八月の流星群

さとう涼

文字の大きさ
54 / 54
第五章 奇跡の夜にメテオの祝福

054

しおりを挟む
 八日後。今日は八月の最終日。
 めぐるは伊央に誘われて、産院跡の丘に来ていた。
 辺りは暗闇。そんななか、流星が輝いては消えていく。桜の花びらが散っていくように、手持ち花火の炎がはらはらと流れていった。

「きれいだね」
「本物には負けるけどね」
「ううん、そんなことないよ。それぞれ素敵だよ」

 最後の手持ち花火が静かに消え、虫の声が奏でられる丘にそよ風が吹き渡った。
 伊央は静かに語り出した。

「花火っていいよね。六歳の秋、通院していた病院で同じ患者だったお兄ちゃんと仲よくなったんだ。僕が花火大会に行ったことがない話をしたら、そのお兄ちゃんが打ち上げ花火を手作りしてくれて、近くの河原で見せてくれたんだよ。迫力があって、すごく楽しかった」

 伊央の脳裏に浮かぶのは鮮明な記憶。
 当時、雫石の家に養子として迎え入れられていた伊央は、家政婦の目を盗み、薄暗い時間に家を抜け出した。当然、伊央が行方不明になったことは雫石の耳に入ることになったのだが、数時間後に自宅に戻った伊央はどこに行っていたのか頑なに口を閉ざしたのだった。

「自分で打ち上げ花火を作れるなんてすごいね」
「もの知りで、めちゃめちゃ頭がよかった。変わった人だったけど、あの人は天才だよ」
「伊央が認める人か……。その人、今はどうしてるんだろうね」

 伊央があまりにも楽しそうに語るので、めぐるも興味がわいた。

「元気そうだったよ」
「会ったの?」
「駅前で見かけた。女の子と一緒だったから声をかけるのを遠慮したけど」
「彼女かな?」

 けれど伊央はとくに関心がないようで、「知らない」とあっさり言う。それからなにかをひらめいたらしく、「そうだ!」と声を弾ませた。

「ねえ、誕生日は毎年ここでペルセウス座流星群を見ながら花火をしようよ!」

 伊央が珍しくテンションをあげて身を乗り出してくる。

「それいいね!」

 めぐるも声高らかに目を輝かせた。

「僕たちが生まれた場所がずっとこのままでありますように」
「来年も再来年もふたりで誕生日のお祝いができますように」

 ふたりは星に祈りを捧げる。たとえば五年後もこの場所がこのままであるとは限らない。けれど言葉にすることで安心できる。この先、ふたりが離れてしまうことがあっても、魂でつながっていられる。

 どちらともなく手をつなぎ合う。めぐるは伊央の左手を強く握りながら、幸せな気持ちで夜空を見あげた。
 瞬く星がふたりを静かに見守っている。めぐるの聞こえない左耳にはいつまでもやさしい伊央の声が響いていた。




《完》


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...