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強がりな逢瀬(5)
もうすっかりとろけていた身体にそれ以上に熱い杭が何度も打ちつけられている。
下半身だけが自分の身体じゃないみたいに勝手に感覚を研ぎ澄まし、わたしの手に負えないほど暴走していた。
「んぁ……あぁっ……」
唇の隙間から漏れる自分の吐息すら高みへと追い込んでいく。結ばれている手を力いっぱいに握って、必死になってこらえていた。
「好きだよ、美和」
「わたしも好き」
誰よりも好き。
世界で一番、愛してる。
「もっと……」
「え?」
「もっと呼んで、わたしの名前を」
もっと感じたい、わたしの存在を。
ひとりじゃないってことを、もっとわたしに教えて。
「美和、すごくいいよ。美和のこの身体、最高に気持ちいいよ」
男はしなやかに身体を波打たせて擦り上げる。ときどき熱いキスが落ちてきて、わたしは爪が食い込むぐらいに男の背中を強く抱いた。
部屋には甘い匂いが立ち込め、布団がベッドの下に落ち、白いシーツには幾重にも波紋が広がっている。
見つめてくる色っぽい瞳、耳もとに届くかすれた声は、わたしを幸せの絶頂に導いていった。
「あー、やばい、いきそう」
苦しそうなつぶやきが聞こえてきた。その息も上がっている。
「いいよ、いっても」
「美和をいかせてからな」
「わたしももうすぐ──あぁっ!」
もうすぐいきそうと言おうとしたら、男がさらに速度を上げてきた。
受け止められないほどの力を加えられ、身体の奥に固いものが押し込められる。
大きく引いて、深く挿入する。それを何度も繰り返し、男はどこまでもわたしを高みに追いやった。
「はぁっ、やあ……もうムリッ──」
――落ちる!
そう悟ったのが先か、それとも逆か。
ひとりぼっちで放り出され、わたしは陶酔の世界へ深く深く沈んでいた。
*
「ずるいよ、一緒にいきたかったのに」
「俺が先にいくよりいいだろう」
「そうだけど」
わたしが軽く拗ねると、男はわたしの頭を撫で、ベッドから起き上がった。
「あっ……」
もう、時間か。
男はいつものようにバスルームに向かった。
時刻を確認し、わたしが浴びる時間はないのだと知る。
別に家で浴びるからいいんだけど。
少しすると、水の音が聞こえてきた。
それはわたしとの情事を洗い流す音。すべてきれいさっぱり。わたしとの痕跡を男は洗い流す。
このときが一番悲しい時間だ。ひとりベッドに残されて、裸のまま、わたしは生きる気力を失くしてしまう。
ひと晩中、愛してほしい。
いつかきっと……。そんな未来を夢見るけれど。
「もうそろそろ出るよ」
シャワーを浴び終えた男がわたしを急かす。そのやさしさの欠片もない声を聞くたびに夢は粉々に砕けてしまう。
「美和?」
「あ、うん。今、服着るから」
ベッドの下に放り投げられた服をかき集めた。スマホをこっそりチェックしている男を横目にひとり服を着る。
どうせもう帰るんだから、そんなものはさっさとしまってよ。
決して言えないけれど、それはいつも思うことだ。
清々しいくらいに気持ちを切りかえた男は、「行くぞ」とルームキーを手に取り、わたしは頷いてベッドから立ち上がった。
「また来週の月曜日だね、会えるの」
「さみしいか?」
「ううん、平気。わたし、割とひとりが好きだから。ひとりでカフェに行って甘いものを食べたり、映画を見にいったりするのがストレス発散だもん」
「そっか、うらやましいな。俺もたまにはひとりになりたいよ。せめて休みの日の朝はゆっくり寝ていたい」
嘘なのに。
男はわたしの強がりを軽く笑った。
ホテルを出ると外は来たときと同じ。空は暗く、辺りは静まり返っていた。太陽が昇るのはまだ当分先のこと。
一緒に迎える朝は、たぶんこの先もやってこない。
男の薬指のそれは、歪な月の光の下で淡く輝いている。
抜け殻になったわたしから絞り出された涙を、男は気づいていないのだろうか。ふと目が合っても、男はなにも言わなかった。だから、わたしもなにも言えない。
でもこれでいい。
これがこの関係を続けるための暗黙のルールなのだから。
〈完〉
下半身だけが自分の身体じゃないみたいに勝手に感覚を研ぎ澄まし、わたしの手に負えないほど暴走していた。
「んぁ……あぁっ……」
唇の隙間から漏れる自分の吐息すら高みへと追い込んでいく。結ばれている手を力いっぱいに握って、必死になってこらえていた。
「好きだよ、美和」
「わたしも好き」
誰よりも好き。
世界で一番、愛してる。
「もっと……」
「え?」
「もっと呼んで、わたしの名前を」
もっと感じたい、わたしの存在を。
ひとりじゃないってことを、もっとわたしに教えて。
「美和、すごくいいよ。美和のこの身体、最高に気持ちいいよ」
男はしなやかに身体を波打たせて擦り上げる。ときどき熱いキスが落ちてきて、わたしは爪が食い込むぐらいに男の背中を強く抱いた。
部屋には甘い匂いが立ち込め、布団がベッドの下に落ち、白いシーツには幾重にも波紋が広がっている。
見つめてくる色っぽい瞳、耳もとに届くかすれた声は、わたしを幸せの絶頂に導いていった。
「あー、やばい、いきそう」
苦しそうなつぶやきが聞こえてきた。その息も上がっている。
「いいよ、いっても」
「美和をいかせてからな」
「わたしももうすぐ──あぁっ!」
もうすぐいきそうと言おうとしたら、男がさらに速度を上げてきた。
受け止められないほどの力を加えられ、身体の奥に固いものが押し込められる。
大きく引いて、深く挿入する。それを何度も繰り返し、男はどこまでもわたしを高みに追いやった。
「はぁっ、やあ……もうムリッ──」
――落ちる!
そう悟ったのが先か、それとも逆か。
ひとりぼっちで放り出され、わたしは陶酔の世界へ深く深く沈んでいた。
*
「ずるいよ、一緒にいきたかったのに」
「俺が先にいくよりいいだろう」
「そうだけど」
わたしが軽く拗ねると、男はわたしの頭を撫で、ベッドから起き上がった。
「あっ……」
もう、時間か。
男はいつものようにバスルームに向かった。
時刻を確認し、わたしが浴びる時間はないのだと知る。
別に家で浴びるからいいんだけど。
少しすると、水の音が聞こえてきた。
それはわたしとの情事を洗い流す音。すべてきれいさっぱり。わたしとの痕跡を男は洗い流す。
このときが一番悲しい時間だ。ひとりベッドに残されて、裸のまま、わたしは生きる気力を失くしてしまう。
ひと晩中、愛してほしい。
いつかきっと……。そんな未来を夢見るけれど。
「もうそろそろ出るよ」
シャワーを浴び終えた男がわたしを急かす。そのやさしさの欠片もない声を聞くたびに夢は粉々に砕けてしまう。
「美和?」
「あ、うん。今、服着るから」
ベッドの下に放り投げられた服をかき集めた。スマホをこっそりチェックしている男を横目にひとり服を着る。
どうせもう帰るんだから、そんなものはさっさとしまってよ。
決して言えないけれど、それはいつも思うことだ。
清々しいくらいに気持ちを切りかえた男は、「行くぞ」とルームキーを手に取り、わたしは頷いてベッドから立ち上がった。
「また来週の月曜日だね、会えるの」
「さみしいか?」
「ううん、平気。わたし、割とひとりが好きだから。ひとりでカフェに行って甘いものを食べたり、映画を見にいったりするのがストレス発散だもん」
「そっか、うらやましいな。俺もたまにはひとりになりたいよ。せめて休みの日の朝はゆっくり寝ていたい」
嘘なのに。
男はわたしの強がりを軽く笑った。
ホテルを出ると外は来たときと同じ。空は暗く、辺りは静まり返っていた。太陽が昇るのはまだ当分先のこと。
一緒に迎える朝は、たぶんこの先もやってこない。
男の薬指のそれは、歪な月の光の下で淡く輝いている。
抜け殻になったわたしから絞り出された涙を、男は気づいていないのだろうか。ふと目が合っても、男はなにも言わなかった。だから、わたしもなにも言えない。
でもこれでいい。
これがこの関係を続けるための暗黙のルールなのだから。
〈完〉
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