八月の流星群

さとう涼

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第五章 奇跡の夜にメテオの祝福

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 お盆が過ぎ、八月の下旬を迎えていた。
 昨日で夏休みが終わり、今日からまた学園生活がはじまる。
 めぐるのクラスも続々とクラスメイトが登校してきて、教室は笑い声が絶えない。

「雫石、随分と日に焼けてるけど、どっか行ってきた?」
「うん、行ってきた」
「どこに?」
「めぐると一緒に日本海に。泳いではいないけど、その日は天気がよかったから」

 色白だった伊央の変わりように、クラス中が驚いていた。それだけでない。雰囲気もまるで違う。はつらつと遠峯と会話を交わす様子は別人のようだった。

「ふたりで海って……。しかも日本海に遠出? やっぱり雫石と高比良って、つき合ってんの?」
「なんでそうなるの?」
「だってデートしたんだろう?」
「うん、デートはしたよ。でもつき合っているわけじゃないよ。気に入っている女の子と出かけた、ただそれだけだよ」
「それってどういう関係なんだ?」

 そこへ慌ててめぐるが口を挟んだ。

「遠峯くん、変な想像しなくていいから。伊央も余計なこと言わないでよ」
「なんで余計なことなの? 気に入った女の子とデートするのって悪いことなの?」
「そういうわけじゃないけど……。人に言うことでもないよ」

 呑気な伊央に対し、めぐるは恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっている。

「さすが帰国子女。やっぱ中身はアメリカ人なんだな。そういえば向こうの人って、同時に複数の子とデートするのもぜんぜんアリなんだよな」

 遠峯はなにかで読んだ記事にそんなことが書いてあったことを思い出した。

「日本は違うの?」
「一応つき合ってからとか、つき合う前提で誘うのが王道だな」
「へえ、知らなかった。でも僕は一度に複数の子は誘わないし、デートもしないよ。めぐるだけだから」

 めぐるはますますアワアワとなる。
 深い意味はないとは思うのだが、どうにも落ち着かず、伊央をまともに見ることができない。

「高比良、動揺しすぎだって」

 遠峯はおもしろがってからかった。ふたりが楽しい夏休みを過ごしていたようなので、ほっともしていた。
 実は夏休み中、梅村に見せてもらった“伊央によく似た男性”の存在が気になっていたのだが、今のふたりを見ていたら、触れるのはやめようと思えた。おそらく他人の空似だったのだろう。



 同日の昼頃。
 四方堂は警備課のデスクでふてくされていた。

「おもしろくないなあ」
「なにがです?」

 デスクの書類整理をしていた浜口が顔をあげた。

「屋上の鍵だよ。野垣莉々亜は、ドアの鍵は下見のときも実際に爆発物の模型を置きにいったときも開いていたと言っていた。だが用務員の話では通常施錠してあると言っている。屋上の防水工事のあとに施錠したことも業者が確認している。じゃあ誰が鍵を開けたんだ? 蛯名の仕業なのかもと思ったが、本人は否定している。俺も蛯名が嘘をついているとは思えない」
「屋上でさぼるために、たまたまほかの生徒が開けたとか? 鍵は職員室のキーボックスで杜撰に管理されていましたから、人目を盗んで持ち出すことも可能ですよ」
「生徒の仕業なら、どうしてわざわざ指紋も消すんだ? ドアもドアノブもキーボックスも見事なまでにきれいに拭き取られてあったんだぞ。事件当日、野垣莉々亜は手袋をしていたし、指紋を拭き取ることもしていないと供述している」
「屋上のドアについては、工事業者が事件当日の夕方に現場を清掃したと言っていましたから、そのせいでしょう。キーボックスも掃除のときに誰かが雑巾で拭いたんじゃないですかね」

 四方堂の言いたいこともわかるが、西城ヶ丘学園の事件は解決済み。すでに次の事件の捜査の真っ最中ということもあり、浜口は正直それどころではない。

「じゃあ、あれはどう説明する?」
「手形のことですか?」
「そうだよ。あれは間違いなく雫石伊央のものだ」

 手形というのは屋上に突き出ている塔屋のタラップに残っていた人間の手の跡だ。
 ペンキを塗り直し、まだ完全に乾いていない状態で、塔屋にあがるためにタラップを使ったのだろう。くっきりと人の手形が残っていた。
 残念ながら指紋まではわからなかったが、左手の指は三本だった。

「屋上のタラップのペンキが塗り替えられたのは六月二十九日の午前九時。赤いキャリーバッグ騒動の前日、西城ヶ丘学園の爆破予告の四日前だ。二十九日の昼休みに野垣莉々亜は屋上の下見をしている。同じ日に雫石伊央が屋上にいたのはほぼ間違いないんだ」
「あの手形が雫石くんのものだったとして、事件に関与している証拠にはなりませんよ」
「そこなんだよな。蛯名と連絡を取っていた形跡はないし、野垣莉々亜とも学校以外に交流はない。少なくとも共犯ではないのはたしかだ」
「つまり無関係ってことですよね。あっ! 四方堂さん、そろそろ時間です。出かけますよ」

 浜口が書類を放り出し、立ちあがった。

 今朝パトロールをしていた警察官が駅構内で男に職務質問をした際、手荷物のなかに爆発物製造に関する本とノートが見つかった。これから令状を持って家宅捜索を行うことになっている。犯罪を未然に防ぐことも警備課の仕事である。
 実はこういったテロにつながる危険は身近に存在している。一般市民からの情報で捜査するのも珍しいことではなく、警察関係者にとって平穏で退屈な日というものは存在しない。
 毎日が平穏だと思っているのは現実を知らない人間が勝手に思い込んでいるだけなのだ。
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