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9.心の奥で触れ合って
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「すみませんでした。あんな醜態を見せてしまって」
定食屋の帰り、商店街を歩きながら冴島さんに謝ると、彼が無言のままわたしの手を掴み、ぎゅっと握ってきた。
「ひ、昼間ですよ!」
だけど離したくないので、わたしも握り返す。
「たまにはいいじゃない? あっ、でも手をつなぐのは初めてか」
「そうですね、初めてですね」
「つないでよかった?」
「いちいち聞かないでください。わかってるくせに……」
「ちょっと意地悪だったね。困ってる顔も見たくてつい。だって可愛いから、咲都」
ここまで言われると開き直るしかない。それに冴島さんはこんなふうにからかいながら、わたしを一歩ずつ近づけさせてくれているんだ。
遠慮しないで。不安にならないで。そんな想いをつながれているこの手から感じる。力強いのにやさしく包み込んでくれる。
「ありがとうございます」
「なにが?」
「手をつないでくださって」
冴島さんがつないでいた手を一度離し、再びわたしの手を取ると指も絡ませた。うれしそうな顔を見て、わたしは素直に自分の気持ちを打ち明けることにした。
「実は、わたしも自信をなくしていました」
「わたしも自信をなくしていました」
定食屋で冴島さんもそんなことを言っていた。結局、具体的な話を聞くことはできなかったけれど。
「日曜日のデートの帰り際、なんとなく距離を感じたんです。その日の冴島さんはやさしくて、わたしを楽しませようとしてくれていたのに……」
「ああ、あのときか。あのとき……自制したんだ」
「どういうことですか?」
言っていることが理解できなかった。
「船の上で咲都に避けられて、罪悪感みたいなものを感じたんだよ」
罪悪感? それはどういうことなんだろう。
「わたし、避けた覚えはないんですが」
「わかってる。咲都はたぶん戸惑っていたんだと思う」
「あっ……」
船のデッキでストールを肩にかけられて、すごくいいムードになって、気持ちも高ぶっていた。冴島さんを真正面から見られなくなって、きっとそのとき避けるような態度をとってしまったのかもしれない。
「たしかに戸惑っていました。でも悪気はなかったんです。ああいう雰囲気に慣れてなくて」
「僕も男だから。大事にしたいと思う反面、無性に自分のものにしたくなるんだ。でも、毎回自分の気持ちを押しつけるのもどうかと思って。そのことが素っ気ない態度に映ってしまったのかな」
切ない声に胸がしめつけられる。
でもこれが冴島さんの本音。わたしが知りたかった冴島さんなのかもしれない。
「あのときは咲都の気持ちがまだ僕の気持ちに追いついていなかったのかもしれないね」
「そんなことないです。あのときもわたしは本当に冴島さんのことを好きでした」
「じゃあ、なんで僕のところに飛び込んできてくれなかったの?」
「え……」
「僕がそんなに信用できなかった?」
「まさか! 信用してました。冴島さんの気持ちはちゃんとわかっていましたし、誠実な人だとも思っていました」
でもわたしの気持ちは彼に伝わっていなかった。冴島さんはわたしの感情を読み取ることが上手なはずなのに。
でもそれもわたしのせいだ。短期間で急激に冴島さんを好きになったせいで、自分でも混乱して、好きという気持ちを伝えることが怖いと感じていたから。
もしかして距離を作っていたのはわたしのほうだったの?
だけど冴島さんとこうして話してみて、ようやく気がついた。
そうだ、その通りだ。わたしが臆病だったから、ずっと冴島さんを傷つけていたんだ。自信を失わせてしまった。
「そんな悲しそうな顔をしなくていいんだよ。それでも僕は咲都の気持ちが完全に僕に向いてくれるまで待つべきだったんだ。だから余計に自分を情けなく思ってしまった」
「……違う。違うんです」
「咲都?」
「さっきも言った通り、わたしはあのときすでに冴島さんのことを心から好きでした。好きで好きでたまらなくて夢中だったんです。それなのにそれを自分で認めることが怖かった……」
認めたら想いを止められなくなる。そうなったらきっと苦しくなると思い込んでいた。
でも冴島さんはこの想いを受け止めてくれる人。それがわかったから、もうがまんしない。この気持ちを伝えるのは今だ。
「冴島さんが、わたしの気持ちを重く感じてしまうんじゃないかって、それが怖かったんです」
「咲都の気持ちが重いなんて、思うわけないだろう」
「自信がなくて。冴島さんが素敵すぎて、わたしにはもったいなくて、それで……。だけどもう大丈夫です! 自分の答えをちゃんと見つけられました。まだ不安なこともありますけど、逃げません。ずっとそばにいたいです!」
わたしが熱く語りすぎたせいで、冴島さんはきょとんとしていた。だけどすぐに余裕を取り戻し、楽しげに口角を上げる。
「今のは想定外だった。熱烈な告白だね」
「可愛げなくてすみません」
「ううん、どんな咲都も可愛いよ」
相変わらず、さらりと言ってのける。
こんな余裕を見せつけられるたびに過去の女性の影がちらつくけれど、まっすぐに見つめてくれる瞳に嘘は見えない。
わたしは冴島さんが与えてくれるものを素直に受け止めればいいだけ。信じて一緒に歩いていけばいいんだ。
定食屋の帰り、商店街を歩きながら冴島さんに謝ると、彼が無言のままわたしの手を掴み、ぎゅっと握ってきた。
「ひ、昼間ですよ!」
だけど離したくないので、わたしも握り返す。
「たまにはいいじゃない? あっ、でも手をつなぐのは初めてか」
「そうですね、初めてですね」
「つないでよかった?」
「いちいち聞かないでください。わかってるくせに……」
「ちょっと意地悪だったね。困ってる顔も見たくてつい。だって可愛いから、咲都」
ここまで言われると開き直るしかない。それに冴島さんはこんなふうにからかいながら、わたしを一歩ずつ近づけさせてくれているんだ。
遠慮しないで。不安にならないで。そんな想いをつながれているこの手から感じる。力強いのにやさしく包み込んでくれる。
「ありがとうございます」
「なにが?」
「手をつないでくださって」
冴島さんがつないでいた手を一度離し、再びわたしの手を取ると指も絡ませた。うれしそうな顔を見て、わたしは素直に自分の気持ちを打ち明けることにした。
「実は、わたしも自信をなくしていました」
「わたしも自信をなくしていました」
定食屋で冴島さんもそんなことを言っていた。結局、具体的な話を聞くことはできなかったけれど。
「日曜日のデートの帰り際、なんとなく距離を感じたんです。その日の冴島さんはやさしくて、わたしを楽しませようとしてくれていたのに……」
「ああ、あのときか。あのとき……自制したんだ」
「どういうことですか?」
言っていることが理解できなかった。
「船の上で咲都に避けられて、罪悪感みたいなものを感じたんだよ」
罪悪感? それはどういうことなんだろう。
「わたし、避けた覚えはないんですが」
「わかってる。咲都はたぶん戸惑っていたんだと思う」
「あっ……」
船のデッキでストールを肩にかけられて、すごくいいムードになって、気持ちも高ぶっていた。冴島さんを真正面から見られなくなって、きっとそのとき避けるような態度をとってしまったのかもしれない。
「たしかに戸惑っていました。でも悪気はなかったんです。ああいう雰囲気に慣れてなくて」
「僕も男だから。大事にしたいと思う反面、無性に自分のものにしたくなるんだ。でも、毎回自分の気持ちを押しつけるのもどうかと思って。そのことが素っ気ない態度に映ってしまったのかな」
切ない声に胸がしめつけられる。
でもこれが冴島さんの本音。わたしが知りたかった冴島さんなのかもしれない。
「あのときは咲都の気持ちがまだ僕の気持ちに追いついていなかったのかもしれないね」
「そんなことないです。あのときもわたしは本当に冴島さんのことを好きでした」
「じゃあ、なんで僕のところに飛び込んできてくれなかったの?」
「え……」
「僕がそんなに信用できなかった?」
「まさか! 信用してました。冴島さんの気持ちはちゃんとわかっていましたし、誠実な人だとも思っていました」
でもわたしの気持ちは彼に伝わっていなかった。冴島さんはわたしの感情を読み取ることが上手なはずなのに。
でもそれもわたしのせいだ。短期間で急激に冴島さんを好きになったせいで、自分でも混乱して、好きという気持ちを伝えることが怖いと感じていたから。
もしかして距離を作っていたのはわたしのほうだったの?
だけど冴島さんとこうして話してみて、ようやく気がついた。
そうだ、その通りだ。わたしが臆病だったから、ずっと冴島さんを傷つけていたんだ。自信を失わせてしまった。
「そんな悲しそうな顔をしなくていいんだよ。それでも僕は咲都の気持ちが完全に僕に向いてくれるまで待つべきだったんだ。だから余計に自分を情けなく思ってしまった」
「……違う。違うんです」
「咲都?」
「さっきも言った通り、わたしはあのときすでに冴島さんのことを心から好きでした。好きで好きでたまらなくて夢中だったんです。それなのにそれを自分で認めることが怖かった……」
認めたら想いを止められなくなる。そうなったらきっと苦しくなると思い込んでいた。
でも冴島さんはこの想いを受け止めてくれる人。それがわかったから、もうがまんしない。この気持ちを伝えるのは今だ。
「冴島さんが、わたしの気持ちを重く感じてしまうんじゃないかって、それが怖かったんです」
「咲都の気持ちが重いなんて、思うわけないだろう」
「自信がなくて。冴島さんが素敵すぎて、わたしにはもったいなくて、それで……。だけどもう大丈夫です! 自分の答えをちゃんと見つけられました。まだ不安なこともありますけど、逃げません。ずっとそばにいたいです!」
わたしが熱く語りすぎたせいで、冴島さんはきょとんとしていた。だけどすぐに余裕を取り戻し、楽しげに口角を上げる。
「今のは想定外だった。熱烈な告白だね」
「可愛げなくてすみません」
「ううん、どんな咲都も可愛いよ」
相変わらず、さらりと言ってのける。
こんな余裕を見せつけられるたびに過去の女性の影がちらつくけれど、まっすぐに見つめてくれる瞳に嘘は見えない。
わたしは冴島さんが与えてくれるものを素直に受け止めればいいだけ。信じて一緒に歩いていけばいいんだ。
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