9 / 15
第1章 魔法少年
黄泉との出会い
しおりを挟む
昼下がりの喫茶店。
窓際の席に座ると、外の街路樹が風に揺れ、カップの中の珈琲が小さく波打った。
俺はスプーンを回しながら、向かいに座る咲希の横顔をうかがった。
彼女はベレー帽を外し、黒髪のショートボブを指先で整えながら、小さく息を吐く。
どこか言葉を選ぶように、慎重な気配をまとっていた。
「……黄泉のことを話すね」
その一言で、俺は背筋を正した。
咲希は視線をカップの中に落とし、淡々と語り始めた。
「学校から帰る途中だった。急に意識がぼーっとして……気づいたら、足が勝手に神社へ向かってたの。鳥居を潜ったとき、そこに……菜月もいた」
心臓が跳ねる。
菜月。彼女の名前を聞くたびに、胸の奥の古傷が疼く。
「菜月も同じだったみたい。……導かれるように、あの場所に」
咲希の声が震えた瞬間、俺の意識は過去へと引きずり込まれた。
――回想。
境内に差し込む夕陽が、鳥居を赤く染め上げていた。
意識がはっきりした時、そこには――奇妙な存在がいた。
「君たちを呼んだのは私だよ」
聞こえたのは、少年のようにも、老人のようにも響く声。
姿は人に近いが、どこか現実から浮き上がった異質さをまとっていた。
菜月が恐る恐る口を開いた。
「どうして……私たちを呼んだの?」
「理由は単純さ。君たちに――魔法少女になってもらいたい」
その突拍子もない言葉に、咲希は眉をひそめた。
「は? 何言ってんの?」
黄泉と名乗るその存在は、どこか楽しげに肩を竦めた。
「魔法少女は、この世界に蔓延る“黒獣”を倒す使命を持つ者だよ。君たちはその適性を持っている。だから、ここに導いたんだ」
「魔法少女? 馬鹿げてる。私たちを舐めてるの?」
咲希の吐き捨てるような声に、境内の空気が少し冷え込む。
そんな中で、菜月が気を遣うように口を開いた。
「でも……困ってるんだよね? 狐さん」
その柔らかな声に、黄泉はわずかに目を細めた。
対して咲希は冷たく言い放つ。
「妙な生き物に構わなくていいでしょ」
それでも菜月は優しかった。
「あなたの名前は、なんて言うの?」
「私は――黄泉。こことは違う異世界から来た、使徒だ」
「黄泉……。よろしくね、黄泉」
笑顔で差し伸べられたその言葉に、咲希は内心で呟いた。
(……お人好しすぎるでしょ)
黄泉は再び問いかける。
「改めて聞くよ。魔法少女、どうかな?」
菜月は「うーん」と困ったように考え込む。
一方の咲希は、ため息をついて踵を返した。
「じゃあ、私は帰る。くだらない」
鳥居へと足を向けた、その瞬間――。
――ゴオォォォッ!!
低い唸り声とともに、鳥居の奥から黒い影が現れた。
異形の四肢、爛々と光る瞳。黒獣。
「なっ……何なの、あれ……!」
咲希が息を呑む。
黄泉はまるで散歩にでも来たように緊張感のない声で言った。
「どうやら私を追ってきたみたいだね」
「ど、どうすれば……」
菜月の声が震える。
「黒獣。世界に災いをもたらす者だ。……あれを倒せるのは、魔法少女だけ」
「お前……謀ったな!」
咲希の怒声が境内に響く。
しかし菜月は必死に首を振った。
「そんな……黄泉はそんなつもりじゃ……!」
黒獣が、土を抉りながら近づいてくる。
黄泉の目が、わずかに細められた。
「このままでは全員やられる。……仕方ないね。緊急で、君たちを“魔法少女”にする」
その言葉と同時に、眩い光が二人を包み込んだ。
咲希と菜月の悲鳴が、光の中に溶けて消えていく――。
◇
「……それが、始まりだった」
珈琲の香りが、再び意識を現実に引き戻す。
咲希は淡々と語り終え、視線をカップに落としたまま、唇を噛んだ。
俺は言葉を失った。
黄泉――あいつは、最初から“偽り”で二人を絡め取ったのか。
そして、菜月は……。
胸の奥で、怒りと悔しさが渦を巻いた。
窓際の席に座ると、外の街路樹が風に揺れ、カップの中の珈琲が小さく波打った。
俺はスプーンを回しながら、向かいに座る咲希の横顔をうかがった。
彼女はベレー帽を外し、黒髪のショートボブを指先で整えながら、小さく息を吐く。
どこか言葉を選ぶように、慎重な気配をまとっていた。
「……黄泉のことを話すね」
その一言で、俺は背筋を正した。
咲希は視線をカップの中に落とし、淡々と語り始めた。
「学校から帰る途中だった。急に意識がぼーっとして……気づいたら、足が勝手に神社へ向かってたの。鳥居を潜ったとき、そこに……菜月もいた」
心臓が跳ねる。
菜月。彼女の名前を聞くたびに、胸の奥の古傷が疼く。
「菜月も同じだったみたい。……導かれるように、あの場所に」
咲希の声が震えた瞬間、俺の意識は過去へと引きずり込まれた。
――回想。
境内に差し込む夕陽が、鳥居を赤く染め上げていた。
意識がはっきりした時、そこには――奇妙な存在がいた。
「君たちを呼んだのは私だよ」
聞こえたのは、少年のようにも、老人のようにも響く声。
姿は人に近いが、どこか現実から浮き上がった異質さをまとっていた。
菜月が恐る恐る口を開いた。
「どうして……私たちを呼んだの?」
「理由は単純さ。君たちに――魔法少女になってもらいたい」
その突拍子もない言葉に、咲希は眉をひそめた。
「は? 何言ってんの?」
黄泉と名乗るその存在は、どこか楽しげに肩を竦めた。
「魔法少女は、この世界に蔓延る“黒獣”を倒す使命を持つ者だよ。君たちはその適性を持っている。だから、ここに導いたんだ」
「魔法少女? 馬鹿げてる。私たちを舐めてるの?」
咲希の吐き捨てるような声に、境内の空気が少し冷え込む。
そんな中で、菜月が気を遣うように口を開いた。
「でも……困ってるんだよね? 狐さん」
その柔らかな声に、黄泉はわずかに目を細めた。
対して咲希は冷たく言い放つ。
「妙な生き物に構わなくていいでしょ」
それでも菜月は優しかった。
「あなたの名前は、なんて言うの?」
「私は――黄泉。こことは違う異世界から来た、使徒だ」
「黄泉……。よろしくね、黄泉」
笑顔で差し伸べられたその言葉に、咲希は内心で呟いた。
(……お人好しすぎるでしょ)
黄泉は再び問いかける。
「改めて聞くよ。魔法少女、どうかな?」
菜月は「うーん」と困ったように考え込む。
一方の咲希は、ため息をついて踵を返した。
「じゃあ、私は帰る。くだらない」
鳥居へと足を向けた、その瞬間――。
――ゴオォォォッ!!
低い唸り声とともに、鳥居の奥から黒い影が現れた。
異形の四肢、爛々と光る瞳。黒獣。
「なっ……何なの、あれ……!」
咲希が息を呑む。
黄泉はまるで散歩にでも来たように緊張感のない声で言った。
「どうやら私を追ってきたみたいだね」
「ど、どうすれば……」
菜月の声が震える。
「黒獣。世界に災いをもたらす者だ。……あれを倒せるのは、魔法少女だけ」
「お前……謀ったな!」
咲希の怒声が境内に響く。
しかし菜月は必死に首を振った。
「そんな……黄泉はそんなつもりじゃ……!」
黒獣が、土を抉りながら近づいてくる。
黄泉の目が、わずかに細められた。
「このままでは全員やられる。……仕方ないね。緊急で、君たちを“魔法少女”にする」
その言葉と同時に、眩い光が二人を包み込んだ。
咲希と菜月の悲鳴が、光の中に溶けて消えていく――。
◇
「……それが、始まりだった」
珈琲の香りが、再び意識を現実に引き戻す。
咲希は淡々と語り終え、視線をカップに落としたまま、唇を噛んだ。
俺は言葉を失った。
黄泉――あいつは、最初から“偽り”で二人を絡め取ったのか。
そして、菜月は……。
胸の奥で、怒りと悔しさが渦を巻いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる