親愛なる後輩くん

さとう涼

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(10)決断のとき

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「そもそも誰が噂を流したんだろうね。柳橋さんは知ってる?」

「わたしがその噂を聞いたのは同じ経理課の後輩からなんですけど、その子は幕張店にいる友達から教えてもらったそうです」

 幕張店というのは意外な情報だった。前に梶原くんにログを調べてもらったときはまったく別の地域のものだったから。

「なんで幕張店のスタッフが知ってたの?」

「それなんですけど、わたしも気になって聞いたら、神戸店から異動してきたスタッフが言いふらしていたみたいです」

「なるほど、神戸店か。じゃあ、神戸店のスタッフは誰から?」

「そこまではわかりません。でも、そもそもの出所は結城さんの妹さんが運営しているSNSらしいです」

「SNS?」

 結城さんの妹さんがファッション系インフルエンサーというのは梶原くんから聞いたことがある。

「そのSNSに神崎部長たちが写った写真がアップされていたらしくて」

「は?」

「でも写真はすぐに削除されたみたいで、いまは見ることができません」

 写真は妹さんがうっかりアップしてしまったのかな。すぐに削除されたのだとしたらそうなのだろう。

「それなのになんで?」

「誰かがコピーして、それを一部のスタッフの間で共有されていたみたいなんです」

 いったい誰がなんのためにそんなことをしたのだろう。しかもすぐに削除された画像だというのに。ということは、結城さんに近い人物が関係しているのだろうか。

 調査すればわかることだろう。けれどすでに敦朗が退職するという結論が出ているので、会社としてそこまでやる必要性はないような気がする。


◇◇◇


 食事を終えて会社に戻るがすっきりしない。いまさら気にしてもしょうがないのにSNSのことを知り、悪意のようなものを感じてしまう。

 飲み物を買いに自販機のあるフロアへ行くと、隣の社員食堂に蓮見くんがひとりでいるのが見えた。なんとなく見ていると食事を終えた蓮見くんがお弁当箱を持ってこちらに来る。

「ちょうどよかったです」

 そう言った蓮見くんがわずかに眉根を寄せた。

「なにかあった?」

「はい。聞きたいことがあります」

 蓮見くんは重苦しい雰囲気をまとっている。

「ごめん。あんまり時間ないんだ。長くなるならあとでもいいかな」

 お昼休みはもう少し残っているけれど、このあと人事部に行かないといけない。その前に片づけておかないといけない仕事があるので、できればすぐに戻りたい。

「それじゃあ、今日の夜は時間ありますか?」

「うん。定時で終われると思う」

「僕は少しかかるかもしれないので、仕事が終わり次第、雨宮さんのアパートに行きます」

 あとで連絡します、と言い残して蓮見くんが去っていく。

 怒ってるように見えた。でもいまはなだめることも取り繕うこともできない。なんてもどかしいんだろう。


◇◇◇


 仕事終わりに軽く買い物をすませてから帰宅した。

 蓮見くん、夕飯食べていくかな。そんなことを考えていると妙な気持ちになる。手料理を作って待つなんて恋人関係みたいじゃない。

 午後七時半を過ぎた頃。蓮見くんがやって来た。

「いらっしゃい」

「お疲れ様です。おじゃまします」

 緊張気味の蓮見くんに戸惑いながら、とりあえずコーヒーを淹れようとキッチンに入った。

「適当に座って」

「ありがとうございます」

「ごはん、食べていくでしょう?」

「いいえ、すぐに帰るんで」

「食べていってよ。簡単なものだけど作ったの」

「……では、ごちそうになります」

 蓮見くんは少し躊躇しながらも返事をした。

 部屋にコーヒーの香りが漂いはじめる。コーヒーをローテーブルに置くと、「どうも」と小さな声が聞こえた。

 怒っていると思っていたけれどそうじゃないみたい。元気がないんだ。
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