離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
28 / 151
鍛冶屋

しおりを挟む
 父親の言葉を聞いた途端、ファルの表情が明るくなった。

「よかったあ。久しぶりのお客さんだね!」

 ファルは先ほどまでの泣き顔はどこへやったのか、両手を合わせて無邪気な笑みを浮かべた。
 ライラはファルにつられてにこりと笑ってはみたものの、彼女の発言に違和感を覚えていた。

「……んー、ちょっと待ってちょうだいな。取引が成立するのは嬉しいけれど、久しぶりのお客さんってどういうことかしら?」

「そうなんです! そうなのですよ‼」

 ファルは満面の笑みで返事をしながら、ライラに近付いてくる。彼女はライラの真横までくると、身体を密着させて腕を絡めてきた。

「娘の私が言うのもあれなのですけど、お父さんはとっても腕のある職人なのですよ! だけど、お店がこんな変なところにあるから、なかなか新規のお客さんがつかなくって……」

 ファルはぐいっとライラの腕を引いて力強く言った。
 絶対にこの客を逃がしはしないという、とてつもない気迫をファルから感じる。
 ライラはあまりのファルの豹変ぶりに、おもわず表情を崩して呆気に取られてしまった。

「それじゃお父さん、ライラさんを奥に案内してもいいよね?」

「ああ、さっさと行け」

「はあい! さ、行きましょう。すぐに行きましょうね!」

 マディスはファルの問いに、腕を組んで仁王立ちしながら顎をしゃくった。
 ファルは機嫌良さそうに返事をして、鼻歌を口ずさみながらライラの腕を引いて歩き出す。
 ライラは店選びを間違えたかと思った。だが、もう遅い。ライラはファルがしたいように身を任せた。


 それから、ライラはカウンターの奥にある扉から廊下を進み、とある部屋へと連れてこられた。
 その部屋は工房だった。
 工房の壁際には、先ほどまでいた部屋にあった品物よりも、あきらかに質の良い武具がいくつか並べられている。

 ライラはそれらを目にすると、やんわりとファルから離れた。ある武器の元までゆっくりと歩き、壁に立てかけられていたそれを手に取った。
 すると、後ろを着いてきていたのであろうマディスが、ライラの隣まで来て話しかけてきた。

「……アンタは弓使いか?」

「ええ。私は剣を振るったりするのは苦手なのよね」

 だからこそ、あの短剣はライラでも扱えるように軽く設計されていた。
 魔法付与がされているのも、ライラの弱点を補うためだ。あれはライラのことをよく知る男が腕のある職人に作らせたものだ。

「そうかい。まあ何でも好きなものを持っていけ。あの短剣と交換じゃどれを持って行っても釣り合わないが……」

「構わないの、私のわがままだもの。……ありがとう、あれを引き取ってくれて」

「あいよ。勝手にしな」

 マディスはそれだけ言うと、その場からいなくなった。そこへ入れ替わるようにファルが近付いてきて、踵を上げながらライラの耳元でささやいた。

「一式必要なら、弓以外に防具もご入用ですよね。私がサイズを測りますからいつでも声をかけてくださいね」

 そう言ってウィンクをしたファルにライラは苦笑いした。


 こうして、ひと悶着あったもののマディスの鍛冶屋で望んでいた装備品を全て揃えることができた。
 三日後の試験はこの装備で受けるため、早急に使用感を確かめねばと、ライラは荷物をまとめて帰り支度を始める。

「おいおい。三日後の試験に必要なのはわかっているが、軽く調整くらいさせろ」

「すぐに必要だから自分で調整するわ。これ以上は迷惑をかけられないもの」

「すぐに必要だからこそ専門家に任せとけって言ってんだ! 明日の朝一番には用意しておくから、それくらい待て」

 荷物をまとめながらおざなりに返事をするライラを見て、マディスは腹立たしそうに額に皺を寄せた。彼は顔を真っ赤にしてライラから荷物を奪い取ってしまう。
 頑として荷物は渡さないという空気をマディスから出され、ライラは嫌々ながら承諾した。

「……わかったわ。それじゃあ、明日の朝一番にまたくるわね」

 ライラはマディスに調整を任せて、この日は大人しく帰ることにした。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

処理中です...