院。そのまま水泳部を辞めた。ついでに不登校になって留年して、翌年一年生をやり直したんだよ」
「留年していたとは知りませんでした。意外に苦労してるんですね」
「あの頃の俺は水泳がすべてだったから、それを奪われてほぼ抜け殻状態だったんだよ。そんなときに担任が毎日のように家に来てくれた。担当教科が美術なもんだから、絵を描くことをすすめてくれたんだ。最初は仕方なくだったけど、あまりにも熱心に教えてくれるものだから、俺もまじめに描くようになったんだよ」
めぐるは感動的な話にうっとりと聞き入っていた。
一方、華耶子は小さくため息をついている。
「それで筧先生も美術の先生を目指そうと思ったんですね」
「そう。あの先生のおかげで今の俺があると言っても過言ではないな。『筧くんは芸術の才能があるわ』なんて言われて、舞いあがってたよ。夏休みに教室の窓からふたりきりで花火を見たり、美術室で一緒に先生の手作りクッキーを食べたり。楽しかったなあ」
「えっ、女の先生だったんですか?」
なんてピュアでいい話だと思っていたら、どうもそうでもないらしい。
「ね? 聞かないほうがよかったでしょう?」
華耶子があきれていた理由がわかり、めぐるも軽く脱力。さらに華耶子は驚くべき事実を補足した。
「ちなみにその美術教師とは泣く泣くお別れして、彼女はその後に知り合った男性と翌年に結婚。それから旦那さんの転勤についていくために学園を辞めたんですよね? 筧先生?」
「そんなことまで話したっけ?」
「ええ。当時わたしは中一でしたので、多少衝撃はありましたけど」
「言っとくが、不適切な関係ではなかったからな。先生はあくまでも俺を立ち直らせようと思って気にかけてくれただけなんだ」
筧は必死に言い訳するが、それが本当だとして、めぐるのなかにはモヤモヤが残る。他人のそういうことは生々しくて、華耶子の言う通り、できれば知らないままのほうがよかった。
ただ、気楽に生きているように見えても、過去や抱えているものは必ずしも明るいものではないというのはわかった。
人は表面だけを見て、この人はこんな人だと決めつけてはいけないのかもしれない。内面を知られるのを恐れ、自分を偽る人間はきっと多い。
莉々亜もそのひとりだった。伊央も同じだ。恐怖心を虚栄心に変えて、本当の自分を隠し続けて生きてきた。
めぐるは華耶子から預かった茶封筒を大切に抱える。これを渡すためにすぐに伊央に会いにいこうと思った。
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