高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!

黒蜜きな粉

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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ

第15話

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「────っきゃあああああ!」

 サクラは悲鳴を上げてしまった。 それとほぼ同時に、バシャンと大きな水音が部屋の中に響く。
 ベルヴェイクの話す言葉に真剣に耳を傾けていると、突然からだが宙に浮いているような感覚に襲われたのだ。椅子に座っていた姿勢のまま、サクラは床に激しく腰を打ちつけてしまった。

「……っうう、痛い……」

 サクラは両手を床について、痛みにうめく。
 なにが起きたのかわからず、苦痛に耐えながら視線だけを動かして周囲を確認した。
 すると、目の前にいるベルヴェイクのため息が聞こえてくる。
 
『……はあ、残念だ』

 見上げると、つい今しがたまで優雅に足を組んで椅子に座っていたベルヴェイクが、しっかりと床に足をついて立っている。
 どうやら椅子が出現したときと同じ仕組みだったようだ。ベルヴェイクが指を鳴らしたことで、サクラが座っていた椅子がこの場から消えてしまったらしい。

『口を挟むなと言ったのにな』

 サクラはまんまと罠に掛かってしまったことに気がついた。
 ベルヴェイクがこの世界にやってきたサクラの存在を知った理由はわからない。だが、彼はサクラという稀人の存在を知り、接触する機会をうかがっていたのだろう。
 サクラが城へやってきたうえに、ひとりで行動している。この好機を逃すまいと、自分優位に事を進めるために部屋の中に誘い込んだ。

『そう騒がしいと、喋る気力を無くすというものだ』

「──っアンタがそうなるように仕向けたんでしょうが!」

 サクラと面と向かって言葉を交わし、知りたいことは聞き出せた。
 情報を得られたら都合の良いタイミングで話を終わらせるために、椅子に座らせたのだ。体重を預けていた椅子がいきなり消えて無くなれば隙が生じる。
 サクラのように、驚いてすぐに叫び声をあげれば完璧だ。そうでなくても、痛みにうめき声くらいもらしてしまうだろう。
 そのことに気がついたサクラは、頭に血がのぼってしまった。怒りに任せて激しく腕を横に振ると、力いっぱい叫んでいた。

「……まさか、幻影?」

 サクラが腕を振ったとき、床に張っている水が弧を描いてベルヴェイクに向かって飛んでいった。
 そこでサクラは、ベルヴェイクの様子に違和感を覚える。てっきり彼は、水をかぶってびしょ濡れになるだろうと思っていたのだ。
 まんまと策略にはめられてしまったことへの、ほんの少しの仕返しのつもりだった。
 しかし、サクラがまき散らした水はベルヴェイクのからだをすり抜けていく。飛んだ水が床に落ちて、バシャバシャと音を立てている。

『言ったはずだ。信用するに足る者かわからないとな』

「そうなの、最初からあなたの本体はここにはいなかったってわけね」

 ベルヴェイクがケラケラと笑っている。
 その彼のからだが、ゆっくりと砂のように崩れはじめた。
 崩れ落ちた小さな砂つぶは、淡く光る小さな木の中に吸い込まれていく。

「人のことをからかって、そんなに楽しいですか?」

『これほど気持ちが高ぶることはない。大樹による魂の円環から外れた者。高き者の気まぐれで故郷から引き離された哀れな魂を持つ者が、生きようと必死に抗っている姿はな』

「あなたの言うことには惑わされない」

 サクラがそう言い返すと、ベルヴェイクは大きな声で笑いだした。


『はははははははははははははははははははははははは!』


 ベルヴェイクが腹を抱えて身をよじっている。
 狂ったかのように大いに騒ぐ不気味な声が部屋の中に響きわたり、サクラは全身に鳥肌がたった。

『はははははははははははははははは、はあ……』

 ベルヴェイクはひとしきり大声で笑うと、ふうと大きく息をはいた。
 呼吸を整えると、彼は淡々と話しだす。

『……旅する者よ、貴様が根を下ろすべき世界はここだ。王となるがよい。ここを貴様の安住の地とせよ』

 それだけ言い残し、ベルヴェイクの幻影は消えてしまった。

「私は王になんてならない。私はただこの世界で平和に暮らしていたいだけだから」

 ひとり部屋の中に取り残されたサクラは、光る木に向かって告げた。
 サクラの言葉が世界のどこかにいるベルヴェイクに届いたかどうかはわからない。
 だが、届くといいなと願いを込めて、大きく舌打ちをした。



「……結局ろくな情報を得られなかったな」

 なにか重要なことがわかったようで、なにもわからなかった。

「プレイヤーとか負けイベントとかさ。私が食いつきそうな単語を並べて、俺はなんでも知ってるぜって、マウント取ってきただけじゃない」

 ベルヴェイクは秩序を乱すことを良しとしている節がある。
 彼に言われたこと、見せられた映像が全て正しいと思わない方がいいだろう。
 サクラはそう結論づけた。

「わかったのは、ベルヴェイクは私がこのままお嫁さんごっこをしているのが気に食わないってことね」

 これだけは確かな事実だと思えた。
 やはり、ベルヴェイクという存在はゲーム内での役割と同様に、世界の現状を引っかきまわしたいのだろう。
 災いをもたらす者として、相応わしい立ち振る舞いともいえる。
 ストーリーを進めてもベルヴェイクの目的ははっきりとしない部分が多かった。だが、そうすることで得たいものがあるのだろうという想像を掻き立てられる。憎たらしいが、キャラクターとしては魅力的だった。

「やっぱり地下にいこう。さっきの負けイベントが本当に起こっていたことなら、昇降機を使って屋上に向かえば、街のどこかに戦闘の痕跡がみつけられるはずだもんね」
 
 サクラは光る木に背を向けて、部屋の扉に向かって歩きだそうとした。
 だが、ふとある考えが頭に浮かんで、光る木に視線を向ける。

「……これは大樹の一部。これのある場所にファストトラベルできるのは、プレイヤーの魂がいろんな世界を旅しているから……?」

 サクラは口に出した考えをかき消すために、頭を横に振った。

「ベルヴェイクの言葉を真に受けちゃダメ。考察の参考くらいにしておかないと、ろくなことにならないわ」

 サクラは勢いよく自分の頬を叩くと、今度こそ地下に向かうために歩き出した。
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