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(6)好きなひとの好きなひと
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「ところで相談っていうのはなにかな? 神崎部長のことだよね?」
「……はい」
少し間があった。やっぱり元妻相手だと話しにくいのかな。
「もしかして直接的に嫌がらせを受けたの?」
「いいえ。それはありません。でもわたしのせいで神崎部長が悪者になってしまったのが申し訳なくて……」
「それは結城さんのせいじゃないよ」
「いいえ。わたしがもっと注意すべきでした。ふたりで外出なんてしなきゃよかった」
結城さんは強く責任を感じているようだった。
「有名芸能人じゃあるまいし。一緒に出かけるのは普通だよ。誰かに見られちゃったのは運が悪かっただけ」
「そうかもしれませんけど……」
そう言って結城さんは黙り込んだ。
「そんなに思いつめないで。噂なんて時間が経てばみんな飽きると思うから」
「わたしが好きにならなければ、こんなことにはならなかったのかな」
「結城さん……」
なんて返したらいいのかわからなかった。
「あっ、すみません。愚痴っぽくなってしまって」
「ううん。いいんだよ」
好きなひとと恋愛をして、いまが楽しい時期のはずなのに。なんて悲しいことを言うのだろうと思った。自分のことより相手のことを考えているから、こういう考えになるのかな。
わたしとは違う。身勝手だったかつての自分のことを思い出し、みじめな気持ちになった。
「雨宮さんにお願いがあります」
さっきとは打って変わって力強いまっすぐな眼差し。思わずこちらの背筋がピンとなる。
「なにかな?」
「実は、神崎部長が上司に辞表を提出してしまったんです」
「辞表のことは柊部長から聞いてる」
「そうなんですか!?」
「……うん」
「なら話が早いです。会社を辞めないように説得してほしいんです。わたしが何度お願いしても聞いてもらえなくて……」
そのときにかなり揉めたことを敦朗からすでに聞いている。
「決意が固そうだったもんね」
「はい……。え? なんで知ってるんですか?」
「今日ね、柊部長に呼び出されたの。会議室に連れて行かれて、そしたらそこに神崎部長がいた」
「……な、なんの話だったんですか?」
結城さんが恐る恐るたずねる。
「会社を辞めないよう説得してほしいって頼まれた」
「それでどうなりました!?」
今度は急に前のめりになる。
「説得はしてない……というか、できない」
「どうしてですか!? 説得してください!」
お願いします! と結城さんはテーブルに額がつきそうなくらい深く頭をさげてきた。
まっすぐでサラサラな髪が頬にかかり、健気な姿もきれいだなと思った。本当は元妻のわたしなんかに頭をさげたくなかっただろうに。それほどいま必死なんだ。
「ごめん。無理なの」
結城さんが勢いよく顔をあげた。
「なんで……?」
つぶらな瞳が潤み、悲しそうに揺れている。わたしの心も揺れてしまいそうだった。
敦朗のこともこんなふうに見つめていたのかな。それでも敦朗は彼女の願いを突っぱねて自分の意志を貫こうとしているんだね。
「知ってるでしょう。神崎部長にはほかにやりたいことがあるの」
「でも神崎部長はこの会社に必要なひとです」
結城さんはどこまでもまっすぐだった。敦朗を高く評価し、その存在価値を信じて疑わない。だけど残念ながら現実はそうじゃない。
「神崎部長が会社を辞めても差し支えないと思う」
「はい?」
「神崎部長がいなくなっても会社はちゃんとまわる。神崎部長の穴埋めは別の誰かが担ってくれるよ」
「そんな言い方しなくても」
「でも事実だから。神崎部長もそのことを理解してる。だからすぐに辞表を出せたんだよ」
結城さんがいくら「辞めないで」と訴えてもそれじゃだめなんだよ。それじゃ敦朗を引き留めることはできない。もっともわたしにも引き留める手段なんてものはない。むしろ敦朗の決意を知り、引き留めることは無駄だと悟った。
「たしかに焦って辞表を出したんだと思う。だからいまがそのタイミングなのかよく考える必要はあるような気がした。でも会社を辞めるという神崎部長の意志は固いから、それについては結城さんの力にはなれないよ」
「……はい」
少し間があった。やっぱり元妻相手だと話しにくいのかな。
「もしかして直接的に嫌がらせを受けたの?」
「いいえ。それはありません。でもわたしのせいで神崎部長が悪者になってしまったのが申し訳なくて……」
「それは結城さんのせいじゃないよ」
「いいえ。わたしがもっと注意すべきでした。ふたりで外出なんてしなきゃよかった」
結城さんは強く責任を感じているようだった。
「有名芸能人じゃあるまいし。一緒に出かけるのは普通だよ。誰かに見られちゃったのは運が悪かっただけ」
「そうかもしれませんけど……」
そう言って結城さんは黙り込んだ。
「そんなに思いつめないで。噂なんて時間が経てばみんな飽きると思うから」
「わたしが好きにならなければ、こんなことにはならなかったのかな」
「結城さん……」
なんて返したらいいのかわからなかった。
「あっ、すみません。愚痴っぽくなってしまって」
「ううん。いいんだよ」
好きなひとと恋愛をして、いまが楽しい時期のはずなのに。なんて悲しいことを言うのだろうと思った。自分のことより相手のことを考えているから、こういう考えになるのかな。
わたしとは違う。身勝手だったかつての自分のことを思い出し、みじめな気持ちになった。
「雨宮さんにお願いがあります」
さっきとは打って変わって力強いまっすぐな眼差し。思わずこちらの背筋がピンとなる。
「なにかな?」
「実は、神崎部長が上司に辞表を提出してしまったんです」
「辞表のことは柊部長から聞いてる」
「そうなんですか!?」
「……うん」
「なら話が早いです。会社を辞めないように説得してほしいんです。わたしが何度お願いしても聞いてもらえなくて……」
そのときにかなり揉めたことを敦朗からすでに聞いている。
「決意が固そうだったもんね」
「はい……。え? なんで知ってるんですか?」
「今日ね、柊部長に呼び出されたの。会議室に連れて行かれて、そしたらそこに神崎部長がいた」
「……な、なんの話だったんですか?」
結城さんが恐る恐るたずねる。
「会社を辞めないよう説得してほしいって頼まれた」
「それでどうなりました!?」
今度は急に前のめりになる。
「説得はしてない……というか、できない」
「どうしてですか!? 説得してください!」
お願いします! と結城さんはテーブルに額がつきそうなくらい深く頭をさげてきた。
まっすぐでサラサラな髪が頬にかかり、健気な姿もきれいだなと思った。本当は元妻のわたしなんかに頭をさげたくなかっただろうに。それほどいま必死なんだ。
「ごめん。無理なの」
結城さんが勢いよく顔をあげた。
「なんで……?」
つぶらな瞳が潤み、悲しそうに揺れている。わたしの心も揺れてしまいそうだった。
敦朗のこともこんなふうに見つめていたのかな。それでも敦朗は彼女の願いを突っぱねて自分の意志を貫こうとしているんだね。
「知ってるでしょう。神崎部長にはほかにやりたいことがあるの」
「でも神崎部長はこの会社に必要なひとです」
結城さんはどこまでもまっすぐだった。敦朗を高く評価し、その存在価値を信じて疑わない。だけど残念ながら現実はそうじゃない。
「神崎部長が会社を辞めても差し支えないと思う」
「はい?」
「神崎部長がいなくなっても会社はちゃんとまわる。神崎部長の穴埋めは別の誰かが担ってくれるよ」
「そんな言い方しなくても」
「でも事実だから。神崎部長もそのことを理解してる。だからすぐに辞表を出せたんだよ」
結城さんがいくら「辞めないで」と訴えてもそれじゃだめなんだよ。それじゃ敦朗を引き留めることはできない。もっともわたしにも引き留める手段なんてものはない。むしろ敦朗の決意を知り、引き留めることは無駄だと悟った。
「たしかに焦って辞表を出したんだと思う。だからいまがそのタイミングなのかよく考える必要はあるような気がした。でも会社を辞めるという神崎部長の意志は固いから、それについては結城さんの力にはなれないよ」
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