12 / 64
(3)心キズはごまかせない
012
しおりを挟む
午前九時五十三分。
店舗運営部の朝の定例ミーティングが終わり、出かける支度をしていたら蓮見くんが迎えに来てくれた。
「早すぎました?」
棒読みで言う。相変わらず無愛想だ。
「ううん。準備できたとこ。行こっか」
わたしがそう言っても蓮見くんはやる気のなさそうな目でうなずくだけだった。
応援に行くことは不本意です、そんなふうに思っているのかな。だろうね。きっとなんで自分が選ばれたんだろうと思っているんだろう。
ごめんね。こういうのは異動してきたばかりひとが選ばれるものなんだよ。ほかのひとたちは過去に応援に駆り出され済みで、たまたま蓮見くんに順番がまわってきただけのこと。面倒だから説明しないけど。まあそのうちわかるよ。
会社を出て駅に向かう。
その間も蓮見くんは口を開くことなくわたしの隣を歩いている。
ほんと不愛想だよなあ。これでどうやって接客してきたんだろう。不思議だ。
「蓮見くんはどうしてうちの会社を選んだの?」
「急にどうしたんですか?」
蓮見くんは警戒心むき出しだ。
「えっと……単なる興味だよ」
「はっきり言ってくれていいんですよ。僕みたいな愛嬌がない人間は接客業が向いていないと言いたいんですよね?」
思いきり図星だ。すごいな、エスパーなのかな。
「そんなこと言ってないよ」
「でも思ってますよね?」
「ううん、思ってないよ」
一応否定してみたものの、蓮見くんの疑いの目は変わることなく、やがて駅に着いた。結局うちの会社を選んだ理由は聞けずじまいだった。
電車に乗ると、運よく空いていた席にふたり並んで座る。蓮見くんはイヤホンをし、わたしの存在をシャットアウト。
おおっと。会社の先輩の前だというのにそういう態度でくるか。まあ別に会話を弾ませる自信もないのでいいんだけど。
◇◇◇
新宿店は八階建てビルの一階から四階までのフロアに売り場を展開している。平日ではあるけれど、オープン三日目の今日も多くのお客様にお越しいただけて店内は賑わっていた。
店長にあいさつをすると、さっそく仕事を振られた。わたしと蓮見くんはアプリの新規会員の勧誘。
近頃はどの店舗でも会員数が頭打ち。ここ新宿店にはこれまでうちのお店に来たことがないお客様が多数いらっしゃる可能性がある。そのため新しい顧客を獲得するチャンスと考えている。
アプリ登録会員のリピーター率はこちらの想定よりも高い。さらには購入価格も高い傾向にあるので、新規会員の獲得は重要な仕事のひとつだ。
「キャンペーン期間中、アプリに新規登録をされた方にポイント進呈中でーす! ほかにもお得な割引クーポンもありますので、この機会にぜひご入会くださーい!」
店の出入り口ではなかなか立ち止まってもらえない。そこでお買い物中のお客様に狙いをつけて何人もお声がけし、二十数人目にようやく好感触のお客様に出会えた。
お時間があることを確認し、専用カウンターにご案内すると、さっそくお客様ご自身がアプリをダウンロードしてくださった。その後、ひととおりの操作が終わると最後の説明に入る。
「新規登録特典のポイントは後日進呈となりますが、十五%の割引クーポンは本日からお使いいただけます」
「今日から?」
「はい。有効期限は五月末までとなっておりますのでお気をつけください。なおクーポン利用の条件は購入金額が千円以上からになりますが、まとめ買いすればするほどお得になりますよ」
「やったあ! 気になってたのがいくつかあったので買っていきます」
「ありがとうございます。そしてこちらは当店オリジナルのエコバッグです。どうぞお使いください」
お客様はにこにことうれしそうにスマホをバッグにしまうと売り場に戻っていった。
よかった。あんなに喜んでもらえると、こちらもうれしくなる。
一方、蓮見くんはというと、案山子のように突っ立っているだけ。
「蓮見くん、もっと積極的にお声がけして」
「してますよ」
「獲得数ゼロじゃない。結果がすべてだよ」
「雨宮さんだってひとりしか勧誘できてないじゃないですか」
「ゼロより偉いっ!」
「偉いって……子どもみたいですね」
蓮見くんの言うとおり。たったひとりでは成果として自慢にならない。されど、たったひとりでもある。購入してくださったお客様がSNSで紹介してくれたり、口コミで広めてくれたりすることもある。未知の可能性を秘めているかもしれないので、たったひとりでも侮れないのだ。
店舗運営部の朝の定例ミーティングが終わり、出かける支度をしていたら蓮見くんが迎えに来てくれた。
「早すぎました?」
棒読みで言う。相変わらず無愛想だ。
「ううん。準備できたとこ。行こっか」
わたしがそう言っても蓮見くんはやる気のなさそうな目でうなずくだけだった。
応援に行くことは不本意です、そんなふうに思っているのかな。だろうね。きっとなんで自分が選ばれたんだろうと思っているんだろう。
ごめんね。こういうのは異動してきたばかりひとが選ばれるものなんだよ。ほかのひとたちは過去に応援に駆り出され済みで、たまたま蓮見くんに順番がまわってきただけのこと。面倒だから説明しないけど。まあそのうちわかるよ。
会社を出て駅に向かう。
その間も蓮見くんは口を開くことなくわたしの隣を歩いている。
ほんと不愛想だよなあ。これでどうやって接客してきたんだろう。不思議だ。
「蓮見くんはどうしてうちの会社を選んだの?」
「急にどうしたんですか?」
蓮見くんは警戒心むき出しだ。
「えっと……単なる興味だよ」
「はっきり言ってくれていいんですよ。僕みたいな愛嬌がない人間は接客業が向いていないと言いたいんですよね?」
思いきり図星だ。すごいな、エスパーなのかな。
「そんなこと言ってないよ」
「でも思ってますよね?」
「ううん、思ってないよ」
一応否定してみたものの、蓮見くんの疑いの目は変わることなく、やがて駅に着いた。結局うちの会社を選んだ理由は聞けずじまいだった。
電車に乗ると、運よく空いていた席にふたり並んで座る。蓮見くんはイヤホンをし、わたしの存在をシャットアウト。
おおっと。会社の先輩の前だというのにそういう態度でくるか。まあ別に会話を弾ませる自信もないのでいいんだけど。
◇◇◇
新宿店は八階建てビルの一階から四階までのフロアに売り場を展開している。平日ではあるけれど、オープン三日目の今日も多くのお客様にお越しいただけて店内は賑わっていた。
店長にあいさつをすると、さっそく仕事を振られた。わたしと蓮見くんはアプリの新規会員の勧誘。
近頃はどの店舗でも会員数が頭打ち。ここ新宿店にはこれまでうちのお店に来たことがないお客様が多数いらっしゃる可能性がある。そのため新しい顧客を獲得するチャンスと考えている。
アプリ登録会員のリピーター率はこちらの想定よりも高い。さらには購入価格も高い傾向にあるので、新規会員の獲得は重要な仕事のひとつだ。
「キャンペーン期間中、アプリに新規登録をされた方にポイント進呈中でーす! ほかにもお得な割引クーポンもありますので、この機会にぜひご入会くださーい!」
店の出入り口ではなかなか立ち止まってもらえない。そこでお買い物中のお客様に狙いをつけて何人もお声がけし、二十数人目にようやく好感触のお客様に出会えた。
お時間があることを確認し、専用カウンターにご案内すると、さっそくお客様ご自身がアプリをダウンロードしてくださった。その後、ひととおりの操作が終わると最後の説明に入る。
「新規登録特典のポイントは後日進呈となりますが、十五%の割引クーポンは本日からお使いいただけます」
「今日から?」
「はい。有効期限は五月末までとなっておりますのでお気をつけください。なおクーポン利用の条件は購入金額が千円以上からになりますが、まとめ買いすればするほどお得になりますよ」
「やったあ! 気になってたのがいくつかあったので買っていきます」
「ありがとうございます。そしてこちらは当店オリジナルのエコバッグです。どうぞお使いください」
お客様はにこにことうれしそうにスマホをバッグにしまうと売り場に戻っていった。
よかった。あんなに喜んでもらえると、こちらもうれしくなる。
一方、蓮見くんはというと、案山子のように突っ立っているだけ。
「蓮見くん、もっと積極的にお声がけして」
「してますよ」
「獲得数ゼロじゃない。結果がすべてだよ」
「雨宮さんだってひとりしか勧誘できてないじゃないですか」
「ゼロより偉いっ!」
「偉いって……子どもみたいですね」
蓮見くんの言うとおり。たったひとりでは成果として自慢にならない。されど、たったひとりでもある。購入してくださったお客様がSNSで紹介してくれたり、口コミで広めてくれたりすることもある。未知の可能性を秘めているかもしれないので、たったひとりでも侮れないのだ。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
同期と私の、あと一歩の恋
松本ユミ
恋愛
同期の本田慧に密かに想いを寄せる広瀬紗世は、過去のトラウマから一歩踏み出せずにいた。
半年前、慧が『好きな人がいる』と言って告白を断る場面を目撃して以来、紗世は彼への想いを心の中に閉じ込めてしまう。
それでも同期として共に切磋琢磨する関係を続けていたが、慧の一言をきっかけに紗世の心が動き出す。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。
菊池まりな
恋愛
25歳の朱里は、同じ部署の先輩・嵩にずっと片想いをしていた。けれども不器用な朱里は、素直に「好き」と言えず、口から出るのはいつも「大嫌い」。彼女のツンデレな態度に最初は笑って受け流していた嵩も、次第に本気で嫌われていると思い込み、距離を置き始める。
そんな中、後輩の瑠奈が嵩に好意を寄せ、オープンに想いを伝えていく。朱里は心の奥で「私は本当は死ぬほど好きなのに」と叫びながらも、意地とプライドが邪魔をして一歩踏み出せない。
しかし、嵩の転勤が決まり、別れが迫ったとき、朱里はついに「大嫌い」と100回も繰り返した心の裏にある“本音”を告白する決意をする――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる