高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!

黒蜜きな粉

文字の大きさ
10 / 78
最初の街

第5話

しおりを挟む
「……ここがあなたのおうち、なの?」

 サクラの目の前には、立派な門構えの邸宅があった。

「ええ、そうですよ」

 サクラの質問に、クロビスはあっさりと答えて門を開ける。彼は門扉を手で押さえながらサクラを振り返り、中へ入るように促してきた。
 クロビスの目が早く敷地内に入れと言っている。そうはいうものの、サクラはすぐに足を動かせなかった。

「いまさら気後れしたのですか?」

「……ち、違うわ。いや、間違ってはいないけれどね。やっぱりもう少し選択肢があるんじゃないかって思うところがあって……」

「ここまできたのですから、もう遅いですよ。とにかく、先ほど打ち合わせた通りにお願いします」

「も、もちろん。それはきちんと頑張るけれどね?」

 サクラはゲームをプレイしていた頃から、クロビスというキャラクターはなんとなく独身だと感じていた。
 婚約者のふりをしてほしいと言い出すくらいなので、配偶者がいないというのは当たっていたのだろう。

 しかし、クロビスには生活感というものがないイメージだった。
 独り身ならば、てっきり長屋のような、その気になればいつでも出ていける借家住まいだと思っていたのだ。
 ゲーム内で出会うクロビスは、最初に出会った暗礁の森のような、街中の喧騒から離れた不思議な場所にばかりいた。そう思ってしまっても、しかたがないと思う。

「なんかこうね。想像していたよりもあなたのお宅がご立派で、驚いてしまったの」

 ゲーム内のいちキャラクターであったクロビスに自宅があった。サクラはそれだけでも、彼という個人が地に足をつけて生きている証というものが感じられた気がして、かなりの衝撃を受けている。
 だというのに、それがプレイヤーの向かう最初の街にあり、なおかつ豪邸である事実は形容しがたい驚きにあふれている。頭の中が混乱していて、動揺が隠せないのだ。

 こんな邸宅の主の婚約者として生活がはじめられるなんて、状況が整えられすぎている気がする。
 RPGゲーム的なセオリーとして、まずはあばら家とか、管理の行き届いていない粗末な家を拠点として物語がはじまるものではないのか。
 このままこの家の中に入って自分の身の安全は大丈夫なのかと、警戒してしまう。

「……いやでも、乙女ゲーとか? そのあたりならこういうスタートもありなのかもしれない……」

 なにしろ、サクラが好んでプレイしていたのは死にゲーであり、ダークファンタジーが多かった。美男美女が巧な心理戦を繰り広げる恋愛ゲームとは、雰囲気が似ても似つかない。趣味趣向があまりに異なるので、現状を恋愛ゲームに置き換えて考えようというのが、そもそも間違っていたと気づかされる。
 
「先ほどもお伝えしましたが、私は軍属の医師をしております」

「……お医者様なのは、うん。そうなのだけどね」

「それなりにお給金をいただいておりますので、見合った生活をするのは義務のようなものだと考えております」

「それはとても素晴らしい心がけだと思うわ。立場が人を作るっていうものね」

 クロビスは基本的にはプレイヤーに友好的だが、ストーリーの進め方によっては敵対することも可能なNPCだ。

「この領地の人だものね。この街に家があるのはごくごく自然なことなのだけど……」

 クロビスと敵対して彼を倒すと、とあるアイテムがドロップする。
 そのドロップアイテムのフレーバーテキストに、プレイヤーの操作する主人公が降り立った地の領主に仕える優秀な軍医であることが記載されている。

 クロビスはストーリー上、必ず敵対しなければならないわけではない。
 しかし、実績をコンプリートするためには、あえて敵対しなければならないNPCだ。

 すべての実績解除をするためだけに、サクラはクロビスと敵対した。
 クロビスを倒さなければ入手できないアイテムというものが存在する以上、ゲーマーとして当たり前の選択をしただけだ。
 サクラはクロビスに関連するNPCイベントの分岐パターンを、すべて体験済なのである。クロビスに関する文章から得られる情報は、完璧に網羅しているつもりだ。

 それほどの時間を使って、サクラはこのゲームを遊んでいた。この世界に関しての知識が、それなりにあるつもりだった。
 ところが、実際には最初に出会うNPCであるクロビスのことさえ、ほとんどわからない。住んでいる家の場所さえ知らなかったのだ。

 これで最初の提案に乗ってしまい、王になるために冒険へ出てしまっていたらと思うとゾッとする。
 ゲームをプレイしていて得た知識など、この世界を実際に生き抜くうえでは、暮らしの知恵程度のものなのかもしれない。

「……待って待って。そもそも、ここがゲームと同じシナリオで進むとしたら、この街についてすぐに負けイベントが発生するはずじゃないの……?」

 ゲーム内では、プレイヤーが最初の街の中を散策していると、突然ムービーがはじまりプレイヤーの敗北が確定しているイベントがはじまる。

 王を目指すプレイヤーは、この街の領主を倒さなければならない。
 なぜならば、この街の領主はプレイヤーと同じく王になることを目論んでいるからだ。
 同じ玉座を目指すもの同士、激しい潰しあいがはじまる。

 サクラは体中から血の気が引いていくのがわかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します

如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい 全くもって分からない 転生した私にはその美的感覚が分からないよ

ダラダラ異世界転生

ゆぃ♫
ファンタジー
平和な主婦異世界に行く。1からの人生人を頼ってのんびり暮らす。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...