魔法少年−幼馴染の死の真相を知るため、男の俺が魔法少年?になった件

神町 恵

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第2章 魔力亡き者

夜を裂く光

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無数の黒獣が、黄泉の背後から這い出るように現れた。
獣とも人とも判じ難いその姿は形を持たず、ただ悲鳴を肉体にしたかのような不気味な影。耳に届くたび、心の奥底をえぐられるような叫びが夜気に響く。

圭斗は黒刀を握りしめ、息を呑んだ。背筋を氷柱が滑り落ちるような悪寒が走った。
「……あれが、黄泉の真の姿、か」

咲希が低く吐き捨てる。
「そう、“魔法少女”の契約で引き出された感情の残渣……負の感情だけを切り取って、実体化させた“汚れた心”。……黄泉のやり方、ホント気持ち悪い」

「気をつけて。来る!」

咆哮とともに、最初の黒獣が地を蹴って突進する。
その瞬間、美宏が前に出た。

「――《守護魔法(アクティア・サンクトゥム)》!」

地面を走る光。美宏の足元に円形の魔法陣が浮かび上がり、淡く橙色の光が波紋のように広がった。次の瞬間、三人を包み込むようにドーム状の結界が展開する。

黒獣が突っ込むが、鋼鉄を打つような音とともに弾き飛ばされた。

「すげぇ……!」
圭斗の瞳が驚きに見開かれる。

咲希は息を呑み、思わず呟く。
「菜月と……同じ守護魔法!?」

美宏の守護魔法は菜月のそれと同じ“絶対防御”。だがそれは単なる模倣ではなかった。菜月の奇跡(魔力)と美宏自身の素質が共鳴して生まれた、誰かを守りたいという純粋な願いの結晶だった。

「この結界の中なら、私が守る……! 圭斗くん、咲希さん!」

咲希がうなずく。
「私が合図する! 圭斗!」
「了解!」

二人は駆け出す。結界の境界を抜けた瞬間、柔らかな圧力が背を押した。それはまるで、菜月自身に見守られているかのようだった。

咲希が先陣を切り、薙刀で黒獣二体を豪快に薙ぎ払う。続けて圭斗が黒刀を振るい、反撃を試みた獣の爪を弾き、動きを封じる。

「咲希さん、上だ!」
「OK!」

咲希は跳躍し、空中で逆さまに体をひねる。そのまま振り下ろされた薙刀の刃が黒獣の上体を真っ二つに裂き、黒い霧が飛び散った。

――光と闇が衝突する鈍い音が夜空に響く。

「良い連携プレイだね」

黄泉はゆっくりと歩を進めながら、穏やかに笑った。仮面の奥から聞こえる声は、柔らかでありながら冷徹さを孕んでいる。

「人間って、限界に抗い、苦しくもがき、それでも戦う。だからこそ美しい……。美宏。君は元々、壊れる役だったのに……運良く菜月の魔力に適合したとはいえ、ここまで成長するとは」

美宏は結界の中心で苦しげに唇を噛み、震える声を押し殺した。
「……私、ずっと怖かった。誰かを守るなんて無理だって……でも……守りたかった。菜月さんの記憶に触れた時、わかったの。菜月さんは一人じゃなかった。圭斗くんと咲希さんがいた……私、羨ましかった」

魔法陣の光が、さらに強く脈打つ。

「だからもう、逃げない! 私のやるべきことは、みんなを守ること! 人々を襲う黒獣と戦うこと!」

「今だ!」

美宏の叫びに応じ、結界が一瞬だけ開く。
圭斗が黒刀で黒獣の額を裂き、咲希が薙刀で首筋を断つ。黒い霧が夜空に散り、風に溶けて消えた。

残るのは、短い静寂。

――そして黄泉の笑み。

『なるほど。やっぱり、君たち……“特別”だね』

圭斗は黒刀を構え、警戒を解かない。
「……どういう意味だ」

『言っただろう? 人間の感情が極限まで煮詰まったとき、それは最も純粋な魔力になる。君たち三人はそれを無意識のうちに行っている。だからこそ、さらなる魔法の“高み”に手を伸ばせる』

「何の話をしてる……!」

『この世界と、私のいた世界を変えるための“鍵”だよ。佐々木圭斗くん。君こそ、数少ない男子の魔法少女……いや、“魔法少年”として完璧だ』

圭斗の背に冷たい汗が伝う。
咲希が顔をしかめ、吐き捨てる。
「……まさか、最初から圭斗を“狙ってた”の?」

『もちろん。菜月を契約させたのも、美宏を切り捨てたのも、全部……君に到達してもらうための“計画”だったんだよ』

圭斗の心に怒りがこみ上げる。
「……ふざけるな。そんなもん、俺は絶対に認めない!」

『なら、証明してみせてよ。君たちが“選ばれた命”ではないと。私に“間違い”を突きつけてごらん』

黄泉が右手を掲げると、空が音を立てて裂けた。
その奥から、ゆっくりと姿を現したもの――それは、まるで“人間”のような黒獣。

「……これ、は……!」
咲希が青ざめる。

黄泉の声が夜を震わせる。
「これは、とある“魔法少女”を一体まるごと吸収した黒獣だよ」

そして甘く囁くように告げる。
『さぁ、次の章の始まりだよ。圭斗。咲希。美宏。……君たちの“魔法”の力、見せてくれるよね?』

夜はさらに深く、濃く。
だがその中に、確かに灯る光があった。

美宏の結界が再び輝き、咲希が薙刀を構え、圭斗が黒刀を交差させる。
それぞれの心に、菜月の思いが今も燃えている。

――夜を裂く光となって。
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