FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼

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10.身分違いの恋だとしても

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 まったくの予想外だった。
 夕べ、四日後の土曜日に冴島さんと会う約束をしたのだが、その日を待たずとも、翌日あっさりと冴島さんに会えたのだった。

「いやあ、仲直りおめでとう! 心配してたんだよ。なあ、野上?」

 ここは駅前にある和風居酒屋。
 二階のお座敷席はゆったりと広く、モダンできれいな内装だ。乾杯すると、コタさんが上機嫌でビールを喉に流し込んだ。
 冴島さんと野上さんは少し不服そうにグラスに口をつけた。

 それにしても、なぜわたしまで呼ばれたのだろう。
 夕方、冴島さんから電話があり、コタさんが一緒に飲もうと言ってきたそうで、こうして四人でテーブルを囲んでいる。

「咲都ちゃん、遠慮なく飲んでね。今日は野上のおごりだから」

 コタさんがお通しのめかぶを食べながら言う。

「なんで僕? まあ別にいいけどさ」

 野上さんが冷静に答えた。

「あたり前だろう。咲都ちゃんを悩ませた原因が野上にあったんだから」
「僕じゃなくて瑠璃だよ。僕は関係ない」

 どうやらコタさんは、昨日の昼間の出来事を知っているらしい。

「その件なんだけど、コタと野上に世話になったみたいだから、とりあえず礼を言っとくよ。どうもな」

 わたしの隣に座っている冴島さんが気まずそうに言う。
 そっか。わたしがコタさんたちに相談をしたからそれで……。
 事情がわかり、それならおごるのはわたしのほうだと思い、申し出ると、冴島さんに却下された。

「コタは飲む口実がほしいだけなんだよ。こいつ、明日は丸一日休みだから、思う存分飲めるってはりきってたし」
「あっ、バレた? あとね、咲都ちゃんともっと話したいなあと思って」
「あのさ、コタ。さっきから気になってたんだけど。『咲都ちゃん』ってなんだよ?」
「別にいいだろう。この間、咲都ちゃんもそれでいいって言ってくれたんだし」
「彼氏の許可は出てないぞ」
「あっれー、冴島。いつからそんなに独占欲が強くなっちゃったのかな?」

 コタさんがおもしろがってツッコミを入れた。
 野上さんは意味深に笑っている。
 当の冴島さんは完全スルーでビールを飲んでいた。
 わたしは照れくさくて、下を向いたまま、話の流れが変わるのを待った。
 やがてコタさんと野上さんが世間話をし出してほっとしていると、頼んでいた料理が運ばれてきた。

「お仕事は大丈夫だったんですか?」

 鶏のから揚げを取り皿に取り分けて冴島さんの前に置く。
 冴島さんはから揚げをほおばりながら、「まあね」と微笑んだ。

「どっちにしても今日は実家に顔を出す予定だったから」
「なおさら帰らなくていいんですか? 用事があったんですよね?」
「うん、そうなんだけど……」

 冴島さんは箸を持ったまま考え込んでしまった。
 深刻な問題が発生しているのだろうか。

「本当に大丈夫ですか? 今からでもご実家に行かれたほうがいいんじゃないですか?」

 だんだん心配になってきた。もしご家族の身体の具合が悪いとか、トラブルに見舞われているのであれば、すぐにでも帰るべきだ。

「わたしも今日は帰ります。でもわたしにできることがあれば言ってください。なんでもしますから」
「咲都……」
「遠慮しないでください。心配ごとがあるなら力になりたいんです」
「なら、今から一緒に来てくれる?」
「一緒にって、ご実家にですか?」
「うん。そのほうが話が早いから」

 なにがなんだかわからないが、随分と急な展開だ。

「じゃあ行こう」

 わたしの手を取り、冴島さんが立ち上がる。つられてわたしも立ったが、わたしになにができるのだろう。
 いや、その前に重大なことがある。冴島さんのご実家ということは、冴島物産の社長の家ということなので、気軽におじゃましちゃまずいだろうと不安になった。
 でもお忙しい方だろうから、不在という可能性もある。うん、そうだよ。きっとそうに違いない。冴島さんだって、小百合社長はともかく、いきなりお父様に引き合わせるはずはないだろう。

「コタ、野上。悪いけど今日は僕たち、先に帰らせてもらうよ」
「まだ来たばかりだろう?」

 コタさんが渋い顔をする。

「いいから、行かせてやりなよ。秋成は言い出したら聞かないから、引き留めたって無駄だよ」

 野上さんがやさしく言い含める。

「わかったよ。その代わり、埋め合わせよろしく」

 コタさんがあきらめたように言って、それからやわらかく笑った。

「それじゃあまた今度。次は僕がおごるから」

 冴島さんはそう言うと、「行こ」とわたしを引っ張った。

「お、お先に失礼します。ごちそうさまでした!」

 わたしも焦りながら挨拶をして、冴島さんのあとについて歩いた。
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