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しおりを挟む「……で、話ってなに?」
ユキは人気のない学園の裏庭までやってくると、メリッサを睨みつけながら口を開いた。
「単刀直入に申し上げます。私は殿下の婚約者になりたくないのです」
「白々しいことを言わないで。夜会で殿下とキスをしていたじゃない!」
「あれは事故です」
メリッサはにこりと笑いながら、ユキに向かってはっきりと言った。
「私が体調を崩して立ちくらんでしまったところを、お優しい殿下が支えくださったのです。その際に、少し唇が触れてしまっただけなのです」
だから事故なのですよ、とメリッサが平然と言い放つと、ユキは目を見開いた。
「……えっと、そうだったかな?」
「そうだったのですわ」
メリッサは身を乗り出した。ユキの顔を覗き込みながら力強く発言する。
どう考えてもメリッサの言い分には無理があるのだが、ここまではっきりと言いきられてしまうと、ユキは自信がなくなってきたらしい。
「……そう言われると、そうだったかもしれない」
ユキは首を傾げつつも、そうつぶやいた。
「ええ、ただの事故だったのですわ。だというのに、お優しい殿下は責任を取って私と結婚するとおっしゃるのです。それではあまりに殿下がお可哀想だとは思いませんか?」
「そうね。それはあんまりね!」
「ええ、あんまりなのです。だって、殿下にはユキ様という素晴らしい女性がいらっしゃるのですもの」
本音をひた隠しにしながらメリッサが言うと、ユキは腕を組んで大きく頷いた。
短絡的な性格をしていると聞いてはいたが、ここまで浅はかなだと心配になってしまうほどだ。
「そうよ! 殿下には私がいるのにあなたと婚約だなんて、ありえない話ね」
「その通りです! ですから、ユキ様から私はなにも気にしていないと殿下に伝えて欲しいのですわ」
メリッサはユキの手を取って力強く話しかける。
しかし、それまで胸を張ってメリッサの話に頷いていたユキが、突然はっとした顔をして目を伏せた。
「……でも、私は陛下に殿下との交際は反対されているの。だから正式に婚約さえできていなくて。殿下は説得できても、陛下はどうかな……」
「まあ、そうだったのですね」
メリッサはユキの手を取ったまま、目を潤ませた。
「きっと陛下はユキ様のことをよくご存じないのね。でも、それは仕方のないことかもしれませんわ。だって陛下はとってもお忙しい方ですもの。いくらユキ様が聖女様とはいえ、お会いする機会は少なかったでしょう?」
メリッサはユキに口を挟ませずにつらつらと話を続ける。
ユキはぽかんとした顔をしてメリッサを見つめている。
「ユキ様はとてもお可愛らしい方ですもの。ユキ様の魅力を、陛下にも伝わるようになさればよろしいのではないでしょうか?」
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