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第2章 サファ戦乱
紅の庭園
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雲海のごとく淡く揺れる神界の空。その中心――**紅の庭園(ヴァルハル・ティーガーデン)**と呼ばれる静寂の地にて、二柱の神が対峙していた。
闘の神・シュラ。日焼けした褐色の肌に筋骨隆々たる身体、闘気を湛えた瞳を持つ。彼は豪奢な石造りの椅子にどっかりと座り、細やかな装飾が施されたティーカップを手にしていた。
そしてその背後、少し離れた場所には――
無表情ながら透き通るような気配を纏う、回生の神・スワが静かに立っていた。
「……なんのようだい?」
紅茶を一口啜ったシュラが、気怠そうに言葉を落とす。
スワは姿勢を崩さず、ゆっくりと口を開いた。
「干渉の神・ケイに任じた『35826次元58星』の件。なぜ彼を選んだのですか?」
問いに、シュラは紅茶を置いた。
陶器がテーブルに触れる、カン、と硬い音。
その音を合図に、彼の眼差しが微かに鋭さを帯びる。
「――奴の《創造魔法》だよ」
スワの瞼がわずかに動いた。
「※※※(白い監獄にいる元・創造の女神)ほどではないが、あやつは日を追うごとにその精度を増している。……『35826次元58星』は、科学技術が最も発展した次元であり、同時に戦乱が絶えない世界だ」
「……そうですね」とスワは静かに頷く。
「その上、厄介な種族――**“ファントム”**がいる。あやつらのせいで、どれだけの神が命を落としたか……。俺の部下も、友も……」
シュラは深く息を吐き、やや濁った眼差しを遠くへ向けた。
その背に、過去の血と炎が残っているのが、スワには分かった。
「中でも――アグゼル合衆国、そしてゾルア帝国のファントムは特別だ。どちらも異様に高い戦闘能力と魔的適性を持っている。下手をすれば、上位神……いや、最高位神とすら互角かもしれん」
その言葉に、スワの指先が僅かに揺れた。
「シュラ殿も、かつて『35826次元58星』に降り立ったと聞きました」
「ああ……。俺がまだ“若い”頃だった。アグゼルも手強かったが、ゾルア帝国は異質だった。その中でも――皇帝ゼロ・エンペラー・ディアス」
その名を口にした瞬間、紅の庭園に一瞬だけ緊張が走った。
「奴は別格だった。俺の全力を持ってしても……一撃すら通らなかった。部下たちは全滅だ。命からがら戻ってきた俺を、当時の上位神連中が“敗者”と呼んだよ」
「……それでも、ケイなら、ゼロを倒せると?」
スワの問いに、シュラは無言のまま紅茶を口に運んだ。少しぬるくなった茶を味わうように飲み干してから、ようやく口を開く。
「わからん。だが――運命の女神・ノルン様が、助言してくれたのさ」
スワの無表情が、わずかに揺れる。
「ノルン様が……!?」
「ああ。ノルン様曰く、勝率は依然として“極めて低い”。だが――**“この任に最も適しているのは、ケイである”**とのことだった」
「……それほどの、斡旋が」
「そうだ。俺だけでなく、ノルン様の言葉もあり、ケイの派遣は決定された。……だが、繰り返すが、成功する保証はない。もしかすれば……ケイも、あの世界で死ぬかもしれん」
重く、苦い現実。
その静寂を破るように、スワは穏やかな声で言った。
「――大丈夫ですよ」
シュラは眉をひそめ、首だけを僅かに傾けた。
「なぜだ?」
スワは天を仰ぐように、静かに微笑んだ。
「彼は、あなたが思っている以上に、優秀な神様ですから」
その声音に、シュラは思わず吹き出し、豪快に笑った。
「……ハッ、そうかもな。確かに、あいつは普通じゃない。真面目で、器用で、どこか人間臭い。それでいて、誰よりも神としての責務に忠実だ」
庭園に、ふたたび静寂が訪れる。
紅茶の香りが揺れ、どこかから鳥のさえずりが聞こえてきた。
スワは空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「……頼みましたよ、ケイ。今度こそ――あの世界を救ってください」
それは、新たな神への切なる祈りだった。
闘の神・シュラ。日焼けした褐色の肌に筋骨隆々たる身体、闘気を湛えた瞳を持つ。彼は豪奢な石造りの椅子にどっかりと座り、細やかな装飾が施されたティーカップを手にしていた。
そしてその背後、少し離れた場所には――
無表情ながら透き通るような気配を纏う、回生の神・スワが静かに立っていた。
「……なんのようだい?」
紅茶を一口啜ったシュラが、気怠そうに言葉を落とす。
スワは姿勢を崩さず、ゆっくりと口を開いた。
「干渉の神・ケイに任じた『35826次元58星』の件。なぜ彼を選んだのですか?」
問いに、シュラは紅茶を置いた。
陶器がテーブルに触れる、カン、と硬い音。
その音を合図に、彼の眼差しが微かに鋭さを帯びる。
「――奴の《創造魔法》だよ」
スワの瞼がわずかに動いた。
「※※※(白い監獄にいる元・創造の女神)ほどではないが、あやつは日を追うごとにその精度を増している。……『35826次元58星』は、科学技術が最も発展した次元であり、同時に戦乱が絶えない世界だ」
「……そうですね」とスワは静かに頷く。
「その上、厄介な種族――**“ファントム”**がいる。あやつらのせいで、どれだけの神が命を落としたか……。俺の部下も、友も……」
シュラは深く息を吐き、やや濁った眼差しを遠くへ向けた。
その背に、過去の血と炎が残っているのが、スワには分かった。
「中でも――アグゼル合衆国、そしてゾルア帝国のファントムは特別だ。どちらも異様に高い戦闘能力と魔的適性を持っている。下手をすれば、上位神……いや、最高位神とすら互角かもしれん」
その言葉に、スワの指先が僅かに揺れた。
「シュラ殿も、かつて『35826次元58星』に降り立ったと聞きました」
「ああ……。俺がまだ“若い”頃だった。アグゼルも手強かったが、ゾルア帝国は異質だった。その中でも――皇帝ゼロ・エンペラー・ディアス」
その名を口にした瞬間、紅の庭園に一瞬だけ緊張が走った。
「奴は別格だった。俺の全力を持ってしても……一撃すら通らなかった。部下たちは全滅だ。命からがら戻ってきた俺を、当時の上位神連中が“敗者”と呼んだよ」
「……それでも、ケイなら、ゼロを倒せると?」
スワの問いに、シュラは無言のまま紅茶を口に運んだ。少しぬるくなった茶を味わうように飲み干してから、ようやく口を開く。
「わからん。だが――運命の女神・ノルン様が、助言してくれたのさ」
スワの無表情が、わずかに揺れる。
「ノルン様が……!?」
「ああ。ノルン様曰く、勝率は依然として“極めて低い”。だが――**“この任に最も適しているのは、ケイである”**とのことだった」
「……それほどの、斡旋が」
「そうだ。俺だけでなく、ノルン様の言葉もあり、ケイの派遣は決定された。……だが、繰り返すが、成功する保証はない。もしかすれば……ケイも、あの世界で死ぬかもしれん」
重く、苦い現実。
その静寂を破るように、スワは穏やかな声で言った。
「――大丈夫ですよ」
シュラは眉をひそめ、首だけを僅かに傾けた。
「なぜだ?」
スワは天を仰ぐように、静かに微笑んだ。
「彼は、あなたが思っている以上に、優秀な神様ですから」
その声音に、シュラは思わず吹き出し、豪快に笑った。
「……ハッ、そうかもな。確かに、あいつは普通じゃない。真面目で、器用で、どこか人間臭い。それでいて、誰よりも神としての責務に忠実だ」
庭園に、ふたたび静寂が訪れる。
紅茶の香りが揺れ、どこかから鳥のさえずりが聞こえてきた。
スワは空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「……頼みましたよ、ケイ。今度こそ――あの世界を救ってください」
それは、新たな神への切なる祈りだった。
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