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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福
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【僕のこの声が伊央に届くのかわからないけど、僕の時間は残り少ないみたいだから、どうしても残しておきたかった。
まずは謝りたい。これまでなにもできなくてごめん。『ごめん』という言葉はなんて薄っぺらいんだと自分でも思うけど、今の僕にできるのは謝ることしかないんだ。
僕はもうすぐ死ぬ。
本当はアメリカにいる伊央に会いにいきたかったけど、それもできそうにない。
だけど、会いにいっても伊央は混乱するだろうから、会いにいかなくて正解なのかもしれない。
んー、でもやっぱり会いたかったよ。一度でいい、抱きしめたかった。玲奈もそう思っているはず。
あっ、玲奈というのは伊央のお母さんのことだよ。『伊央』と名づけたのも玲奈なんだ。日ごと大きくなっていくお腹に大事そうに触れて、早く会いたいとやさしい声で言っていたんだ。
伊央が成長した姿を見たかっただろうなあ。僕もこの目で見たかった。写真だけじゃ、足りない。
伊央を育ててくれた雫石さんには感謝してもしきれないよ。
僕たちの子どもに玲奈の希望通り、『伊央』と名づけて出生届を提出してくれて、施設からも引き取ってくれた。男手ひとつで愛情をそそいでくれていると聞いて心から安心したよ。
伊央は今幸せかな? 左手に障がいがあるんだってな。そのことで、いじめられてないか? もしそうなら、なにもできない自分に腹が立つよ。
だけどどうか乗り越えてほしい。どうしようもなくつらいときは玲奈のことを思い出してほしい。
玲奈は伊央をひとりきりで産んだんだよ。これは人づてに聞いたことなんだけど……。
日課にしていた夕方の散歩中に破水してしまって、産院に行く途中のひと気のない原っぱで伊央を産んだそうなんだ。怖かったと思う。だけど産後フラフラの状態で、玲奈は産まれたばかりの伊央を抱いて、産院まで必死に歩いた。伊央の命を守るために。
僕には想像がつかない。どれだけ大変だっただろう。いや、大変どころじゃないよな。だって玲奈は命がけだったんだ。
そうやって玲奈の命は伊央に受け継がれたんだよ。
だから伊央、自分を大切にするんだぞ。どんなに苦しいことがあっても、いつも未来を見つめていてほしいんだ。自分を信じて、未来を信じて、自分の道を進んでいってほしい。そして、どうか……どうか、幸せになってほしい】
病床で録音されたのだろう。声は少しかすれ、メッセージの最後のほうは振り絞るような声だった。
病気で体力が落ち、声を出すのも大変なようだった。それでもゆっくりと紡ぎ出される言葉は愛にあふれている。
初めて聞く実の父親の肉声に、伊央は目を閉じ、息遣いのひとつも聞きもらさないようじっと聞き入っていた。
「ふたりは愛し合っていたんだね。伊央のお母さんもそうだけど、お父さんもやさしそうな声だね。伊央の声によく似てる」
「そうかな?」
「そっくりだよ。見た目もそうだし、やっぱり親子だね」
「でも実感がわかないよ。やっぱり直接会いたかった。会っていろいろ話したかった。声も直接聞きたかったよ」
伊央の泣きそうな声を聞いて、めぐるの胸も張り裂けそうだった。
伊央にとって、父親がどんな姿であれ、それはどうでもいいことなのだと思う。
めぐるも伊央の気持ちは痛いほど理解できた。
「ねえ、お母さんの写真はないの?」
「あるよ。父さんがくれた。見る?」
「うん、見たい。あれ? スマホ買ったの?」
「父さんが今どきの高校生はみんな持っているものだから、おまえも持っていなさいって」
見せてもらった写真は高校時代の玲奈と尚央のいくつかのツーショットだった。
玲奈の携帯電話に残っていた画像データを雫石が自身のパソコンに保存していて、それらを伊央のスマートフォンに転送したものだった。
「伊央って基本的にお父さん似だけど、お母さんの面影もあるんだね」
「どこが?」
「控えめに笑うところが似てる」
「僕は昔から笑うのが苦手だから」
「いい笑顔だと思うよ。わたしは好き」
尚央の隣ではにかんでいる玲奈は年相応でかわいらしい少女。
肩まで伸びた黒髪はストレートで、化粧っけのない面長の顔はどちらかというと純朴。十六歳で妊娠・出産したことを除けば、どこにでもいる普通の女子高生。
隣に写っている尚央は端整な顔立ちの美少年で、やさしげな笑みを浮かべていた。
幸せに包まれたふたりには輝かしい未来はない。それでも幸せいっぱいで、微笑ましいふたりだった。
「写真も声も全部、宝物にするよ。ありがとう、めぐる。今日ここに来てよかったよ。めぐるが『聞こう』って言ってくれたから聞けたんだと思う」
「別にわたしのおかげじゃないよ」
「ううん、めぐるがいてくれたから、なにを聞かされても大丈夫だと思えたんだと思う。めぐると知り合えたことは、神様からのプレゼントだと思ってる。出会えて本当によかった」
月明かりの下、伊央はリラックスしながら話す。伊央を覆っていた強固なバリアはすっかり消え去っていた。
星が控えめに輝いている。そんな夜空にペルセウス座流星群がまたひとつ光を放った。
まずは謝りたい。これまでなにもできなくてごめん。『ごめん』という言葉はなんて薄っぺらいんだと自分でも思うけど、今の僕にできるのは謝ることしかないんだ。
僕はもうすぐ死ぬ。
本当はアメリカにいる伊央に会いにいきたかったけど、それもできそうにない。
だけど、会いにいっても伊央は混乱するだろうから、会いにいかなくて正解なのかもしれない。
んー、でもやっぱり会いたかったよ。一度でいい、抱きしめたかった。玲奈もそう思っているはず。
あっ、玲奈というのは伊央のお母さんのことだよ。『伊央』と名づけたのも玲奈なんだ。日ごと大きくなっていくお腹に大事そうに触れて、早く会いたいとやさしい声で言っていたんだ。
伊央が成長した姿を見たかっただろうなあ。僕もこの目で見たかった。写真だけじゃ、足りない。
伊央を育ててくれた雫石さんには感謝してもしきれないよ。
僕たちの子どもに玲奈の希望通り、『伊央』と名づけて出生届を提出してくれて、施設からも引き取ってくれた。男手ひとつで愛情をそそいでくれていると聞いて心から安心したよ。
伊央は今幸せかな? 左手に障がいがあるんだってな。そのことで、いじめられてないか? もしそうなら、なにもできない自分に腹が立つよ。
だけどどうか乗り越えてほしい。どうしようもなくつらいときは玲奈のことを思い出してほしい。
玲奈は伊央をひとりきりで産んだんだよ。これは人づてに聞いたことなんだけど……。
日課にしていた夕方の散歩中に破水してしまって、産院に行く途中のひと気のない原っぱで伊央を産んだそうなんだ。怖かったと思う。だけど産後フラフラの状態で、玲奈は産まれたばかりの伊央を抱いて、産院まで必死に歩いた。伊央の命を守るために。
僕には想像がつかない。どれだけ大変だっただろう。いや、大変どころじゃないよな。だって玲奈は命がけだったんだ。
そうやって玲奈の命は伊央に受け継がれたんだよ。
だから伊央、自分を大切にするんだぞ。どんなに苦しいことがあっても、いつも未来を見つめていてほしいんだ。自分を信じて、未来を信じて、自分の道を進んでいってほしい。そして、どうか……どうか、幸せになってほしい】
病床で録音されたのだろう。声は少しかすれ、メッセージの最後のほうは振り絞るような声だった。
病気で体力が落ち、声を出すのも大変なようだった。それでもゆっくりと紡ぎ出される言葉は愛にあふれている。
初めて聞く実の父親の肉声に、伊央は目を閉じ、息遣いのひとつも聞きもらさないようじっと聞き入っていた。
「ふたりは愛し合っていたんだね。伊央のお母さんもそうだけど、お父さんもやさしそうな声だね。伊央の声によく似てる」
「そうかな?」
「そっくりだよ。見た目もそうだし、やっぱり親子だね」
「でも実感がわかないよ。やっぱり直接会いたかった。会っていろいろ話したかった。声も直接聞きたかったよ」
伊央の泣きそうな声を聞いて、めぐるの胸も張り裂けそうだった。
伊央にとって、父親がどんな姿であれ、それはどうでもいいことなのだと思う。
めぐるも伊央の気持ちは痛いほど理解できた。
「ねえ、お母さんの写真はないの?」
「あるよ。父さんがくれた。見る?」
「うん、見たい。あれ? スマホ買ったの?」
「父さんが今どきの高校生はみんな持っているものだから、おまえも持っていなさいって」
見せてもらった写真は高校時代の玲奈と尚央のいくつかのツーショットだった。
玲奈の携帯電話に残っていた画像データを雫石が自身のパソコンに保存していて、それらを伊央のスマートフォンに転送したものだった。
「伊央って基本的にお父さん似だけど、お母さんの面影もあるんだね」
「どこが?」
「控えめに笑うところが似てる」
「僕は昔から笑うのが苦手だから」
「いい笑顔だと思うよ。わたしは好き」
尚央の隣ではにかんでいる玲奈は年相応でかわいらしい少女。
肩まで伸びた黒髪はストレートで、化粧っけのない面長の顔はどちらかというと純朴。十六歳で妊娠・出産したことを除けば、どこにでもいる普通の女子高生。
隣に写っている尚央は端整な顔立ちの美少年で、やさしげな笑みを浮かべていた。
幸せに包まれたふたりには輝かしい未来はない。それでも幸せいっぱいで、微笑ましいふたりだった。
「写真も声も全部、宝物にするよ。ありがとう、めぐる。今日ここに来てよかったよ。めぐるが『聞こう』って言ってくれたから聞けたんだと思う」
「別にわたしのおかげじゃないよ」
「ううん、めぐるがいてくれたから、なにを聞かされても大丈夫だと思えたんだと思う。めぐると知り合えたことは、神様からのプレゼントだと思ってる。出会えて本当によかった」
月明かりの下、伊央はリラックスしながら話す。伊央を覆っていた強固なバリアはすっかり消え去っていた。
星が控えめに輝いている。そんな夜空にペルセウス座流星群がまたひとつ光を放った。
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