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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福
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爆発物騒動から約一ヶ月、莉々亜が逮捕されて二十一日が経過していた。
莉々亜ををたたくことに飽きた世間はとっくに次のターゲットを見つけていた。
女性芸能人の不倫出産、子どもへの凄惨な虐待、出会い系サイト関連の誘拐監禁、少女による美人局など、ありとあらゆることが毎日のように槍玉にあげられ、メディアやネット民による私刑は、相変わらず定期的に執行されている。
それと同時に過ぎていく日常。学園を揺るがすほどの出来事があっても、生徒たちの毎日は淡々と訪れては過ぎていった。
めぐるは今日もいつも通りの時間に登校していた。
西城ヶ丘学園は夏休み中だが、七月いっぱいは午前中に課外授業があるためだ。しかし、その課外授業も今日まで。明日から八月に入る。短い期間だが、完全な自由時間のはじまりだ。
昨日も伊央は学校に来なかった。今日も来ていない。といっても塾に通っている生徒も少なくないので、めぐるのクラスも三分の一の生徒が課外授業を欠席していた。そのため伊央を気にかける者はいない。
初日からなんとなく伊央は課外授業には出ないつもりなのだと感じていた。
別に強制ではないし、欠席しても怒られることはないので問題はない。だが一度学校から足が遠のくと、それがずっと続いて、夏休みが明けても登校してこないのではないかと心配だった。
昼過ぎ。課外授業が終わり、クラスメイトたちがそれぞれ教室を出ていく。
一方、教室の片隅では部活のある何人かがグループで弁当を広げていた。
「高比良さん、生徒会長が呼んでるよ」
「わかった。ありがとう」
帰り支度をしていためぐるはクラスメイトに言われ、出入り口のほうを見る。廊下に華耶子が立っていた。
スラッとした出で立ちはいつ見てもきれいで大人びている。その姿に魅入られた人間がちらちらと華耶子を見ては通り過ぎていった。
「どうしたんですか?」
「御影理事長から預かりものがあるの。これを高比良さんから雫石くんに渡してほしいって」
そう言って華耶子はA5サイズのクッション材のついた茶封筒を差し出した。受け取ると、手触りは固く、形状は細長い。封がしてあるため中身は確認できなかった。
「なにが入っているのか、聞いてもいいですか?」
「ICレコーダーだそうよ」
「なんでわたしに?」
「あなたからじゃないと、雫石くんは受け取らないだろうからって。御影理事長から雫石くんについてだいたいのことは聞いたわ。尚央おじさんによく似ていたから、初めて会ったときもまさかとは思ったんだけど。本当に息子だったのね」
華耶子と伊央はいとこ同士になる。ふたりはそれほど似ていないが、どこか日本人離れした顔立ちは一緒だ。
「如月先輩って外国の血が混ざっているんですか?」
「急になにを言うの?」
「なんとなくそんな感じがしたので。伊央もそうなんですよね。色白だし、瞳の色も髪の色も日本人とは違うような気がするんです」
「その通りよ。だってわたしはクォーターだもの。母方の祖母がロシア人なの」
つまり御影理事長の妻がロシア人ということで、伊央もクォーターなのだ。
どうりで、とめぐるは納得した。本当に伊央は御影尚央の息子なのだ。
「あっ、高比良。よかった、まだいて。少しいいか?」
廊下で華耶子と立ち話をしているところへ筧が歩み寄ってきた。
筧は美術教師なので課外授業は行っていない。おそらく授業が終わるのを待って教室まで来たのだろう。
「伊央のことですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
筧は華耶子に視線を移す。
「わたしのことなら気にしないでください。誰にも言いませんから」
華耶子は自分が同席することはさも当然のことのように言う。困惑する筧だったが、いずれ華耶子の耳にも入ることなので話を続けた。
「野垣のことなんだが……」
「莉々亜がどうかしました? あの子、今どうしているんですか?」
「今は自宅にいるんだけど、だいぶ憔悴しているよ。弁護士の話では、事件はすべて蛯名の計画らしい。野垣は爆発物の製造にも関与していないから、家庭裁判所の判断で少年審判の裁判は回避される可能性もあるそうだ。そうなったら、処分はされないから、もとの生活に戻れるよ」
「よかったあ」
めぐるの頭のなかでは少年院に収監される莉々亜が浮かんでいたが、ひとまず安心だ。
莉々亜ををたたくことに飽きた世間はとっくに次のターゲットを見つけていた。
女性芸能人の不倫出産、子どもへの凄惨な虐待、出会い系サイト関連の誘拐監禁、少女による美人局など、ありとあらゆることが毎日のように槍玉にあげられ、メディアやネット民による私刑は、相変わらず定期的に執行されている。
それと同時に過ぎていく日常。学園を揺るがすほどの出来事があっても、生徒たちの毎日は淡々と訪れては過ぎていった。
めぐるは今日もいつも通りの時間に登校していた。
西城ヶ丘学園は夏休み中だが、七月いっぱいは午前中に課外授業があるためだ。しかし、その課外授業も今日まで。明日から八月に入る。短い期間だが、完全な自由時間のはじまりだ。
昨日も伊央は学校に来なかった。今日も来ていない。といっても塾に通っている生徒も少なくないので、めぐるのクラスも三分の一の生徒が課外授業を欠席していた。そのため伊央を気にかける者はいない。
初日からなんとなく伊央は課外授業には出ないつもりなのだと感じていた。
別に強制ではないし、欠席しても怒られることはないので問題はない。だが一度学校から足が遠のくと、それがずっと続いて、夏休みが明けても登校してこないのではないかと心配だった。
昼過ぎ。課外授業が終わり、クラスメイトたちがそれぞれ教室を出ていく。
一方、教室の片隅では部活のある何人かがグループで弁当を広げていた。
「高比良さん、生徒会長が呼んでるよ」
「わかった。ありがとう」
帰り支度をしていためぐるはクラスメイトに言われ、出入り口のほうを見る。廊下に華耶子が立っていた。
スラッとした出で立ちはいつ見てもきれいで大人びている。その姿に魅入られた人間がちらちらと華耶子を見ては通り過ぎていった。
「どうしたんですか?」
「御影理事長から預かりものがあるの。これを高比良さんから雫石くんに渡してほしいって」
そう言って華耶子はA5サイズのクッション材のついた茶封筒を差し出した。受け取ると、手触りは固く、形状は細長い。封がしてあるため中身は確認できなかった。
「なにが入っているのか、聞いてもいいですか?」
「ICレコーダーだそうよ」
「なんでわたしに?」
「あなたからじゃないと、雫石くんは受け取らないだろうからって。御影理事長から雫石くんについてだいたいのことは聞いたわ。尚央おじさんによく似ていたから、初めて会ったときもまさかとは思ったんだけど。本当に息子だったのね」
華耶子と伊央はいとこ同士になる。ふたりはそれほど似ていないが、どこか日本人離れした顔立ちは一緒だ。
「如月先輩って外国の血が混ざっているんですか?」
「急になにを言うの?」
「なんとなくそんな感じがしたので。伊央もそうなんですよね。色白だし、瞳の色も髪の色も日本人とは違うような気がするんです」
「その通りよ。だってわたしはクォーターだもの。母方の祖母がロシア人なの」
つまり御影理事長の妻がロシア人ということで、伊央もクォーターなのだ。
どうりで、とめぐるは納得した。本当に伊央は御影尚央の息子なのだ。
「あっ、高比良。よかった、まだいて。少しいいか?」
廊下で華耶子と立ち話をしているところへ筧が歩み寄ってきた。
筧は美術教師なので課外授業は行っていない。おそらく授業が終わるのを待って教室まで来たのだろう。
「伊央のことですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
筧は華耶子に視線を移す。
「わたしのことなら気にしないでください。誰にも言いませんから」
華耶子は自分が同席することはさも当然のことのように言う。困惑する筧だったが、いずれ華耶子の耳にも入ることなので話を続けた。
「野垣のことなんだが……」
「莉々亜がどうかしました? あの子、今どうしているんですか?」
「今は自宅にいるんだけど、だいぶ憔悴しているよ。弁護士の話では、事件はすべて蛯名の計画らしい。野垣は爆発物の製造にも関与していないから、家庭裁判所の判断で少年審判の裁判は回避される可能性もあるそうだ。そうなったら、処分はされないから、もとの生活に戻れるよ」
「よかったあ」
めぐるの頭のなかでは少年院に収監される莉々亜が浮かんでいたが、ひとまず安心だ。
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