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協力 ダンジョンボス
第5話
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「……ほお、あれが発狂なのか」
アリエノールが目を丸くして、感嘆の声をあげた。
竜の血を引くその瞳が、好奇心でいっそう輝いている。
「聞いたことはあったが、目にするのはこれがはじめてだな」
「そんな呑気なお声をださないでください」
クロビスは主を鋭くたしなめてはいるが、その声は震えていた。
彼の目には、黒い炎をまとった奏多が狂気の化身のように映っているのだろう。
アリエノールは竜人だ。
ゲーム内の情報からは年齢まで知ることはできなかったが、威風堂々とした佇まいから、長い年月を生きてきたと推測できる。その彼女が、少女のように目を輝かせ、はしゃぐなど想像もしていないことだった。
「心よりお願い申し上げます。我らの主として、堂々とした立ち居振る舞いをお心がけくださいませ」
クロビスが額に手を当て、ため息混じりに言う。
しかしアリエノールは、忠告など一切聞き入れない様子で、興味津々といった顔つきで奏多を眺めていた。
サクラは、そんな様子を見て思わず苦笑する。
サクラの目には、アリエノールは竜王の血を引く高貴な存在というより、新しい遊びを見つけて目移りする子供のように映っていた。
「だがな、クロビス。あれを見てみろ」
アリエノールは楽しげに口角を上げる。
「あのように理性を失った者など、そうそう見られるものではないだろう?」
「ええ、そうですね。あんな恐ろしいことに自ら手を出す者など、普通はおりませんから」
「だろうな。自分を見失うなど愚の骨頂、愚か者の極みだ。あやつはもっと自分自身に誇りを持つべきだったな」
アリエノールの声には嘲りが混じっていた。
狂気に堕ちた奏多に軽蔑の視線を送り、堂々と胸を張る。
クロビスはそんな主を見て、深いため息を漏らした。
「……ああ、なぜ死んだのですかロークル。私にはこの方の相手は無理です」
「なんだか、すごく大変そうだね」
サクラが声をかけると、クロビスにじろりと睨まれる。
責めるようなその目に、サクラはにこりと笑って返した。
「アリエノールさまって、ボス戦前のムービーでもしゃべらないし、フレーバーテキストとモブの会話でしか人物像を把握できなかったからなあ。なんだか意外だわ。天真爛漫な感じの方だったんだね」
「あなたまで訳のわからないことを言い出さないでください」
クロビスはがっくりと肩を落とした。
サクラは、そんな彼を横目にしつつ、記憶の中からフレーバーテキストを思い出す。
『かつて君臨した偉大なる竜王の子孫
その血筋に誇りを持ち、自分は気高く強い存在であるのだと信じていた
だが、女は弱かった
たった一度の敗戦で心が折れた
死を恐れ、城に引きこもるようになった
愛する者を失いようやく自分の愚かさと向き合った
もう迷うことはない
見せてやろう、竜の一族の力を』
「たしかにね。自分はすごいんだって思っていたのに、初めての失敗で心が折れちゃうってさ。そんなところに、素直なお姫さまって性格が見え隠れしていたのかも」
サクラはぼそりとつぶやき、アリエノールを見やった。
竜人の姫は朗らかに笑いながら、手にしたハルバードをぎゅっと握りしめる。
赤い雷の力が刃に宿り、バリバリと空気を裂く音を立て始めた。
「他者に対して礼を持って接しなさい。驕り高ぶらず、思いやりや共感を持つように心がけなさい。あいつにはよくそう言われたものだが……」
アリエノールが高く掲げたハルバードに呼応するように、天から赤い稲妻が走り、奏多の周囲へと落ちる。
轟音が広場を揺るがし、地面の石畳みがはじけ飛んだ。
「あのように心を無くした者に寄り添う必要などないな。せめて謝罪の言葉くらいは引き出したかったが、無理そうだ」
雷光の閃きに、奏多の影がぐらぐらと揺れる。
サクラは飛んでくる石畳を武器で弾き飛ばしながら、苦笑を浮かべた。
「これ、わたしの協力って必要かなあ?」
「必要ですよ。アリエノールさまは加減を知らないのです」
クロビスがすかさず答える。
その口調は真剣で、半ば悲鳴のようでもあった。
「なるほど。言われてみれば、アリエノールさまって範囲攻撃ばっかりだったかもね」
「アリエノールさまはけして悪いお方ではありません。ですが、アリエノールさまのお側にはこんこんと諭す者が必要なのです」
クロビスは目頭を押さえ、深く息を吐いた。
その姿には、長年彼女を支えてきた疲れがにじんでいた。
ロークルの死を、まだ受け入れられていないのかもしれない。
サクラは胸の奥にざらつくような不安を覚え、思わずクロビスの顔を覗き込んだ。
真剣な眼差しが返ってくる。
彼はためらいなく言った。
「あなたがアリエノールさまに新しい季節を運んでくださってもかまわないのですよ?」
広場には稲妻の轟音が響き渡り、狂気に沈んだ奏多の叫び声がそれに混じっていた。
サクラは剣を握り直しながら、クロビスの言葉の意味を反芻する。
──新しい季節。
それは、竜人の姫にとって「救い」なのか。
それとも「破滅」なのか。
答えを出すのは、まだ早すぎる気がした。
アリエノールが目を丸くして、感嘆の声をあげた。
竜の血を引くその瞳が、好奇心でいっそう輝いている。
「聞いたことはあったが、目にするのはこれがはじめてだな」
「そんな呑気なお声をださないでください」
クロビスは主を鋭くたしなめてはいるが、その声は震えていた。
彼の目には、黒い炎をまとった奏多が狂気の化身のように映っているのだろう。
アリエノールは竜人だ。
ゲーム内の情報からは年齢まで知ることはできなかったが、威風堂々とした佇まいから、長い年月を生きてきたと推測できる。その彼女が、少女のように目を輝かせ、はしゃぐなど想像もしていないことだった。
「心よりお願い申し上げます。我らの主として、堂々とした立ち居振る舞いをお心がけくださいませ」
クロビスが額に手を当て、ため息混じりに言う。
しかしアリエノールは、忠告など一切聞き入れない様子で、興味津々といった顔つきで奏多を眺めていた。
サクラは、そんな様子を見て思わず苦笑する。
サクラの目には、アリエノールは竜王の血を引く高貴な存在というより、新しい遊びを見つけて目移りする子供のように映っていた。
「だがな、クロビス。あれを見てみろ」
アリエノールは楽しげに口角を上げる。
「あのように理性を失った者など、そうそう見られるものではないだろう?」
「ええ、そうですね。あんな恐ろしいことに自ら手を出す者など、普通はおりませんから」
「だろうな。自分を見失うなど愚の骨頂、愚か者の極みだ。あやつはもっと自分自身に誇りを持つべきだったな」
アリエノールの声には嘲りが混じっていた。
狂気に堕ちた奏多に軽蔑の視線を送り、堂々と胸を張る。
クロビスはそんな主を見て、深いため息を漏らした。
「……ああ、なぜ死んだのですかロークル。私にはこの方の相手は無理です」
「なんだか、すごく大変そうだね」
サクラが声をかけると、クロビスにじろりと睨まれる。
責めるようなその目に、サクラはにこりと笑って返した。
「アリエノールさまって、ボス戦前のムービーでもしゃべらないし、フレーバーテキストとモブの会話でしか人物像を把握できなかったからなあ。なんだか意外だわ。天真爛漫な感じの方だったんだね」
「あなたまで訳のわからないことを言い出さないでください」
クロビスはがっくりと肩を落とした。
サクラは、そんな彼を横目にしつつ、記憶の中からフレーバーテキストを思い出す。
『かつて君臨した偉大なる竜王の子孫
その血筋に誇りを持ち、自分は気高く強い存在であるのだと信じていた
だが、女は弱かった
たった一度の敗戦で心が折れた
死を恐れ、城に引きこもるようになった
愛する者を失いようやく自分の愚かさと向き合った
もう迷うことはない
見せてやろう、竜の一族の力を』
「たしかにね。自分はすごいんだって思っていたのに、初めての失敗で心が折れちゃうってさ。そんなところに、素直なお姫さまって性格が見え隠れしていたのかも」
サクラはぼそりとつぶやき、アリエノールを見やった。
竜人の姫は朗らかに笑いながら、手にしたハルバードをぎゅっと握りしめる。
赤い雷の力が刃に宿り、バリバリと空気を裂く音を立て始めた。
「他者に対して礼を持って接しなさい。驕り高ぶらず、思いやりや共感を持つように心がけなさい。あいつにはよくそう言われたものだが……」
アリエノールが高く掲げたハルバードに呼応するように、天から赤い稲妻が走り、奏多の周囲へと落ちる。
轟音が広場を揺るがし、地面の石畳みがはじけ飛んだ。
「あのように心を無くした者に寄り添う必要などないな。せめて謝罪の言葉くらいは引き出したかったが、無理そうだ」
雷光の閃きに、奏多の影がぐらぐらと揺れる。
サクラは飛んでくる石畳を武器で弾き飛ばしながら、苦笑を浮かべた。
「これ、わたしの協力って必要かなあ?」
「必要ですよ。アリエノールさまは加減を知らないのです」
クロビスがすかさず答える。
その口調は真剣で、半ば悲鳴のようでもあった。
「なるほど。言われてみれば、アリエノールさまって範囲攻撃ばっかりだったかもね」
「アリエノールさまはけして悪いお方ではありません。ですが、アリエノールさまのお側にはこんこんと諭す者が必要なのです」
クロビスは目頭を押さえ、深く息を吐いた。
その姿には、長年彼女を支えてきた疲れがにじんでいた。
ロークルの死を、まだ受け入れられていないのかもしれない。
サクラは胸の奥にざらつくような不安を覚え、思わずクロビスの顔を覗き込んだ。
真剣な眼差しが返ってくる。
彼はためらいなく言った。
「あなたがアリエノールさまに新しい季節を運んでくださってもかまわないのですよ?」
広場には稲妻の轟音が響き渡り、狂気に沈んだ奏多の叫び声がそれに混じっていた。
サクラは剣を握り直しながら、クロビスの言葉の意味を反芻する。
──新しい季節。
それは、竜人の姫にとって「救い」なのか。
それとも「破滅」なのか。
答えを出すのは、まだ早すぎる気がした。
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