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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ
第1話
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「とうとう、ここに来ちゃったか」
サクラの目の前には、見慣れた城門がそびえ立っている。
その前で微動だにせずに佇んでいる兵士の姿も、飽きるほど見覚えがある。
「街の中を歩いていてもなにも起きなかったもの。大丈夫、お城の中に入ったって平気だよ。ここは安全、怖くない」
サクラは自分に言い聞かせるために、何度もそんなことをつぶやいていた。
家の外にでたら負けイベントが発生する。それをなによりも恐れていたサクラにとって、門の前に立つ警備兵の姿は恐怖しか感じない。
いまから彼らの脇を抜けて城門を通り、城の敷地内に入るのかと思うと、緊張でからだが震えそうになる。
「あのう、サクラさん?」
ぶつくさとぼやき続けるサクラを、ノルウェットは不思議そうな顔をしてみつめてくる。
「なんだかお忙しいところ申し訳ないのですが、こちらで入城の手続きをしていただきたいのですー」
「……あ、ごめんね。なにかしら?」
サクラは慌てて笑顔を取り繕うと、気を取り直すために「よいしょ」と声を出しながら木箱を抱えなおした。
「城の中へ入るために、書類を作らなきゃいけないんですよ」
「ああ、そうなのね。お城の中に入るのに、いろいろやらなきゃいけないんだね」
「はい! ここは領主様のおられる場所ですから、人の出入りはしっかり管理しなきゃいけないのです」
「……そっか、そうだよね。そりゃそういうものだよね」
ノルウェットが胸を張って得意げに答えた。領主の居城で働けるというのは、彼にとって自慢したくなるような誇らしいことなのだろう。
サクラの元いた世界における公務員のような立ち位置と考えると、なりたいと希望する者の誰もが勤められるわけではないので、大変に立派なことだ。
ましてや、この世界における領主とは、サクラの考える市長や知事といった自治体の長よりも、民衆にとっては自分たちが住む土地の象徴となる存在のような気がする。
「大切な方のいらっしゃる場所にお邪魔するのだから、誰が来たのかくらい記録をしておくわよね。……道場破りスタイルで突撃していくほうがおかしいんだよね」
サクラがゲームをプレイしていたときは、城門前の兵士を斬り捨てて堂々と城内に侵入していた。
たいていのRPGゲームでも同様のことが行われている、と思う。プレイヤーの操る主人公キャラクターは、基本的にどんな場所でも不法侵入というかたちで突き進んでいくのだ。
壺を割ったり、棚をあさったり、時には他人の宝物を堂々と自分の所有物にしてしまったり。立ちふさがる者、ただそこにいただけの者を目の前から排除し、身につけている装備品を奪い取ってしまうことすら、よくあることで片付けられてしまう。
ゲームシステムが許す限り、プレイヤーはやりたい放題なのである。それが、当たり前のことなのだ。
サクラ自身も、コンピュータRPGゲーム内でそういった行為をすることに、躊躇などない。きっと、それらの行為をせずにゲームクリアしたことなど、一度もないだろう。
ただ、常識的に考えれば非道な犯罪行為であることに間違いはない。
現実で同じことをすれば、執行猶予がつかない可能性が大いにある重大犯罪のオンパレードなのだ。
「おい、軍医殿のところの坊主じゃないか。そんな大荷物を抱えてどうした?」
城門の前でサクラがノルウェットと話をしていると、声をかけられた。
声の主は、城門警備をしている兵士だ。
ここは、この辺り一帯を治める領主の城だ。厳しい目を持った警備兵がいて当然である。
サクラたちがいつまでも入城の手続きをせずに、門の前に立って話し込んでいたので怪しんでいるのだろう。
サクラは警備兵からの問いかけに、自然とからだに力が入ってしまう。
「……問題ない、絶対に大丈夫。ノルくんと一緒にいるんだし、なにも起きないはず」
サクラが稀人であるということは、クロビス以外には誰も知らない。いきなり斬りかかってくることはあり得ない。
そう言い聞かせても、不安を消し去ることはできなかった。
なにせ、この城はゲームをプレイしている者にとって、最初の難関だからである。
城という作り込まれた立体的なダンジョン。
そこを探索しながら、敵との戦闘や駆け引きが楽しめるレベルデザインと攻略性の高いマップ。
そしてなにより、ここにはゲーム内のメインストーリー攻略に討伐必須のボスが存在する。
中ボス一体、大ボス一体の、合計二体だ。
死にゲーのストーリー攻略に討伐必須のボスともなれば、その強さは折り紙つきだ。
ゲームの発売初日には、両ボスともにその名前がトレンド入りしてSNSを賑わせていたほどだ。
そのボスたちに辿り着くまでの道中に点在している名前のないモブの敵すらも、やりごたえのある強さとなっている。
つまり、目の前の兵士も舐めてかかると、あっという間に命を取られてしまうのだ。
サクラの目の前には、見慣れた城門がそびえ立っている。
その前で微動だにせずに佇んでいる兵士の姿も、飽きるほど見覚えがある。
「街の中を歩いていてもなにも起きなかったもの。大丈夫、お城の中に入ったって平気だよ。ここは安全、怖くない」
サクラは自分に言い聞かせるために、何度もそんなことをつぶやいていた。
家の外にでたら負けイベントが発生する。それをなによりも恐れていたサクラにとって、門の前に立つ警備兵の姿は恐怖しか感じない。
いまから彼らの脇を抜けて城門を通り、城の敷地内に入るのかと思うと、緊張でからだが震えそうになる。
「あのう、サクラさん?」
ぶつくさとぼやき続けるサクラを、ノルウェットは不思議そうな顔をしてみつめてくる。
「なんだかお忙しいところ申し訳ないのですが、こちらで入城の手続きをしていただきたいのですー」
「……あ、ごめんね。なにかしら?」
サクラは慌てて笑顔を取り繕うと、気を取り直すために「よいしょ」と声を出しながら木箱を抱えなおした。
「城の中へ入るために、書類を作らなきゃいけないんですよ」
「ああ、そうなのね。お城の中に入るのに、いろいろやらなきゃいけないんだね」
「はい! ここは領主様のおられる場所ですから、人の出入りはしっかり管理しなきゃいけないのです」
「……そっか、そうだよね。そりゃそういうものだよね」
ノルウェットが胸を張って得意げに答えた。領主の居城で働けるというのは、彼にとって自慢したくなるような誇らしいことなのだろう。
サクラの元いた世界における公務員のような立ち位置と考えると、なりたいと希望する者の誰もが勤められるわけではないので、大変に立派なことだ。
ましてや、この世界における領主とは、サクラの考える市長や知事といった自治体の長よりも、民衆にとっては自分たちが住む土地の象徴となる存在のような気がする。
「大切な方のいらっしゃる場所にお邪魔するのだから、誰が来たのかくらい記録をしておくわよね。……道場破りスタイルで突撃していくほうがおかしいんだよね」
サクラがゲームをプレイしていたときは、城門前の兵士を斬り捨てて堂々と城内に侵入していた。
たいていのRPGゲームでも同様のことが行われている、と思う。プレイヤーの操る主人公キャラクターは、基本的にどんな場所でも不法侵入というかたちで突き進んでいくのだ。
壺を割ったり、棚をあさったり、時には他人の宝物を堂々と自分の所有物にしてしまったり。立ちふさがる者、ただそこにいただけの者を目の前から排除し、身につけている装備品を奪い取ってしまうことすら、よくあることで片付けられてしまう。
ゲームシステムが許す限り、プレイヤーはやりたい放題なのである。それが、当たり前のことなのだ。
サクラ自身も、コンピュータRPGゲーム内でそういった行為をすることに、躊躇などない。きっと、それらの行為をせずにゲームクリアしたことなど、一度もないだろう。
ただ、常識的に考えれば非道な犯罪行為であることに間違いはない。
現実で同じことをすれば、執行猶予がつかない可能性が大いにある重大犯罪のオンパレードなのだ。
「おい、軍医殿のところの坊主じゃないか。そんな大荷物を抱えてどうした?」
城門の前でサクラがノルウェットと話をしていると、声をかけられた。
声の主は、城門警備をしている兵士だ。
ここは、この辺り一帯を治める領主の城だ。厳しい目を持った警備兵がいて当然である。
サクラたちがいつまでも入城の手続きをせずに、門の前に立って話し込んでいたので怪しんでいるのだろう。
サクラは警備兵からの問いかけに、自然とからだに力が入ってしまう。
「……問題ない、絶対に大丈夫。ノルくんと一緒にいるんだし、なにも起きないはず」
サクラが稀人であるということは、クロビス以外には誰も知らない。いきなり斬りかかってくることはあり得ない。
そう言い聞かせても、不安を消し去ることはできなかった。
なにせ、この城はゲームをプレイしている者にとって、最初の難関だからである。
城という作り込まれた立体的なダンジョン。
そこを探索しながら、敵との戦闘や駆け引きが楽しめるレベルデザインと攻略性の高いマップ。
そしてなにより、ここにはゲーム内のメインストーリー攻略に討伐必須のボスが存在する。
中ボス一体、大ボス一体の、合計二体だ。
死にゲーのストーリー攻略に討伐必須のボスともなれば、その強さは折り紙つきだ。
ゲームの発売初日には、両ボスともにその名前がトレンド入りしてSNSを賑わせていたほどだ。
そのボスたちに辿り着くまでの道中に点在している名前のないモブの敵すらも、やりごたえのある強さとなっている。
つまり、目の前の兵士も舐めてかかると、あっという間に命を取られてしまうのだ。
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