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第9章 わたしの隣にいてください
035(本編 最終話)
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□□□
ガラス張りのチャペルに木洩れ日がやさしく差し込んでいた。緑に囲まれたこの場所は都会の喧騒を忘れさせてくれる。
わたしは今、マタニティ用の純白のウェディングドレスに身を包んでいる。おごそかな雰囲気の中、バージンロードを歩くわたしを見つめているグレーのタキシード姿の一希は王子様そのもの。
とうとうこの日が来た。
挙式も披露宴もやらなくていいよと言ったわたしに、一希はかの有名なブライダル雑誌を片手に熱弁をふるい、その週末ロイヤルプリズムホテルのウェディング相談会に連れていってくれた。
でもわたしのためなんだと思う。これからお腹がどんどん大きくなるので遠慮しようと思っていたけれど、やっぱりウェディングドレスを着てみたいなというわたしの気持ちに気づいていたに違いない。
本当にどこまでもやさしい人。
愛を誓い、口づけを交わして目を開けたとき、一希は困った顔で笑っていた。わたしは恥ずかしくなってうつむいた。
「泣き虫だな」
一希がハンカチを取り出すと、みんなの前で涙を拭ってくれる。こんなときに泣くなんて格好悪い。せっかく綺麗にメイクをしてもらったのに崩れちゃう。
だけど一度涙がこぼれると次から次へとあふれてきて、たぶん今のわたしの顔はぐちゃぐちゃだと思う。
参列者の中には9月に無事出産を終えたりっちゃんもいる。彼女もハンカチ片手に号泣していて余計に感情が高ぶってしまった。
「どうしよう、止まらないよ」
だって幸せなんだもん。
大好きな一希と結婚できた。このひとの妻になれて本当によかったと思った。
「こうなったら気のすむまで存分に泣きなよ」
一希はわたしが泣き止むことをすっかり諦めた様子。クスリと笑い、わたしの腰を引き寄せた。
一希に触れられているとすごく安心できる。おかげで少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
「大丈夫?」
「うん。ごめんね」
「謝ることなんてないよ」
その後も式が続く。牧師さんの祈祷、そして賛美歌がチャペルに響き渡った。
式が終わると、今度はみんなからのたくさんの「おめでとう」の声が降りそそいだ。それに一希が笑顔で応えている。薄いピンク色のフラワーシャワーの中でわたしはそのやさしい横顔を見つめていた。
あの頃はまさかこんな日が来るなんて思わなかった。ひとりぼっちで、この先どうしようと思い悩んでいた。一希が他のひとと結婚すると勘違いして悲しみに暮れていた。
でもあの日の別れがなかったら、わたしは今も知らずにいただろう。一希のわたしに対する深い想い、一希の考えるわたしたちふたりの将来を……。
すべての誤解が解けた数日後、一希は改めてわたしにプロポーズしてくれた。そのときに一希のそんな気持ちを聞かせてもらった。
知らなかったよ。一希がずっとそんなことを考えていたなんて……。
「つぐみ」
ブーケトスのあと一希がわたしの名前を呼ぶので耳を寄せる。すると一希がそっとささやいた。
「結婚してくれてありがとう」
その言葉に胸がいっぱいになる。
だけど、もう泣かないよ。これからは守られてばかりじゃいけないから。わたしだって一希とこの子を守っていかなきゃ。ううん、守っていくよ。
だからね、一希──。
どうかお願い。
どうか、たくさんたくさん長生きしてください。
わたしも長生きできるようにがんばるから。
50年後もその笑顔で……。どうか、わたしの隣にいてください。
《完》
お読みくださってありがとうございました。
次頁より【番外編】です。
本編で省いたエピソード、過去編などを集めたSS集です。
8つのエピソードでボリュームがありますので、もうしばらくおつき合いください。
一希に焦点をあてたストーリーが中心となっています。
三人称・一希視点・たまに、つぐみ視点も。
(補足)
この作品は、『クールな上司と熱くとろけるプライベート』(電子書籍で発売中)の関連作品となっております。
深見課長はその作品にメインキャラとして登場しております。
時系列でいうと『未来はハッピーウェディング』のラストから少しあとのストーリーです。
ガラス張りのチャペルに木洩れ日がやさしく差し込んでいた。緑に囲まれたこの場所は都会の喧騒を忘れさせてくれる。
わたしは今、マタニティ用の純白のウェディングドレスに身を包んでいる。おごそかな雰囲気の中、バージンロードを歩くわたしを見つめているグレーのタキシード姿の一希は王子様そのもの。
とうとうこの日が来た。
挙式も披露宴もやらなくていいよと言ったわたしに、一希はかの有名なブライダル雑誌を片手に熱弁をふるい、その週末ロイヤルプリズムホテルのウェディング相談会に連れていってくれた。
でもわたしのためなんだと思う。これからお腹がどんどん大きくなるので遠慮しようと思っていたけれど、やっぱりウェディングドレスを着てみたいなというわたしの気持ちに気づいていたに違いない。
本当にどこまでもやさしい人。
愛を誓い、口づけを交わして目を開けたとき、一希は困った顔で笑っていた。わたしは恥ずかしくなってうつむいた。
「泣き虫だな」
一希がハンカチを取り出すと、みんなの前で涙を拭ってくれる。こんなときに泣くなんて格好悪い。せっかく綺麗にメイクをしてもらったのに崩れちゃう。
だけど一度涙がこぼれると次から次へとあふれてきて、たぶん今のわたしの顔はぐちゃぐちゃだと思う。
参列者の中には9月に無事出産を終えたりっちゃんもいる。彼女もハンカチ片手に号泣していて余計に感情が高ぶってしまった。
「どうしよう、止まらないよ」
だって幸せなんだもん。
大好きな一希と結婚できた。このひとの妻になれて本当によかったと思った。
「こうなったら気のすむまで存分に泣きなよ」
一希はわたしが泣き止むことをすっかり諦めた様子。クスリと笑い、わたしの腰を引き寄せた。
一希に触れられているとすごく安心できる。おかげで少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
「大丈夫?」
「うん。ごめんね」
「謝ることなんてないよ」
その後も式が続く。牧師さんの祈祷、そして賛美歌がチャペルに響き渡った。
式が終わると、今度はみんなからのたくさんの「おめでとう」の声が降りそそいだ。それに一希が笑顔で応えている。薄いピンク色のフラワーシャワーの中でわたしはそのやさしい横顔を見つめていた。
あの頃はまさかこんな日が来るなんて思わなかった。ひとりぼっちで、この先どうしようと思い悩んでいた。一希が他のひとと結婚すると勘違いして悲しみに暮れていた。
でもあの日の別れがなかったら、わたしは今も知らずにいただろう。一希のわたしに対する深い想い、一希の考えるわたしたちふたりの将来を……。
すべての誤解が解けた数日後、一希は改めてわたしにプロポーズしてくれた。そのときに一希のそんな気持ちを聞かせてもらった。
知らなかったよ。一希がずっとそんなことを考えていたなんて……。
「つぐみ」
ブーケトスのあと一希がわたしの名前を呼ぶので耳を寄せる。すると一希がそっとささやいた。
「結婚してくれてありがとう」
その言葉に胸がいっぱいになる。
だけど、もう泣かないよ。これからは守られてばかりじゃいけないから。わたしだって一希とこの子を守っていかなきゃ。ううん、守っていくよ。
だからね、一希──。
どうかお願い。
どうか、たくさんたくさん長生きしてください。
わたしも長生きできるようにがんばるから。
50年後もその笑顔で……。どうか、わたしの隣にいてください。
《完》
お読みくださってありがとうございました。
次頁より【番外編】です。
本編で省いたエピソード、過去編などを集めたSS集です。
8つのエピソードでボリュームがありますので、もうしばらくおつき合いください。
一希に焦点をあてたストーリーが中心となっています。
三人称・一希視点・たまに、つぐみ視点も。
(補足)
この作品は、『クールな上司と熱くとろけるプライベート』(電子書籍で発売中)の関連作品となっております。
深見課長はその作品にメインキャラとして登場しております。
時系列でいうと『未来はハッピーウェディング』のラストから少しあとのストーリーです。
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