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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福
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「それでなんだが、高比良。今回のことは、野垣がアイドルとして有名になりたくてやったことみたいなんだが、あいつはそんなに追いつめられていたのかな? 高比良は仲がよかったみたいだし、どうだったんだろうと思って」
めぐるは胸を衝かれ、一気に沈んだ表情になった。
「わたしも最近になって、あの子がいろいろ悩んでいたことを知りました……」
もっと真剣に話を聞いていればよかった、仕事の応援をしてやればよかった。今になると思うことがいろいろとある。
もちろん耳を傾けたところで、莉々亜があんな大それたことをしなかったとは限らない。
それでも……とそこまで考えて、めぐるはハッとした。
自分の傲慢な考えに吐き気がした。莉々亜が逮捕されてから、彼女のことをまともに考えることもなかったというのに。
「わたしは莉々亜の友達とはいえないです。あの子が深刻な悩みを抱えていたことに気づけませんでした」
「悪い、高比良に責任を感じさせるつもりはなかったんだ。それを言うなら俺のほうが教師として力不足だったと思う」
筧にとって莉々亜のことは大きな衝撃だった。筧としては、生徒とのコミュニケーションはうまく図れていたと思っていたし、日々のなかでも生徒のことを気にかけていたつもりだった。
それなのに莉々亜の異変にまったく気づくことができなかった。教師として無念だった。もっと深く、慎重に向き合っていればよかったと後悔していた。
しかし、そんなふたりの考えに、華耶子は真っ向から異議を唱えた。
「ふたりともどうして自分のことを責めるの? 悪いのは野垣さんでしょう? あの子が欲に負けて自滅しただけ。有名になりたいからって、普通あんなことしない。身勝手にもほどがあるよ」
めぐるはその言葉を噛みしめた。
たしかに莉々亜は自分本位すぎた。十六歳といっても善悪の区別はつくものだ。けれど見方を変えれば、そこまで追いつめられていたということになるわけで、だったらなぜ気づけなかったのだろうと、やはり悔しい気持ちになる。
「……なにも聞こえなかった」
「なにが?」
「あっ、いいえ。なんでもありません」
華耶子にたずねられ、めぐるは慌てて首を振る。
つい伊央のときと比べてしまった。
伊央の場合は勝手に声が耳に入ってきたが、それは至極特別なことで、人の心はやはり難しいものだと改めて思った。
表面だけ見ていてはわからない。しっかり者の楽天家に見えてもその内側はまだまだ未熟で、そこにつけ込んだ悪魔が小さなほころびから侵入した。結果、夢が粉々に砕け、人生もめちゃくちゃになり、莉々亜は絶望の淵に突き落とされてしまった。
「『テロなんかに負けません!』か……。あのとき野垣はどんな気持ちで言ったんだろうな」
筧がさみしそうに言う。
「ネットでは『テロ』じゃなくて、呉羽美々に向けた言葉だと言われてますけどね」
華耶子が筧のしんみりとした心情をさらりと打ち破る。
「呉羽美々って、野垣と仲がよかったっていう?」
「仲がよかっただなんて、そんなの呉羽美々の見え透いた嘘ですよ。あのふたりは友達でもなんでもなくて、単にSNSでつながっていただけ。クリックひとつで友達から赤の他人になれる関係です。呉羽美々が一時期、自分のSNSへの悪質コメントで悩まされていたそうなんですけど、野垣さんが逮捕されて以降、そういう書き込みがなくなったものだから、犯人は野垣さんじゃないかって、ネット上ではもっぱらのうわさです」
真偽のほどは不明だが、ネットではすでに検証を終えている。
莉々亜のSNSや動画をもとに彼女の言葉の癖を分析したネットユーザーたちが、呉羽美々のSNSへの悪質な書き込みは莉々亜であると結論づけていた。
しかしそれを証明する術はネットユーザーにはない。あくまでも推測だ。
「もしそれが本当なら、野垣の気持ち、なんかわかるな。オーディションで一緒だった子が今やスター街道まっしぐらだもんな。しかも初めてのオーディションで優勝って、どんだけついてんだよ」
「筧先生も似たような経験があるんですか? 美大の同級生が今や有名な芸術家とか?」
「あたり。建築家やデザイナー、イラストレーターとして活躍しているやつを見てるとちょっとうらやましいと思うな。もちろん、俺は教師になったことは後悔してないよ。昔からの夢でもあったしな」
「筧先生って昔からチャラくて軽い印象ですけど、意外にまじめで堅実ですよね」
「そんなにチャラいか? 教師になってからは、服装も髪型も気を使っているんだけどな」
「見た目のことじゃないですよ。なんていうか醸し出す雰囲気がそうなんです。まあ、そういうところが女子に人気の秘訣なんでしょうけど」
めぐるは胸を衝かれ、一気に沈んだ表情になった。
「わたしも最近になって、あの子がいろいろ悩んでいたことを知りました……」
もっと真剣に話を聞いていればよかった、仕事の応援をしてやればよかった。今になると思うことがいろいろとある。
もちろん耳を傾けたところで、莉々亜があんな大それたことをしなかったとは限らない。
それでも……とそこまで考えて、めぐるはハッとした。
自分の傲慢な考えに吐き気がした。莉々亜が逮捕されてから、彼女のことをまともに考えることもなかったというのに。
「わたしは莉々亜の友達とはいえないです。あの子が深刻な悩みを抱えていたことに気づけませんでした」
「悪い、高比良に責任を感じさせるつもりはなかったんだ。それを言うなら俺のほうが教師として力不足だったと思う」
筧にとって莉々亜のことは大きな衝撃だった。筧としては、生徒とのコミュニケーションはうまく図れていたと思っていたし、日々のなかでも生徒のことを気にかけていたつもりだった。
それなのに莉々亜の異変にまったく気づくことができなかった。教師として無念だった。もっと深く、慎重に向き合っていればよかったと後悔していた。
しかし、そんなふたりの考えに、華耶子は真っ向から異議を唱えた。
「ふたりともどうして自分のことを責めるの? 悪いのは野垣さんでしょう? あの子が欲に負けて自滅しただけ。有名になりたいからって、普通あんなことしない。身勝手にもほどがあるよ」
めぐるはその言葉を噛みしめた。
たしかに莉々亜は自分本位すぎた。十六歳といっても善悪の区別はつくものだ。けれど見方を変えれば、そこまで追いつめられていたということになるわけで、だったらなぜ気づけなかったのだろうと、やはり悔しい気持ちになる。
「……なにも聞こえなかった」
「なにが?」
「あっ、いいえ。なんでもありません」
華耶子にたずねられ、めぐるは慌てて首を振る。
つい伊央のときと比べてしまった。
伊央の場合は勝手に声が耳に入ってきたが、それは至極特別なことで、人の心はやはり難しいものだと改めて思った。
表面だけ見ていてはわからない。しっかり者の楽天家に見えてもその内側はまだまだ未熟で、そこにつけ込んだ悪魔が小さなほころびから侵入した。結果、夢が粉々に砕け、人生もめちゃくちゃになり、莉々亜は絶望の淵に突き落とされてしまった。
「『テロなんかに負けません!』か……。あのとき野垣はどんな気持ちで言ったんだろうな」
筧がさみしそうに言う。
「ネットでは『テロ』じゃなくて、呉羽美々に向けた言葉だと言われてますけどね」
華耶子が筧のしんみりとした心情をさらりと打ち破る。
「呉羽美々って、野垣と仲がよかったっていう?」
「仲がよかっただなんて、そんなの呉羽美々の見え透いた嘘ですよ。あのふたりは友達でもなんでもなくて、単にSNSでつながっていただけ。クリックひとつで友達から赤の他人になれる関係です。呉羽美々が一時期、自分のSNSへの悪質コメントで悩まされていたそうなんですけど、野垣さんが逮捕されて以降、そういう書き込みがなくなったものだから、犯人は野垣さんじゃないかって、ネット上ではもっぱらのうわさです」
真偽のほどは不明だが、ネットではすでに検証を終えている。
莉々亜のSNSや動画をもとに彼女の言葉の癖を分析したネットユーザーたちが、呉羽美々のSNSへの悪質な書き込みは莉々亜であると結論づけていた。
しかしそれを証明する術はネットユーザーにはない。あくまでも推測だ。
「もしそれが本当なら、野垣の気持ち、なんかわかるな。オーディションで一緒だった子が今やスター街道まっしぐらだもんな。しかも初めてのオーディションで優勝って、どんだけついてんだよ」
「筧先生も似たような経験があるんですか? 美大の同級生が今や有名な芸術家とか?」
「あたり。建築家やデザイナー、イラストレーターとして活躍しているやつを見てるとちょっとうらやましいと思うな。もちろん、俺は教師になったことは後悔してないよ。昔からの夢でもあったしな」
「筧先生って昔からチャラくて軽い印象ですけど、意外にまじめで堅実ですよね」
「そんなにチャラいか? 教師になってからは、服装も髪型も気を使っているんだけどな」
「見た目のことじゃないですよ。なんていうか醸し出す雰囲気がそうなんです。まあ、そういうところが女子に人気の秘訣なんでしょうけど」
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