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最初の街
第6話
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負けイベントとは、ゲームにおいて戦闘を伴うプレイヤーの敗北が確定しているクエストのことである。
シナリオの展開上、プレイヤーはどんな手を尽くしても敵対者に勝つことはできず、負けることでシナリオが先へと進んでいく。
このゲームは死にゲーだ。
当然、敵対者に敗北することはイコール死である。
ゲームなら生き返ってプレイを再開できるが、現状でもそうなると断言できるほどの確証がどこにもない。試してみるには、あまりにもリスクが大きすぎる事柄である。
サクラが街に入ってしばらく時間が経つが、いまのところイベントが発生する気配はない。
イベントが起きない理由の一つとして考えられるのは、ゲームでのストーリー進行とは違い、プレイヤーのサクラがNPCであるクロビスと一緒に行動をしていることだ。
それがどのような影響を及ぼしているのか。現状をさっぱり把握できてはいないが、それしかサクラには原因が思いつかない。
──いやそれとも、実はまったく影響なんてしてはいなくて、ゲームと同じことが起こるとは限らないのかな。
このまま穏やかに時が過ぎるのならばありがたい。
しかし、なにか些細な事柄が引き金になってイベントが発生してしまう可能性は十分に考えられる。サクラがゲーム内でのシナリオから大幅に外れた行動をしている以上、より一層気を付けて行動しなければならないだろう。
ひとまず負けイベントが発生していないのは良いことなのだが、油断は禁物だ。
現実的に考えて、これからも常にクロビスと行動を共にするわけにはいかないだろう。ひとりになった途端に、イベントが発生することもあり得る。これから自身の身にどのような展開が待ち受けているのか、想像がつかない。
「あなたにはこれから我が家の者と会っていただきます。私の恋人だと紹介しますので……」
「わたしは戦で家族を失った。そのうえ、家を焼け出されてしまったの」
サクラはクロビスの言葉にかぶせるようにして、語気を強く言った。
「親しい者の死を目の当たりにしてしまった。その衝撃で記憶がおぼろげになっているのよね」
サクラはゲームとの相違を改めて痛感させられて、これから先の生活に不安を募らせていた。そんなサクラの心のうちを知ってか知らずか、クロビスがことさら優しく話かけてきた。
サクラはクロビスに気遣われたことを察して、気を引き締める。彼とて油断ならない相手なのだ。隙をみせれば、破滅に繋がるかもしれない。
このまま思いやりに絆されてしまい、余計な詮索をされたくはない。
「自分からは積極的に話しかけず、聞かれたことにだけ言葉少なく答える。しばらくはそうして過ごすこと、よね?」
出会った場所からここまでの道中、サクラはクロビスからこの街で暮らすにあたってのあらゆる指示を受けていた。
気落ちしているサクラに、わざわざそのことを確認することで心を落ち着かせようとしているのは伝わってきていた。
「その通りです。こちらの世界を知らない流れ人であるがゆえにおかしな言動をしても、それで多少はごまかせるでしょう」
「……了解。余計なことを言って異世界人だってバレないように、せいぜいおしゃべりには気をつけますわ」
サクラは余裕があるように微笑み、そのままクロビスの横を通り過ぎて屋敷の敷地内に足を踏み入れる。
クロビスがふっと笑った気配がした。あいかわらず仮面のせいで繊細な顔の動きを知ることはできないが、サクラの強がりを見透かしているような雰囲気は読み取ることができた。
クロビスは門を閉めると、すぐにサクラの元まで歩み寄ってきて背中にそっと手を置いてくる。
慰められている、サクラは悔しく思った。だが、これ以上は思いなやむ姿をみせるまいと、背筋を伸ばしてまっすぐにクロビスを見上げて得意げな笑みを浮かべる。
「……あ、そうか。私が街にやってきても負けイベントがはじまらなかったのって、身元がはっきりしている人と一緒にいたからだ」
間近でクロビスの仮面を見て、そんな理由がふと頭の中に浮かんだ。
身分を証明する仮面、それはサクラが思っているよりもずっと効力の強いものなのかもしれない。
「やっぱりNPCに縋りついて正解だったんだ。それで稀人だってバレなかったから、負けイベントが起きなかったんだよ。私の行動は間違ってない。これが最善だったんだ!」
基本的に、この世界の住人たちは異世界人である稀人に優しくない。
出会えば必ずと言っていいほど、敵対状態になる。
和解なんてものは存在しない。どちらかが倒れるまで、永遠に戦闘が続くのだ。
「私はあなたの婚約者。安心してくださいませ」
自分の選択は間違っていなかった。それで命がつながったのだと考えたら、途端に自信が湧いてきた。悩みが吹き飛んで、自然と心から笑えることができた。
サクラは拳を握って、クロビスに向かってこれからの自分の役割を演じる意気込みを訴えかける。
クロビスはいきなり生き生きとした様子を見せるサクラを前にして、ため息をついてから肩をすくめた。
「……またわけの分からないことをおっしゃって。さっそくいらないことを口にしているような気がいたしますが?」
「大丈夫よ! しばらくはしょんぼり落ち込んだふりをしているから。ちゃんと静かに過ごしますわ」
シナリオの展開上、プレイヤーはどんな手を尽くしても敵対者に勝つことはできず、負けることでシナリオが先へと進んでいく。
このゲームは死にゲーだ。
当然、敵対者に敗北することはイコール死である。
ゲームなら生き返ってプレイを再開できるが、現状でもそうなると断言できるほどの確証がどこにもない。試してみるには、あまりにもリスクが大きすぎる事柄である。
サクラが街に入ってしばらく時間が経つが、いまのところイベントが発生する気配はない。
イベントが起きない理由の一つとして考えられるのは、ゲームでのストーリー進行とは違い、プレイヤーのサクラがNPCであるクロビスと一緒に行動をしていることだ。
それがどのような影響を及ぼしているのか。現状をさっぱり把握できてはいないが、それしかサクラには原因が思いつかない。
──いやそれとも、実はまったく影響なんてしてはいなくて、ゲームと同じことが起こるとは限らないのかな。
このまま穏やかに時が過ぎるのならばありがたい。
しかし、なにか些細な事柄が引き金になってイベントが発生してしまう可能性は十分に考えられる。サクラがゲーム内でのシナリオから大幅に外れた行動をしている以上、より一層気を付けて行動しなければならないだろう。
ひとまず負けイベントが発生していないのは良いことなのだが、油断は禁物だ。
現実的に考えて、これからも常にクロビスと行動を共にするわけにはいかないだろう。ひとりになった途端に、イベントが発生することもあり得る。これから自身の身にどのような展開が待ち受けているのか、想像がつかない。
「あなたにはこれから我が家の者と会っていただきます。私の恋人だと紹介しますので……」
「わたしは戦で家族を失った。そのうえ、家を焼け出されてしまったの」
サクラはクロビスの言葉にかぶせるようにして、語気を強く言った。
「親しい者の死を目の当たりにしてしまった。その衝撃で記憶がおぼろげになっているのよね」
サクラはゲームとの相違を改めて痛感させられて、これから先の生活に不安を募らせていた。そんなサクラの心のうちを知ってか知らずか、クロビスがことさら優しく話かけてきた。
サクラはクロビスに気遣われたことを察して、気を引き締める。彼とて油断ならない相手なのだ。隙をみせれば、破滅に繋がるかもしれない。
このまま思いやりに絆されてしまい、余計な詮索をされたくはない。
「自分からは積極的に話しかけず、聞かれたことにだけ言葉少なく答える。しばらくはそうして過ごすこと、よね?」
出会った場所からここまでの道中、サクラはクロビスからこの街で暮らすにあたってのあらゆる指示を受けていた。
気落ちしているサクラに、わざわざそのことを確認することで心を落ち着かせようとしているのは伝わってきていた。
「その通りです。こちらの世界を知らない流れ人であるがゆえにおかしな言動をしても、それで多少はごまかせるでしょう」
「……了解。余計なことを言って異世界人だってバレないように、せいぜいおしゃべりには気をつけますわ」
サクラは余裕があるように微笑み、そのままクロビスの横を通り過ぎて屋敷の敷地内に足を踏み入れる。
クロビスがふっと笑った気配がした。あいかわらず仮面のせいで繊細な顔の動きを知ることはできないが、サクラの強がりを見透かしているような雰囲気は読み取ることができた。
クロビスは門を閉めると、すぐにサクラの元まで歩み寄ってきて背中にそっと手を置いてくる。
慰められている、サクラは悔しく思った。だが、これ以上は思いなやむ姿をみせるまいと、背筋を伸ばしてまっすぐにクロビスを見上げて得意げな笑みを浮かべる。
「……あ、そうか。私が街にやってきても負けイベントがはじまらなかったのって、身元がはっきりしている人と一緒にいたからだ」
間近でクロビスの仮面を見て、そんな理由がふと頭の中に浮かんだ。
身分を証明する仮面、それはサクラが思っているよりもずっと効力の強いものなのかもしれない。
「やっぱりNPCに縋りついて正解だったんだ。それで稀人だってバレなかったから、負けイベントが起きなかったんだよ。私の行動は間違ってない。これが最善だったんだ!」
基本的に、この世界の住人たちは異世界人である稀人に優しくない。
出会えば必ずと言っていいほど、敵対状態になる。
和解なんてものは存在しない。どちらかが倒れるまで、永遠に戦闘が続くのだ。
「私はあなたの婚約者。安心してくださいませ」
自分の選択は間違っていなかった。それで命がつながったのだと考えたら、途端に自信が湧いてきた。悩みが吹き飛んで、自然と心から笑えることができた。
サクラは拳を握って、クロビスに向かってこれからの自分の役割を演じる意気込みを訴えかける。
クロビスはいきなり生き生きとした様子を見せるサクラを前にして、ため息をついてから肩をすくめた。
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