離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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散策

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「……もういないかしら?」

 エセリンド達が姿を消してどれほどの時間が経過しただろう。
 ライラとエリクは、その場から一歩も動けずに周囲を警戒しながら森の中で立ち尽くしていた。

「今のところはこちらに危害を加えるつもりはなかったようですし、もういないと判断してよいのでは?」

「そうね。でも、森を出るまでは警戒していた方がいいかも」

 ライラは大きく息を吐きながら身体の力を抜いた。
 それからすぐにエリクの胸元を掴んで睨みつける。

「あの女は何なのよ! 人のことを巻き込んだのだからしっかり説明してくれるのでしょうね⁉」

「どちらかといえばあなたの方が勝手に巻き込まれにきたと思うのですけれど……」

「どうでもいいからさっさと話の続きをしてよ!」

 ライラがそう詰め寄ると、エリクはゆっくりと息を吐いてから真面目な顔をして話を始めた。
 
「私たちがこの地で活動しているのは、第二王子殿下がご自身の直轄領を求めておられるからです」

「……直轄領って、どうしてまたこんな田舎に……?」

 ライラはエリクが話したことの意図がすぐに掴めなかった。
 彼の胸元を掴んでいた手を離してつい間抜けな声が出てしまう。
 エリクはライラに掴まれて乱れた襟元を整えてから、街の方角を指さした。

「我々にとって王都から離れている方が都合がよいのです。……話をしながら街に戻りましょうか」

 乗ってきた馬はエセリンド達の妙な気配を恐れて逃げ出してしまっていた。
 それに気がついたライラは足元に視線を落として溜め息をついた。
 ファルがデートのつもりで見立ててくれたので、ヒールが細く高い靴を履いてしまっている。

「最悪だわ。こんな靴で街まで歩かなくちゃならないなんて……」

「……お嫌でなければ担ぎましょうか?」

「お嫌に決まっているでしょ! 自分で歩けるわ」

 エリクが申し訳なさそうな顔をしながらライラの顔を覗き込んでくる。
 ライラはきっぱりと申し出を断ってから街に向かってさっさと歩きだす。

「……ねえ、まさか殿下は王位継承権を放棄なさるおつもりなの?」
 
 領地を欲する理由が、ライラには王族の身分を手放す準備としか思えなかった。
 しかし、エリクは真剣な顔で首を振った。

「いいえ。殿下は王位継承権を放棄なさるおつもりはございません」

「じゃあどういう意図で領地なんて欲しがるのよ」

「次の王位を巡って王宮内で熾烈な権力闘争があるのはご存じでしょう。血で血を洗う争いが繰り返されております」

 血で血を洗う、殺されたら殺し返せという王宮内の争いにライラは辟易していた。
 つい鼻で笑ってしまうと、エリクが気まずそうな顔をしながら話を続けた。

「そういった争いが及ばぬ安全な活動拠点を作りたいと殿下は考えておられます。ライラ殿ならこの気持ちがわかるだろうと殿下は仰っておられました」

 ライラはそう言われてエリクを横目で睨んだ。

「……あらそう。でも殿下はどうやってここをご自分の土地になさるのかしら。ここはマスターのお父さまがご領主だったはずよね?」

「領主にはいろいろと後ろ暗いことがありますので……。不正を追及して地位を剥奪、空いた領主の座に殿下が就くというのが我々の目標です」

「なるほどね。強引なやり方だけど王族ならできるのでしょう。現領主の息子も殿下に協力しているわけだしね」

 エリクはそのために領主の不正を調べ上げていると言った。
 エセリンドは領主と繋がりがあるので追っていたそうだ。

「もしかしてマスターがいつも機嫌が悪そうで嫌味ったらしいのって、不正を追及するためとはいえ身内を裏切ることになるから……」

 そこまで口にしてライラは頭を振った。
 人様の家庭の事情に口を挟むのは無粋だと思った。
 
「ごめんなさい。今のは忘れてちょうだい」

「あの方もいろいろ複雑なのでしょう。ご自身で折り合いをつけて頂くしかありませんが」

「……だからって八つ当たりは止めて欲しいわ。自分で殿下に協力するって決めたのでしょうに」

「八つ当たりというより、身内の恥をライラ殿に見られたくないだけという気がしますが……」

「まあ、そんな繊細な人には見えないけど」

 ライラがそう吐き捨てると、エリクは苦笑いをしていた。
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