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第3話
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サクラは暗礁の森で装備品を回収したあと、クロビスの屋敷へまっすぐに帰ってきた。
「……おや、おかえりなさい。思っていたよりもお早いご帰宅ですね」
「ただいま。そっちこそ、今日は早く帰ってこれたんだね」
サクラが屋敷の玄関に入ると、そこにはクロビスがいて驚いた。
外はまだ太陽が真上に出ている時間帯だ。稀人の襲撃があったばかりなので、クロビスの帰りは月が大地を照らす時間になるものだと思っていた。
「……私は少し休んだら城に戻ります。さすがにやることが山積みですから」
「そうなんだね。大変なのはわかるけど、あまり無理をしないでくれると嬉しいな」
「そうもいきません。本当は自宅まで戻ってくるつもりもなかったのですが……」
クロビスの声には張りがない。
愛弟子であるノルウェットを失ったばかりなのだ。そう簡単に気持ちが持ち直せるわけがない。
おそらく気落ちしているクロビスを周囲が気遣ったのだろう。休憩をとるなら仮眠室よりも自宅のほうが落ち着くだろうなどと言われて、無理やり帰されてしまったといったところか。
サクラはクロビスのもとまで歩み寄る。彼の目の前に立つと、黒い仮面を外して顔を覗き込んだ。
「疲れた顔してる。休めるときにはしっかり休んでね」
「私のことはいいのです」
クロビスはそう言いながら、サクラの手から仮面を取り返す。
「それよりも、サクラさんの方は落としたという荷物が無事に見つかったようですね」
「うん、そうなの」
サクラは肩から斜めに下げたアイテム鞄を指差した。
「実は私も一時帰宅なんだよね」
森の中にあったサクラの装備品たち。
ゲーム内でキャラクターに持たせていたときは、なんとも思っていなかった。
ゲームならばアイテムスロットから選択するだけで道具を使用できたので、実際に荷物を持ち抱えているという実感がない。
だがこうして実物を目の前にすると、相当量の荷物であることが判明したのである。
「すんごく大荷物でね。いちど整理しないとどうしようもなさそうだなって。さすがにこれじゃ動けないもの」
サクラは回収した武器を背中に背負い、防具は小さく畳んでアイテム鞄に詰め込んできた。
サクラのアイテム鞄の中には、もともとラスボス戦闘の際に使用していた回復アイテムやバフ、デバフ効果のあるアイテムがぎっちりと隙間なく入っていた。
そこへ、サクラがアバターに着せていた「旅の踊り子シリーズ防具一式(頭・胴・手・足)」を無理やり詰め込んだのだ。いまにもはち切れそうなくらいに、アイテム鞄がパンパンに膨らんでいる。
「やはりあなたは以前から掃除というか、整理整頓というものが苦手なのですね」
「だ、だって所持数の限界値まで持ってないと不安なんだもん」
死にゲーのラスボスを討伐するために必要なアイテムだ。
在庫など気にせず持てる限り鞄の中に詰め込んで挑まなければ、すぐに倒されてしまう。
「それにね、さすがに着ていた服はね。森の中で着替えるわけにもいかないなって思ったからね。無理やり鞄に入れたらこうなっちゃっただけでね」
「着ていた服? あなたと森の中で会ったとき、衣服は身に着けておられたと思うのですが」
「あ、えっとね。違くて、そのー……」
余計なことを口走った。
サクラがあからさまに動揺をみせると、クロビスは無言でサクラのアイテム鞄を開けた。彼は鞄の中の一番上に入っていた青い布を手に取って広げる。
「……これは、踊り子の衣装?」
中から出てきたのは真っ青な色の布面積が少なめのドレス。
おそらくデザインのイメージはベリーダンサーの衣装あたりだろう。
防具と呼ぶにはあまりにも防御力が頼りにならない。見た目の美しさだけに振り切った装備品だ。
「これがサクラさんの持ち物なのですか?」
「そうだよ、私がこれを着てたの。悪い⁉」
旅の踊り子装備は、一式身につけると素早さとスタミナがアップする効果がある。
だからといって、さすがにダンス衣装風の防具を装備した状態で街に帰ってくる勇気はなかった。
「いいえ。非常に興味があるので、着ていただきたいですね」
クロビスが機嫌良さそうに微笑む。声の張りも先ほどよりはよくなっているが、さすがにこれはどうなのかとサクラはため息をついた。
「できれば踊っていただきたいです」
「悪いけど、私は踊りなんてできないからね」
「そうなのですか? ご立派な衣装ですのに、それは残念です」
クロビスはニコニコと笑顔を張りつけたまま、サクラの腰に腕を回して抱き寄せると、こめかみに唇を寄せてきた。
距離が近くなったことは嬉しい。少しでも元気になったのなら喜ばしいが、サクラはそんなクロビスにゲンナリして、肩をすくめる。
「まあまあお二人とも。いつまでもそんなところでお話をしていないで、お部屋にいかれてはいかがですか」
サクラとクロビスが玄関で話し込んでいると、廊下の奥からヴァルカに声をかけられた。
「ほらほら、ゆっくりお休みできるようにお飲み物をお持ちしますから。先に寝室へ行って待っていてくださいませ」
ヴァルカは遠慮なくこちらに近づいてくると、サクラとクロビスの背中をぐいぐいと押す。
「いや、私はすぐにまた森に行くからね。休憩するのはこの人だけでしょ」
「あらあら、せっかくですからお二人でごゆっくりなさってくださいませ」
抵抗するサクラを、ヴァルカが強引に連れて行こうとする。
ぎゃあぎゃあと廊下で騒いでいたときだった。
──カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!
鐘の音が聞こえた。
「……おや、おかえりなさい。思っていたよりもお早いご帰宅ですね」
「ただいま。そっちこそ、今日は早く帰ってこれたんだね」
サクラが屋敷の玄関に入ると、そこにはクロビスがいて驚いた。
外はまだ太陽が真上に出ている時間帯だ。稀人の襲撃があったばかりなので、クロビスの帰りは月が大地を照らす時間になるものだと思っていた。
「……私は少し休んだら城に戻ります。さすがにやることが山積みですから」
「そうなんだね。大変なのはわかるけど、あまり無理をしないでくれると嬉しいな」
「そうもいきません。本当は自宅まで戻ってくるつもりもなかったのですが……」
クロビスの声には張りがない。
愛弟子であるノルウェットを失ったばかりなのだ。そう簡単に気持ちが持ち直せるわけがない。
おそらく気落ちしているクロビスを周囲が気遣ったのだろう。休憩をとるなら仮眠室よりも自宅のほうが落ち着くだろうなどと言われて、無理やり帰されてしまったといったところか。
サクラはクロビスのもとまで歩み寄る。彼の目の前に立つと、黒い仮面を外して顔を覗き込んだ。
「疲れた顔してる。休めるときにはしっかり休んでね」
「私のことはいいのです」
クロビスはそう言いながら、サクラの手から仮面を取り返す。
「それよりも、サクラさんの方は落としたという荷物が無事に見つかったようですね」
「うん、そうなの」
サクラは肩から斜めに下げたアイテム鞄を指差した。
「実は私も一時帰宅なんだよね」
森の中にあったサクラの装備品たち。
ゲーム内でキャラクターに持たせていたときは、なんとも思っていなかった。
ゲームならばアイテムスロットから選択するだけで道具を使用できたので、実際に荷物を持ち抱えているという実感がない。
だがこうして実物を目の前にすると、相当量の荷物であることが判明したのである。
「すんごく大荷物でね。いちど整理しないとどうしようもなさそうだなって。さすがにこれじゃ動けないもの」
サクラは回収した武器を背中に背負い、防具は小さく畳んでアイテム鞄に詰め込んできた。
サクラのアイテム鞄の中には、もともとラスボス戦闘の際に使用していた回復アイテムやバフ、デバフ効果のあるアイテムがぎっちりと隙間なく入っていた。
そこへ、サクラがアバターに着せていた「旅の踊り子シリーズ防具一式(頭・胴・手・足)」を無理やり詰め込んだのだ。いまにもはち切れそうなくらいに、アイテム鞄がパンパンに膨らんでいる。
「やはりあなたは以前から掃除というか、整理整頓というものが苦手なのですね」
「だ、だって所持数の限界値まで持ってないと不安なんだもん」
死にゲーのラスボスを討伐するために必要なアイテムだ。
在庫など気にせず持てる限り鞄の中に詰め込んで挑まなければ、すぐに倒されてしまう。
「それにね、さすがに着ていた服はね。森の中で着替えるわけにもいかないなって思ったからね。無理やり鞄に入れたらこうなっちゃっただけでね」
「着ていた服? あなたと森の中で会ったとき、衣服は身に着けておられたと思うのですが」
「あ、えっとね。違くて、そのー……」
余計なことを口走った。
サクラがあからさまに動揺をみせると、クロビスは無言でサクラのアイテム鞄を開けた。彼は鞄の中の一番上に入っていた青い布を手に取って広げる。
「……これは、踊り子の衣装?」
中から出てきたのは真っ青な色の布面積が少なめのドレス。
おそらくデザインのイメージはベリーダンサーの衣装あたりだろう。
防具と呼ぶにはあまりにも防御力が頼りにならない。見た目の美しさだけに振り切った装備品だ。
「これがサクラさんの持ち物なのですか?」
「そうだよ、私がこれを着てたの。悪い⁉」
旅の踊り子装備は、一式身につけると素早さとスタミナがアップする効果がある。
だからといって、さすがにダンス衣装風の防具を装備した状態で街に帰ってくる勇気はなかった。
「いいえ。非常に興味があるので、着ていただきたいですね」
クロビスが機嫌良さそうに微笑む。声の張りも先ほどよりはよくなっているが、さすがにこれはどうなのかとサクラはため息をついた。
「できれば踊っていただきたいです」
「悪いけど、私は踊りなんてできないからね」
「そうなのですか? ご立派な衣装ですのに、それは残念です」
クロビスはニコニコと笑顔を張りつけたまま、サクラの腰に腕を回して抱き寄せると、こめかみに唇を寄せてきた。
距離が近くなったことは嬉しい。少しでも元気になったのなら喜ばしいが、サクラはそんなクロビスにゲンナリして、肩をすくめる。
「まあまあお二人とも。いつまでもそんなところでお話をしていないで、お部屋にいかれてはいかがですか」
サクラとクロビスが玄関で話し込んでいると、廊下の奥からヴァルカに声をかけられた。
「ほらほら、ゆっくりお休みできるようにお飲み物をお持ちしますから。先に寝室へ行って待っていてくださいませ」
ヴァルカは遠慮なくこちらに近づいてくると、サクラとクロビスの背中をぐいぐいと押す。
「いや、私はすぐにまた森に行くからね。休憩するのはこの人だけでしょ」
「あらあら、せっかくですからお二人でごゆっくりなさってくださいませ」
抵抗するサクラを、ヴァルカが強引に連れて行こうとする。
ぎゃあぎゃあと廊下で騒いでいたときだった。
──カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!
鐘の音が聞こえた。
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