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第2章 魔力亡き者
封じられた記憶
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午後の陽射しが、図書館のガラス越しに柔らかく差し込む。
それは静けさと、どこか取り残されたような孤独を同時に運んでくる光だった。
広瀬美宏は静かにページをめくっていた。
彼女の手元には、古びた魔法少女たちの記録――咲希が持ち込んだ黄泉の行動記録が残されている。
「……これ、黄泉の行動記録?」
咲希は頷いた。
「私と菜月が契約した日から使っていた連絡用アーカイブ。正式なものじゃないけど、黄泉の“癖”みたいなものは残ってる」
「癖……?」
「人間の感情が極端に動いた瞬間を狙うんだよ。後悔、憎しみ、希望、絶望――そういうのが魔力として最も純粋になる。黄泉はそれを見極める嗅覚が異常なんだ」
圭斗は黙って美宏を見つめる。
美宏は表情を変えずページを見つめていたが、唇の端が微かに震えていた。
「……私も“その瞬間”を見られてたんだろうね。捨てられるほど、価値のない感情だったってこと」
「違う」
思わず声が出た。
「そうじゃない。お前は今、生きている。それだけで価値があるって証拠だろ」
美宏は目を見開き、そっと視線を伏せた。
「……不思議。圭斗くんって、優しいね。でも、そんな優しさを、黄泉は真っ先に壊しに来るよ」
その瞬間――
ガラスが砕け、黒い影が図書館内に飛び込んできた。
「下がって!」
咲希が薙刀を即座に構える。
しかし、黒獣の動きは鋭く、薙刀をかすめると、天井へと跳ね上がった。
「今までの黒獣と……動きが違う?」
圭斗が二刀流の黒刀を構えながら後ずさる。
黒獣の瞳が赤く光る。そして、首元には菜月の魔法のペンダントがぶら下がっていた。
「っ……それ、菜月の……!」
咲希の顔に驚愕が走る。
ペンダントは魔法少女にしか持てない契約の証――
(じゃあ、これは……菜月が……!)
「まさか……菜月の記憶が、黒獣に吸収されてるってこと……?」
「記憶……!」
「黒獣がただの魔物じゃないなら、感情そのものを吸収して進化している可能性がある。菜月の最期の記憶が、今もその中に……!」
美宏の足が震え、血の気が引いていく。
「……そんな……魔法少女の記憶にまで……!?」
圭斗は咄嗟に美宏の前に立った。
「美宏! 狼狽えてる場合じゃない! 俺たちがやらなきゃいけないのは、あの黒獣を倒すことだ!」
美宏の目が潤む。
「……でも、私には、もう……魔法も、何もない……!」
「じゃあ、俺たちが戦う! お前はあのペンダント……菜月の記憶を“感じて”くれ!」
黒獣が再び跳躍し、咲希の背後に迫る。
「咲希、後ろ――!」
間一髪で圭斗の黒刀が黒獣の脚を打つ。
その動きの鈍った瞬間、咲希が跳躍し、薙刀でペンダントごと黒獣の胸を一閃した。
「今だ、圭斗!」
圭斗が叫び、黒刀を握りしめる。
「菜月の記憶を、返せ――!」
クナイが黒獣の中心を貫き、黒い霧が空気中に霧散する。
残ったのは、一つの光の欠片――ペンダントの中心に埋め込まれた記憶の粒。
美宏がそっと触れた瞬間、光が弾け、淡い幻影が広がった。
そこには、最後の夜、菜月が見上げた空。
そして、涙を流しながら何かを呟く姿。
『……圭斗、ごめんね。本当は……もっと、話したかった』
美宏は唇を噛みしめ、そっと呟いた。
「……ごめん、菜月。私、ようやく見えたよ……」
光が消える。
その瞬間、美宏の指先が微かに輝いた。
「えっ……?」
咲希が息を飲む。
「……魔力、戻ってる……!」
黄泉によって切られたはずの契約が、記憶に触れたことで再び“繋がり”を取り戻したのだ。
圭斗は確信した。
(これは、菜月が遺した“希望”だ)
夜が近づいていた。
でも、もう恐怖はなかった。
――黄泉の企みが少しずつ暴かれていく中、俺たちの絆は確かに強くなっていた。
そして、失われたものを取り戻すための、新たな戦いが静かに幕を開けていた。
それは静けさと、どこか取り残されたような孤独を同時に運んでくる光だった。
広瀬美宏は静かにページをめくっていた。
彼女の手元には、古びた魔法少女たちの記録――咲希が持ち込んだ黄泉の行動記録が残されている。
「……これ、黄泉の行動記録?」
咲希は頷いた。
「私と菜月が契約した日から使っていた連絡用アーカイブ。正式なものじゃないけど、黄泉の“癖”みたいなものは残ってる」
「癖……?」
「人間の感情が極端に動いた瞬間を狙うんだよ。後悔、憎しみ、希望、絶望――そういうのが魔力として最も純粋になる。黄泉はそれを見極める嗅覚が異常なんだ」
圭斗は黙って美宏を見つめる。
美宏は表情を変えずページを見つめていたが、唇の端が微かに震えていた。
「……私も“その瞬間”を見られてたんだろうね。捨てられるほど、価値のない感情だったってこと」
「違う」
思わず声が出た。
「そうじゃない。お前は今、生きている。それだけで価値があるって証拠だろ」
美宏は目を見開き、そっと視線を伏せた。
「……不思議。圭斗くんって、優しいね。でも、そんな優しさを、黄泉は真っ先に壊しに来るよ」
その瞬間――
ガラスが砕け、黒い影が図書館内に飛び込んできた。
「下がって!」
咲希が薙刀を即座に構える。
しかし、黒獣の動きは鋭く、薙刀をかすめると、天井へと跳ね上がった。
「今までの黒獣と……動きが違う?」
圭斗が二刀流の黒刀を構えながら後ずさる。
黒獣の瞳が赤く光る。そして、首元には菜月の魔法のペンダントがぶら下がっていた。
「っ……それ、菜月の……!」
咲希の顔に驚愕が走る。
ペンダントは魔法少女にしか持てない契約の証――
(じゃあ、これは……菜月が……!)
「まさか……菜月の記憶が、黒獣に吸収されてるってこと……?」
「記憶……!」
「黒獣がただの魔物じゃないなら、感情そのものを吸収して進化している可能性がある。菜月の最期の記憶が、今もその中に……!」
美宏の足が震え、血の気が引いていく。
「……そんな……魔法少女の記憶にまで……!?」
圭斗は咄嗟に美宏の前に立った。
「美宏! 狼狽えてる場合じゃない! 俺たちがやらなきゃいけないのは、あの黒獣を倒すことだ!」
美宏の目が潤む。
「……でも、私には、もう……魔法も、何もない……!」
「じゃあ、俺たちが戦う! お前はあのペンダント……菜月の記憶を“感じて”くれ!」
黒獣が再び跳躍し、咲希の背後に迫る。
「咲希、後ろ――!」
間一髪で圭斗の黒刀が黒獣の脚を打つ。
その動きの鈍った瞬間、咲希が跳躍し、薙刀でペンダントごと黒獣の胸を一閃した。
「今だ、圭斗!」
圭斗が叫び、黒刀を握りしめる。
「菜月の記憶を、返せ――!」
クナイが黒獣の中心を貫き、黒い霧が空気中に霧散する。
残ったのは、一つの光の欠片――ペンダントの中心に埋め込まれた記憶の粒。
美宏がそっと触れた瞬間、光が弾け、淡い幻影が広がった。
そこには、最後の夜、菜月が見上げた空。
そして、涙を流しながら何かを呟く姿。
『……圭斗、ごめんね。本当は……もっと、話したかった』
美宏は唇を噛みしめ、そっと呟いた。
「……ごめん、菜月。私、ようやく見えたよ……」
光が消える。
その瞬間、美宏の指先が微かに輝いた。
「えっ……?」
咲希が息を飲む。
「……魔力、戻ってる……!」
黄泉によって切られたはずの契約が、記憶に触れたことで再び“繋がり”を取り戻したのだ。
圭斗は確信した。
(これは、菜月が遺した“希望”だ)
夜が近づいていた。
でも、もう恐怖はなかった。
――黄泉の企みが少しずつ暴かれていく中、俺たちの絆は確かに強くなっていた。
そして、失われたものを取り戻すための、新たな戦いが静かに幕を開けていた。
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