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鍛冶屋
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父親の言葉を聞いた途端、ファルの表情が明るくなった。
「よかったあ。久しぶりのお客さんだね!」
ファルは先ほどまでの泣き顔はどこへやったのか、両手を合わせて無邪気な笑みを浮かべた。
ライラはファルにつられてにこりと笑ってはみたものの、彼女の発言に違和感を覚えていた。
「……んー、ちょっと待ってちょうだいな。取引が成立するのは嬉しいけれど、久しぶりのお客さんってどういうことかしら?」
「そうなんです! そうなのですよ‼」
ファルは満面の笑みで返事をしながら、ライラに近付いてくる。彼女はライラの真横までくると、身体を密着させて腕を絡めてきた。
「娘の私が言うのもあれなのですけど、お父さんはとっても腕のある職人なのですよ! だけど、お店がこんな変なところにあるから、なかなか新規のお客さんがつかなくって……」
ファルはぐいっとライラの腕を引いて力強く言った。
絶対にこの客を逃がしはしないという、とてつもない気迫をファルから感じる。
ライラはあまりのファルの豹変ぶりに、おもわず表情を崩して呆気に取られてしまった。
「それじゃお父さん、ライラさんを奥に案内してもいいよね?」
「ああ、さっさと行け」
「はあい! さ、行きましょう。すぐに行きましょうね!」
マディスはファルの問いに、腕を組んで仁王立ちしながら顎をしゃくった。
ファルは機嫌良さそうに返事をして、鼻歌を口ずさみながらライラの腕を引いて歩き出す。
ライラは店選びを間違えたかと思った。だが、もう遅い。ライラはファルがしたいように身を任せた。
それから、ライラはカウンターの奥にある扉から廊下を進み、とある部屋へと連れてこられた。
その部屋は工房だった。
工房の壁際には、先ほどまでいた部屋にあった品物よりも、あきらかに質の良い武具がいくつか並べられている。
ライラはそれらを目にすると、やんわりとファルから離れた。ある武器の元までゆっくりと歩き、壁に立てかけられていたそれを手に取った。
すると、後ろを着いてきていたのであろうマディスが、ライラの隣まで来て話しかけてきた。
「……アンタは弓使いか?」
「ええ。私は剣を振るったりするのは苦手なのよね」
だからこそ、あの短剣はライラでも扱えるように軽く設計されていた。
魔法付与がされているのも、ライラの弱点を補うためだ。あれはライラのことをよく知る男が腕のある職人に作らせたものだ。
「そうかい。まあ何でも好きなものを持っていけ。あの短剣と交換じゃどれを持って行っても釣り合わないが……」
「構わないの、私のわがままだもの。……ありがとう、あれを引き取ってくれて」
「あいよ。勝手にしな」
マディスはそれだけ言うと、その場からいなくなった。そこへ入れ替わるようにファルが近付いてきて、踵を上げながらライラの耳元でささやいた。
「一式必要なら、弓以外に防具もご入用ですよね。私がサイズを測りますからいつでも声をかけてくださいね」
そう言ってウィンクをしたファルにライラは苦笑いした。
こうして、ひと悶着あったもののマディスの鍛冶屋で望んでいた装備品を全て揃えることができた。
三日後の試験はこの装備で受けるため、早急に使用感を確かめねばと、ライラは荷物をまとめて帰り支度を始める。
「おいおい。三日後の試験に必要なのはわかっているが、軽く調整くらいさせろ」
「すぐに必要だから自分で調整するわ。これ以上は迷惑をかけられないもの」
「すぐに必要だからこそ専門家に任せとけって言ってんだ! 明日の朝一番には用意しておくから、それくらい待て」
荷物をまとめながらおざなりに返事をするライラを見て、マディスは腹立たしそうに額に皺を寄せた。彼は顔を真っ赤にしてライラから荷物を奪い取ってしまう。
頑として荷物は渡さないという空気をマディスから出され、ライラは嫌々ながら承諾した。
「……わかったわ。それじゃあ、明日の朝一番にまたくるわね」
ライラはマディスに調整を任せて、この日は大人しく帰ることにした。
「よかったあ。久しぶりのお客さんだね!」
ファルは先ほどまでの泣き顔はどこへやったのか、両手を合わせて無邪気な笑みを浮かべた。
ライラはファルにつられてにこりと笑ってはみたものの、彼女の発言に違和感を覚えていた。
「……んー、ちょっと待ってちょうだいな。取引が成立するのは嬉しいけれど、久しぶりのお客さんってどういうことかしら?」
「そうなんです! そうなのですよ‼」
ファルは満面の笑みで返事をしながら、ライラに近付いてくる。彼女はライラの真横までくると、身体を密着させて腕を絡めてきた。
「娘の私が言うのもあれなのですけど、お父さんはとっても腕のある職人なのですよ! だけど、お店がこんな変なところにあるから、なかなか新規のお客さんがつかなくって……」
ファルはぐいっとライラの腕を引いて力強く言った。
絶対にこの客を逃がしはしないという、とてつもない気迫をファルから感じる。
ライラはあまりのファルの豹変ぶりに、おもわず表情を崩して呆気に取られてしまった。
「それじゃお父さん、ライラさんを奥に案内してもいいよね?」
「ああ、さっさと行け」
「はあい! さ、行きましょう。すぐに行きましょうね!」
マディスはファルの問いに、腕を組んで仁王立ちしながら顎をしゃくった。
ファルは機嫌良さそうに返事をして、鼻歌を口ずさみながらライラの腕を引いて歩き出す。
ライラは店選びを間違えたかと思った。だが、もう遅い。ライラはファルがしたいように身を任せた。
それから、ライラはカウンターの奥にある扉から廊下を進み、とある部屋へと連れてこられた。
その部屋は工房だった。
工房の壁際には、先ほどまでいた部屋にあった品物よりも、あきらかに質の良い武具がいくつか並べられている。
ライラはそれらを目にすると、やんわりとファルから離れた。ある武器の元までゆっくりと歩き、壁に立てかけられていたそれを手に取った。
すると、後ろを着いてきていたのであろうマディスが、ライラの隣まで来て話しかけてきた。
「……アンタは弓使いか?」
「ええ。私は剣を振るったりするのは苦手なのよね」
だからこそ、あの短剣はライラでも扱えるように軽く設計されていた。
魔法付与がされているのも、ライラの弱点を補うためだ。あれはライラのことをよく知る男が腕のある職人に作らせたものだ。
「そうかい。まあ何でも好きなものを持っていけ。あの短剣と交換じゃどれを持って行っても釣り合わないが……」
「構わないの、私のわがままだもの。……ありがとう、あれを引き取ってくれて」
「あいよ。勝手にしな」
マディスはそれだけ言うと、その場からいなくなった。そこへ入れ替わるようにファルが近付いてきて、踵を上げながらライラの耳元でささやいた。
「一式必要なら、弓以外に防具もご入用ですよね。私がサイズを測りますからいつでも声をかけてくださいね」
そう言ってウィンクをしたファルにライラは苦笑いした。
こうして、ひと悶着あったもののマディスの鍛冶屋で望んでいた装備品を全て揃えることができた。
三日後の試験はこの装備で受けるため、早急に使用感を確かめねばと、ライラは荷物をまとめて帰り支度を始める。
「おいおい。三日後の試験に必要なのはわかっているが、軽く調整くらいさせろ」
「すぐに必要だから自分で調整するわ。これ以上は迷惑をかけられないもの」
「すぐに必要だからこそ専門家に任せとけって言ってんだ! 明日の朝一番には用意しておくから、それくらい待て」
荷物をまとめながらおざなりに返事をするライラを見て、マディスは腹立たしそうに額に皺を寄せた。彼は顔を真っ赤にしてライラから荷物を奪い取ってしまう。
頑として荷物は渡さないという空気をマディスから出され、ライラは嫌々ながら承諾した。
「……わかったわ。それじゃあ、明日の朝一番にまたくるわね」
ライラはマディスに調整を任せて、この日は大人しく帰ることにした。
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