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これから始まる物語
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次の日、朝起きて朝食を食べて、歯を磨いて、顔を洗う。
いつもと変わらない朝を過ごしてから僕は父さんたちと一緒に、桜の樹が生えている丘を訪れていた。
「肇、忘れ物はない?」
「うん」
「あっちでも元気にしていろよ」
「わかってる」
「アオイに会ったら」
「わかって――」
「『僕はお前の姉さんに鍛えられてパワーアップして戻ってきた。もうアオイなんて目じゃない』って言うのよ」
「ごめん、やっぱりわかってなかった……」
母さんってば、最後の最後で茶化すんだから。
「ま、アオイちゃんにはその手紙を渡しておけば大丈夫だ。しっかり渡せよ」
「もちろん。会ったら一番に渡すよ」
ここに来る前、父さんと母さんから受け取った封筒。
中は見せて貰っていないけど、きっと二人のことをいっぱい書いてあるんだろう。
僕もそれとなく、毎日幸せそうにしていたと伝えておこうかな。
「それでは行ってきます!」
「おう!」
「行ってらっしゃい」
僕は二人の声に後押しされるように森の中へと入っていく。
決して後ろは振り返らない。振り返ってしまってはいけないような、気がしたから。
――森の中を歩く。
「…………」
ただひたすらに歩き続ける。
「…………」
いつの間にか森全体に霧がかかっていて、もうどこから入ってきたのかなんてわからない。
元より戻るつもりはないけれど、これじゃあどっちに進めばいいのかわからない。
「まいったな……」
スマホを見てみるけど、当然のように圏外。
「母さんは懐かしい香りがどうのって言っていたけど……すんすん」
うん、まったくわからない。
何百年と生きてきたからこそわかることであって、一か月も滞在していない僕には到底無理そうだ。
「とはいえ、どうするかなぁ……」
闇雲に動き続けてもゴールにたどり着けるとは思えないし。
と、思っていると、
「――っ」
歌が聞こえた気がした。
どこか、遠くから。
愛おしいあの子が歌う。
懐かしいあの歌が。
「はあっ、はあっ!」
気が付けば僕は一心に走っていた。
周りの景色は一切変わらない。
けれど、僕には確信があった。
この先にいると。
その証拠に聞こえてくる歌も段々とはっきりしてきた。
「はぁ、はぁ……サクラ……っ!」
そして、僕はついに長い長い森を抜ける。
眼前には懐かしい景色が。
……いた!
あの時と同じ場所で、同じように歌っていた。
少しでも早く彼女の元へ行きたい。
僕は持ってきた荷物を走りながらその場に置いていく。
「サクラあああああぁぁぁぁっ!!!!」
「え、肇……さん?」
小さな体を抱きしめる。
三年ぶりの恋人は何一つ変わっていなかった。
花のように甘い香りも、柔らかさも、優しさも。
「本当に、本当の本当に肇さん、なんですか?」
「うん、正真正銘、サクラの知っている肇だよ」
「肇さんっ!」
「――んんっ!?」
突然、キスをされた。
舌まで絡ませ合う濃厚なキスだ。
まるで今まで離れていた分の寂しさを埋めるようにお互いを求め合う。
「ずっと、信じていました。肇さんは絶対に戻ってくるって」
「……サクラの歌がね、森で迷っていた僕を導いてくれたんだ」
「だからこそ、僕はここに辿り着くことが出来た。ありがとう」
「ふふっ、毎日ここで肇さんのことを想って歌った甲斐がありました」
やることはまだ沢山あるけれど……。
それはゆっくりやればいいだろう。
僕とサクラの物語はこれから始まるのだから。
いつもと変わらない朝を過ごしてから僕は父さんたちと一緒に、桜の樹が生えている丘を訪れていた。
「肇、忘れ物はない?」
「うん」
「あっちでも元気にしていろよ」
「わかってる」
「アオイに会ったら」
「わかって――」
「『僕はお前の姉さんに鍛えられてパワーアップして戻ってきた。もうアオイなんて目じゃない』って言うのよ」
「ごめん、やっぱりわかってなかった……」
母さんってば、最後の最後で茶化すんだから。
「ま、アオイちゃんにはその手紙を渡しておけば大丈夫だ。しっかり渡せよ」
「もちろん。会ったら一番に渡すよ」
ここに来る前、父さんと母さんから受け取った封筒。
中は見せて貰っていないけど、きっと二人のことをいっぱい書いてあるんだろう。
僕もそれとなく、毎日幸せそうにしていたと伝えておこうかな。
「それでは行ってきます!」
「おう!」
「行ってらっしゃい」
僕は二人の声に後押しされるように森の中へと入っていく。
決して後ろは振り返らない。振り返ってしまってはいけないような、気がしたから。
――森の中を歩く。
「…………」
ただひたすらに歩き続ける。
「…………」
いつの間にか森全体に霧がかかっていて、もうどこから入ってきたのかなんてわからない。
元より戻るつもりはないけれど、これじゃあどっちに進めばいいのかわからない。
「まいったな……」
スマホを見てみるけど、当然のように圏外。
「母さんは懐かしい香りがどうのって言っていたけど……すんすん」
うん、まったくわからない。
何百年と生きてきたからこそわかることであって、一か月も滞在していない僕には到底無理そうだ。
「とはいえ、どうするかなぁ……」
闇雲に動き続けてもゴールにたどり着けるとは思えないし。
と、思っていると、
「――っ」
歌が聞こえた気がした。
どこか、遠くから。
愛おしいあの子が歌う。
懐かしいあの歌が。
「はあっ、はあっ!」
気が付けば僕は一心に走っていた。
周りの景色は一切変わらない。
けれど、僕には確信があった。
この先にいると。
その証拠に聞こえてくる歌も段々とはっきりしてきた。
「はぁ、はぁ……サクラ……っ!」
そして、僕はついに長い長い森を抜ける。
眼前には懐かしい景色が。
……いた!
あの時と同じ場所で、同じように歌っていた。
少しでも早く彼女の元へ行きたい。
僕は持ってきた荷物を走りながらその場に置いていく。
「サクラあああああぁぁぁぁっ!!!!」
「え、肇……さん?」
小さな体を抱きしめる。
三年ぶりの恋人は何一つ変わっていなかった。
花のように甘い香りも、柔らかさも、優しさも。
「本当に、本当の本当に肇さん、なんですか?」
「うん、正真正銘、サクラの知っている肇だよ」
「肇さんっ!」
「――んんっ!?」
突然、キスをされた。
舌まで絡ませ合う濃厚なキスだ。
まるで今まで離れていた分の寂しさを埋めるようにお互いを求め合う。
「ずっと、信じていました。肇さんは絶対に戻ってくるって」
「……サクラの歌がね、森で迷っていた僕を導いてくれたんだ」
「だからこそ、僕はここに辿り着くことが出来た。ありがとう」
「ふふっ、毎日ここで肇さんのことを想って歌った甲斐がありました」
やることはまだ沢山あるけれど……。
それはゆっくりやればいいだろう。
僕とサクラの物語はこれから始まるのだから。
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