離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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真実

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「――それで、お前はどうする?」

 ヴィリがコホンと咳払いをしてから、ライラに向かって問いかけてきた。
 ライラは口元に人差し指を当てると、わざとらしくとぼけた顔をして首をかしげた。

「どうする、とは何でございましょうか?」

「とぼけるな。僕が言いたいことはわかっているだろうが」

「……さあ、どうでしょうかねえ。私には殿下のおっしゃりたいことがさっぱりわかりませんわ」

 くすりと笑ってヴィリを見ると、彼は腰に手をあてて呆れた顔をする。大きくため息をつくと、ライラの目をじっと見つめてきた。

「――まったく。お前は弟にしてやられたままでいいのかと言うことだ」

「あらあら。私に協力して欲しいのなら、素直にそうおっしゃってくださいませ」

 ヴィリはライラの返答を聞いて目を見開く。悔しそうに唇を噛んでから切り出した。

「………………僕に、力を貸せ。お前がこの地に流れてきたのも何かの縁だ」

「まあ、殿下にご縁を感じていただけて光栄でございますわ」

 ライラはヴィリに向かって丁寧にお辞儀をした。

「正直に申し上げますと、我が子を奪った者には、命をもってその罪を償わせてやりたい、と考えております」

 そこまで言って、ライラはすぐに身体を起こすと真っすぐに背筋を伸ばす。真面目な顔をしてヴィリを見つめ返した。

「ですが、復讐は何も生み出さないことくらいは、わかっているのです」

 やってもむなしくなるだけだ。それに、そんなことをあの子が望むはずがない。そんな母の姿を見せたくはない。

「……ずっと、ずっと考えていましたわ。私はあの子を殺した者を見つけたら、いったい何をしたいのだろうかと……」

 あの子が感じたものと同じ痛みを与えてやりたい。それ以上に苦しませてやりたいとも思う。
 しかし、そう考えてしまう一方で、きちんと公的な裁きを受けさせたいとも思うのだ。

「そんな悩みは無駄だ。あいつは簒奪さんだつを企てているのだぞ。しかも、魔族という協力者がいるのだ。争いはどうしても避けられない。捕えて裁判に、などと悠長なことは言っていられないだろうさ」

「……そう、なのでしょうか。私は弟君がどうして王になることを望んだのか知りたいですわ。それを叶えるために行った全ての行動の意味を、弟君から直接説明していただきたいと思っております」

 ライラの言葉を聞いたヴィリは鼻で笑った。

「そんなことは無理だろう。聞けたとしても、お前はそれで納得できるのか? きっとできないだろうさ。それならいっそ何も聞かない方が、心の平穏を保てるのではないか?」

「それは、どうなのでしょうか。きっとどんな説明をされても、納得できないことはわかりますわ。それでも知りたいと思ってしまうのは、間違いでしょうか?」

「間違ってはいない。そういう話ではない」

 ヴィリは強い口調でそう言って真剣な顔をする。

「弟は玉座を得るためには他国を巻き込むような戦を起こすこともいとわないのだ。もし追い詰めたとして、あいつは破滅的な最後を望むだろう。そういう奴なのさ」

 きっとろくな言葉は聞けないし、腹立たしくなるだけさ、とヴィリは吐き捨てた。そのヴィリの言い分を聞いて、ライラはすぐに返答ができなかった。
 すると、ヴィリは一瞬だけ困惑した態度をみせた。しかし、すぐに自信ありげな調子に戻って話を続けた。

「実はな、僕は以前よりこの地を我が直轄領にするために動いていたのだ。弟と物理的に距離が近いと、いろいろと動きにくいこともあってな」

 ヴィリがちらりとマスターに視線を向けた。
 ライラもつられてマスターを見る。マスターはライラと視線が合うなり目を伏せて軽く頭を下げた。

「……まあ、この地を殿下のご領地になさるのですか。それはとんでもないご計画でございますわね。ずいぶんとご無理をなさっておられるのでは?」

 逃げるように視線を逸らしたマスターに向かって、ライラは低い声で言った。
 マスターは目を伏せたまま何も言わない。相変らず食えない人だと、ライラは心の中で舌打ちをした。
 
「計画通りであれば、僕の受け入れまではもう少し時間がかかるはずだったのだ。だが、弟にこちらの動きを気付かれてしまったので、こうして僕がここへ来て計画を早めるしかなくなった」

 ヴィリの言葉が少し途切れたところで、マスターがさっと顔を上げる。

「仕上げの準備は整っております」

 ニヤリと嫌な笑顔をみせたマスターに、ライラは顔をしかめる。
 
「ここから立て直しだ。もう弟に背中を見せるようなことは絶対にしない」

 ヴィリはまた手を叩いた。乾いた音が周囲に響く。
 
「僕はしばらくこの地に留まる。もし協力してくれるなら、いつでも声をかけてくれ」
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