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第5章 いつも以上に気まずいです
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翌日の火曜日。
体調が悪く、今朝も激しい眠気と倦怠感に襲われていた。でもさすがに2日連続は休めなくて、重たい体を引きずるようにして会社に来た。
広報課は広告宣伝やPR活動を主とする社外広報と社内広報にわかれているが、わたしはアシスタントとしてその2つを兼任している。
社内報の締め切りが迫っていた。朝から出稿準備に追われ、昨日の夜にメールで届いていた原稿の校正作業をする。それから撮り溜めしておいた写真データからイメージに合うものを複数見繕い、画像編集ソフトを使って加工をほどこす。
合間に大阪支社の秘書室に電話をかけ、先週メールしておいた今月号に掲載予定の支社長のインタビュー記事の了解をもらった。支社長とは先月の会議でこちらに来た際にお会いし、そのときにインタビューさせてもらっていた。
うん、順調だ。
この調子だと締め切りに余裕で間に合う。これなら午後はプレスリリースの配信作業をじっくりやることができそうだ。
時刻を確認すると午前10時になろうとしていた。
「早いな」
会社に来ればなんとかなるものだ。多忙を極めていると少しは気が紛れるみたいで幾分調子が取り戻せた。
一希は朝から社内にいない。出張なのか都内をまわっているのか、それもよくわからない。同じフロアだし、知ろうと思えばそれもできるのだけれど、あまりにも未練がましいのでやめておいた。
「はい、広報課の宮原です」
近くで内線の音が鳴り、ピックアップすると、「受付の奥田です」と朗らかな声が電話越しに聞こえた。
受話器を持つ手に力が入る。思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
「本間さんなら外出中ですが。アポイントはありますか?」
用件は一希を訪ねてお客様が来社されているということだった。どうやら約束の時間は午前10時らしい。
「では本間さんに戻り時間を確認して折り返します」
一旦、内線を切って息をつく。
「ふぅー……」
緊張した。奥田さんは受付だし、遅かれ早かれ彼女と仕事でかかわるのは時間の問題ではあったのだけれど。昨日の今日なので心の準備ができていなかった。
でも休んではいられない。すぐに一希のスマホに電話をしなければ。一希がお客様との約束を忘れるはずはないから出先で何かトラブルがあったのかもしれない。都内での仕事は車移動が多いから渋滞にはまっているのかもしれないし、現場での打ち合わせが予想外に長引いているのかもしれない。
そう思い、受話器を上げたときだった。
「深見課長!」
受話器を元に戻し、席を立つ。
深見課長は店舗開発課の課長で、一希の上司だ。
深見課長はフロアの一番奥にある自分のデスクの前で足を止め、駆け寄ったわたしを不思議そうに見下ろした。
「……お、お疲れ様です」
それにしても深見課長は相変わらずの威圧感だ。どちらかといえば無表情で社内の人には決して笑顔を見せない。
普通はそこで印象が悪くなって敬遠されるものだが深見課長は違う。恐ろしいほど整った顔立ち、かつ仕事もできて会社への貢献度も高く、多くの女子社員が憧れの眼差しを向けている人物である。
「何か?」
「えっと……。受付から内線がありまして、1階ロビーに本間さんと10時のアポイントがあるお客様がいらっしゃっているそうです」
続けて会社名とお客様の名前を告げる。すると深見課長は、「わかった」と答え、歩き出した。
返事があっさりしすぎて理解できない。その場でぽかんとしていると、深見課長はなぜか一希のデスクにまわっていた。
「本間から俺に電話があって10時の約束に間に合いそうにないということだったので、代わりに俺が対応することになった」
そういうことかと納得すると同時にほっとしていた。一希に電話をするなんていう余計なことをしなくてよかった。一希が仕事の約束を忘れるわけないもんね。
もちろん、これくらいの段取りはまともな社会人なら誰だってやっていること。でもたまに約束しているのに連絡なしでお客様を待たせてしまう社員もいるから。
「ではそのように受付に内線を入れておきます」
「いや、いいよ。俺からしておくから」
「はい」
深見課長は一希のデスクの上にあったクリアファイルの中から書類を取り出すと目を通し、ひととおり読み終えるとクリアファイルに挟み直した。それから受付に内線をすると端的に状況を説明し、少し会話をしたあと受話器を置いた。
「どうやら本間が戻ったみたいだ」
「えっ!」
「そろそろエレベーターで上がってくるはずだ」
一希がここに来る! それがわかった途端、体が石のように硬直してしまい動けなくなってしまった。
どうしよう、早く自分のデスクに戻らないと。昨日、自分からあんなことを言っておきながら何事もなかったような顔なんて到底できそうにない。
体調が悪く、今朝も激しい眠気と倦怠感に襲われていた。でもさすがに2日連続は休めなくて、重たい体を引きずるようにして会社に来た。
広報課は広告宣伝やPR活動を主とする社外広報と社内広報にわかれているが、わたしはアシスタントとしてその2つを兼任している。
社内報の締め切りが迫っていた。朝から出稿準備に追われ、昨日の夜にメールで届いていた原稿の校正作業をする。それから撮り溜めしておいた写真データからイメージに合うものを複数見繕い、画像編集ソフトを使って加工をほどこす。
合間に大阪支社の秘書室に電話をかけ、先週メールしておいた今月号に掲載予定の支社長のインタビュー記事の了解をもらった。支社長とは先月の会議でこちらに来た際にお会いし、そのときにインタビューさせてもらっていた。
うん、順調だ。
この調子だと締め切りに余裕で間に合う。これなら午後はプレスリリースの配信作業をじっくりやることができそうだ。
時刻を確認すると午前10時になろうとしていた。
「早いな」
会社に来ればなんとかなるものだ。多忙を極めていると少しは気が紛れるみたいで幾分調子が取り戻せた。
一希は朝から社内にいない。出張なのか都内をまわっているのか、それもよくわからない。同じフロアだし、知ろうと思えばそれもできるのだけれど、あまりにも未練がましいのでやめておいた。
「はい、広報課の宮原です」
近くで内線の音が鳴り、ピックアップすると、「受付の奥田です」と朗らかな声が電話越しに聞こえた。
受話器を持つ手に力が入る。思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
「本間さんなら外出中ですが。アポイントはありますか?」
用件は一希を訪ねてお客様が来社されているということだった。どうやら約束の時間は午前10時らしい。
「では本間さんに戻り時間を確認して折り返します」
一旦、内線を切って息をつく。
「ふぅー……」
緊張した。奥田さんは受付だし、遅かれ早かれ彼女と仕事でかかわるのは時間の問題ではあったのだけれど。昨日の今日なので心の準備ができていなかった。
でも休んではいられない。すぐに一希のスマホに電話をしなければ。一希がお客様との約束を忘れるはずはないから出先で何かトラブルがあったのかもしれない。都内での仕事は車移動が多いから渋滞にはまっているのかもしれないし、現場での打ち合わせが予想外に長引いているのかもしれない。
そう思い、受話器を上げたときだった。
「深見課長!」
受話器を元に戻し、席を立つ。
深見課長は店舗開発課の課長で、一希の上司だ。
深見課長はフロアの一番奥にある自分のデスクの前で足を止め、駆け寄ったわたしを不思議そうに見下ろした。
「……お、お疲れ様です」
それにしても深見課長は相変わらずの威圧感だ。どちらかといえば無表情で社内の人には決して笑顔を見せない。
普通はそこで印象が悪くなって敬遠されるものだが深見課長は違う。恐ろしいほど整った顔立ち、かつ仕事もできて会社への貢献度も高く、多くの女子社員が憧れの眼差しを向けている人物である。
「何か?」
「えっと……。受付から内線がありまして、1階ロビーに本間さんと10時のアポイントがあるお客様がいらっしゃっているそうです」
続けて会社名とお客様の名前を告げる。すると深見課長は、「わかった」と答え、歩き出した。
返事があっさりしすぎて理解できない。その場でぽかんとしていると、深見課長はなぜか一希のデスクにまわっていた。
「本間から俺に電話があって10時の約束に間に合いそうにないということだったので、代わりに俺が対応することになった」
そういうことかと納得すると同時にほっとしていた。一希に電話をするなんていう余計なことをしなくてよかった。一希が仕事の約束を忘れるわけないもんね。
もちろん、これくらいの段取りはまともな社会人なら誰だってやっていること。でもたまに約束しているのに連絡なしでお客様を待たせてしまう社員もいるから。
「ではそのように受付に内線を入れておきます」
「いや、いいよ。俺からしておくから」
「はい」
深見課長は一希のデスクの上にあったクリアファイルの中から書類を取り出すと目を通し、ひととおり読み終えるとクリアファイルに挟み直した。それから受付に内線をすると端的に状況を説明し、少し会話をしたあと受話器を置いた。
「どうやら本間が戻ったみたいだ」
「えっ!」
「そろそろエレベーターで上がってくるはずだ」
一希がここに来る! それがわかった途端、体が石のように硬直してしまい動けなくなってしまった。
どうしよう、早く自分のデスクに戻らないと。昨日、自分からあんなことを言っておきながら何事もなかったような顔なんて到底できそうにない。
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