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争いのあとに
第4話
しおりを挟む翌朝、サクラが目覚めるとクロビスは隣にいなかった。
腕を伸ばしてベッドの中を探ってみたが、ぬくもりは残っていない。ひんやりとした冷たいシーツの感触に、サクラは唇を尖らせる。
「人肌恋しいとか言ってたくせに。なんなのよあいつ」
サクラはぶつぶつと文句を口にしながらベッドの上で転がり、天井を見上げた。
「……うう、正直キャパオーバーかも」
サクラはシーツを頭までかぶると、深呼吸をした。
昨夜の出来事を思い出し、頬が熱くなる。
冷静になって考えると、クロビスに対するサクラの発言はほとんどプロポーズのようなものだ。
結婚してほしいと直接的な言葉を口に出したわけではないが、いつまでもそばにいてほしいというのはそういう意味だと捉えることができる。
実際にクロビスはそうだと受け取ったから「すごいことを言っている」と発言したのだろうし「約束します」と返事をくれたのだ。
「……ああああ、それでいいんだけどさ。恥ずかしいことじゃないんだけどさああ……」
昨夜のことを思い浮かべると、照れ臭さのあまりどうにかなりそうだ。
頭の中を整理して気持ちを落ち着かせるために、サクラは昨日の昼間に身の回りで起きた物事を、順序を追って振り返る。
昨日は、この街にやってきてからはじめて屋敷の外へでた。領主の城へ向かい、サクラはそこでさまざまな人と出会うことになった。
ゲーム内で重要なネームドキャラクターだったロークルやベルヴェイクにも対面することになる。
そして、異世界人が街にやってきて、戦闘が行われた。それに巻き込まれてノルウェットが亡くなってしまう。
そのことで落ち込んでいるクロビスに、サクラなりに寄り添おうとした。
「…………ノルくん。本当に死んじゃったのかな」
せめてノルウェットにお別れが言いたい。
サクラはクロビスにそう頼んだのだが、それはできないと断られてしまった。
この世界では、稀人との戦闘において亡くなった者は、通常の葬儀、埋葬ができないのだそうだ。
亡くなった者の魂が正しく導かれるように、遺体は身内などの親しい者たちのもとを離れ、特別な神殿に送られる。
そこで神官たちによる儀式を経て、大樹の根元に埋葬される。
亡くなってから埋葬されるまでの間、神殿から各地に派遣されている神官以外は、遺体に触れることも近づくことも許されない。
万が一、直に遺体に触れてしまった場合は、その者も共に神殿へ送られる。遺体と一緒に、特別な儀式を受けることになるそうだ。
その儀式を生者が受ける場合、命を落とすこともあるほど危険なものらしい。
「稀人がこの世界の住民に嫌われているのには、きちんと理由があったのね」
ゲーム内では、プレイヤーは出会う人のほとんどと戦闘になる。
ゲームとして、それはごく当たり前のことだ。同じ玉座を求める者同士、敵対ぐらいはするだろうと思っていた。
しかし、理由はそれだけではなかったのだ。
親しい者との最後の別れを奪われ、下手をすれば自分も命を落とす。やられる前にやらなければ、そういう気持ちになるのもわからないでもない。
「……魂が正しく導かれるようにってさ。やっぱり大樹による魂の円環ってことなんだよね?」
稀人によって命を奪われた者が、命を奪った相手と同じ境遇にならないように。
大樹の中に存在するさまざまな世界を彷徨わないで済むように。
故郷であるこの世界から、魂が離れていかないように。
この世界にさえ帰ってきてくれれば、姿は変わってもいずれまた会える。
「私はまたいつか、ノルくんに会えるのかな」
いつもニコニコと朗らかに笑っていたノルウェットの顔が浮かんでくる。
それと同時に、ベルヴェイクの言葉が頭の中でこだまする。
『貴様が根を下ろすべき世界はここだ。王となるがよい。ここを貴様の安住の地とせよ』
サクラはシーツから頭を出した。
上半身を起こすと、手を伸ばしてカーテンを開ける。
途端に、部屋の中に眩しい光が差し込んできた。
「やばい! 寝過ぎちゃった」
サクラは慌てて飛び起きた。
ベッドからおりると、床に落ちていた寝巻きを拾い上げてすばやく着替える。
「あの人はさ、どうして自分が起きたときに声をかけてくれないのよ。ヴァルカさんに怒られるじゃない!」
サクラはクロビスの寝室を飛び出すと、自室に向かって走り出した。
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