高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!

黒蜜きな粉

文字の大きさ
67 / 78
協力 ダンジョンボス

第6話

しおりを挟む
「……新しい季節か。わたしに運べるのかな」

 サクラはぽつりとつぶやいた。胸の奥に芽生えた不安が、じんわりと広がっていく。
 異世界に来てからは、ただ生き延びることだけを考えてきた。けれど、今はもっと大きな役目を求められている。自分にそんな器があるのだろうか。

「あなたは異界からやってきた神、稀人なのですから。それくらいのことはできるのでしょう?」

 クロビスの声音には、いつもの皮肉も棘もなかった。静かで、しかし揺るぎない確信に満ちている。
 その響きに、サクラのまぶたがわずかに震えた。
 クロビスの中で、ただの流れ人だった自分が「稀人」へと昇華されたのだと悟った瞬間、ふっと笑いが漏れた。

「まるで民俗学の話みたいね」

 サクラはそう言ってから肩をすくめ、続ける。

「いや、むしろ典型的な神話かな。若者が異国を渡り歩き、数々の試練を乗り越え、やがて神や尊い存在になる……。ああ、だからかもしれないね。それこそ王道のゲームのシナリオみたい」

 自分で言って納得し、一人でこくりとうなずく。
 異世界の空気に染まっても、やっぱり発想はゲーム的に引き戻される。そんな自分に、サクラは苦笑しつつも安心していた。

 そんなサクラを見つめるクロビスの視線が柔らかくなった。そのことに気づき、サクラはにやりと笑った。

「なんだか安心したような目をしてるけど……。もし、わたしが王になったら、あなたを王配に指名してやるんだからね」

 冗談半分、本気半分。そう告げると、クロビスはぎょっとして目を見開いた。

「なにその反応。さっきは結婚を前提にって言ってくれてたのに。口から出任せだったの?」

「……考えてもいないことでしたので、本気で驚いただけです」

 言い訳めいた返事をしたあと、クロビスは腕を組み、数呼吸置いてから口を開く。

「王配はご遠慮願いたいですね。せめて愛人ではいかがでしょう?」

「嫌よ。玉座にひとりぼっちの王さまなんて無理。それに……」

 サクラは顔を赤らめながら言葉を続けた。

「わたしはあなたのこと、好きだもん」

 真正面からの告白に、クロビスが目頭を押さえる。

「……あなたという方は。こんな時にそういうことを言いますか?」

「あなたにだけは言われたくないわ」

 サクラは頬を膨らませる。

「婚約者のふりだってわかってるけどね。あんなにさらりと上司に向かって、結婚を前提に、なんて言える人、そうそういないわよ。あれはときめいちゃうでしょ」

「もうそのつもりではありません」

 クロビスは淡々と告げる。

「本気で思っていることだから、自然と言葉が出ただけです」

 真剣な響きに、サクラの心臓がどくんと跳ねた。全身が熱に包まれ、頬がさらに赤くなる。両手はパタを握ったままで顔を隠せないのがもどかしい。

「……なんだか、すごく恥ずかしくなってきた。いまはこっち見ないでほしいかも」

「奇遇ですね。私もですよ」

 クロビスの素直すぎる返答に、サクラは噴き出した。緊張と羞恥が混じった笑い声が、嵐のような広場に一瞬だけやさしい空気を生む。



「ごめんなさい」

 サクラは小さく息をつき、目を伏せる。

「やっぱり、わたしは自分が王さまになるなんて想像できないの」

「そうでしょうね。そんな気がしていました」

 クロビスは静かに言った。先ほどまでの軽口は消え、柔らかな響きだけが残る。

「稀人だからといって、誰もが王たることを望むわけではないのですね。……私は、神には心などないものだと勘違いしていたようです」

 サクラは顔を上げ、真剣なまなざしで彼を見返す。

「勘違いはお互いさまだからいいの。これからは、ちゃんと分かり合えるように、たくさん話をしようね」

 その言葉は自分に向けても投げかけたものだった。異世界に来てから抱え込んできた孤独や不安を、少しずつ分かち合っていきたい。



 サクラは前を向く。視線の先では、アリエノールと奏多の戦いが激しさを増していた。

 轟音。稲妻。崩れゆく城壁。

 奏多はもはや人の形を保っているのが奇跡のようだった。
 血走った目は虚ろで、口からは泡を吹き、全身の皮膚は赤黒くただれている。それでも、彼が小さな杖を振るうたび、闇の瘴気が吹き荒れ、石畳を砕き広場を震わせた。

「──うああああああッ!」

 獣の咆哮に似た絶叫。理性の欠片もない、ただ生き延びるために本能を燃やす叫び。

 一方のアリエノールは、真紅の雷をまとい、巨大なハルバードを振るって応じる。地を踏みしめるたび稲妻が奔り、裂けた空から轟雷が降り注ぐ。

「愚か者が……!」

 斬撃と雷鳴が衝突し、閃光と衝撃が広場を覆った。

 サクラは吹き飛ばされそうになりながら必死に踏みとどまる。耳が痛くなるほどの轟音、視界は閃光と砂塵で白く染まった。

「このままじゃ……城が崩れちゃう!」

 城壁の亀裂は広がり、瓦礫が雨のように降り注ぐ。アリエノールの力が強すぎて、このままでは奏多を討つ前に周囲が崩壊してしまう。

 クロビスが低くつぶやく。

「……だからこそ、あなたの力が必要なのです。アリエノールさまは加減を知らない」

 サクラは唇を噛んだ。恐怖で足がすくむ。それでも胸の奥で別の感情が燃え上がる。

 ――見届けたい。あの竜人の無垢な力を、暴走した奏多の末路を、そして自分がここにいる意味を。

 サクラは深呼吸し、決意を固める。

「わたしはアリエノールさまに協力する。あの方を王にするために、ご助力させていただきますわ」

 ちらりと横目でクロビスを見る。仮面に表情は隠されているが、彼はゆっくりとうなずいた。その耳がほんのり赤く染まっているのを、サクラは見逃さなかった。けれど、口には出さず胸の奥にしまい込む。

「竜王の時代、また来ますかねえ」

 クロビスがぼそりとつぶやく。

「アリエノールさまが王になりたいと思ったのは、偉大なご先祖さまに憧れているからなんだよね」

 サクラはゆっくりと応える。

「純粋無垢な方だから、しっかりと私たちがお支えしていけたらいいんじゃないかな」

 言葉にしながら、サクラは改めて自分の役割を感じた。
 新しい季節を運ぶなんて大げさかもしれない。けれど、隣にクロビスがいて、前にアリエノールがいるのなら――。

 その未来を信じてみるのも、悪くない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します

如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい 全くもって分からない 転生した私にはその美的感覚が分からないよ

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

ダラダラ異世界転生

ゆぃ♫
ファンタジー
平和な主婦異世界に行く。1からの人生人を頼ってのんびり暮らす。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

処理中です...