お題に挑戦した短編・掌編集

黒蜜きな粉

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お題:オムライスから見たあの子

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『オムライスの懇願』


 あの子の視線が私を憐れんでいた。
 まるで、段ボールに詰められて捨てられた子猫に向けるもののよう。
 顔をゆがめて、目に涙を浮かべて、優しい人に拾われてねって、そんな風に言われているみたいだ。

 そんな目を向けるくらいなら、こちらを見ないでほしい。
 いっそのこと、かわいそうだとはっきり口に出したらどうなんだと叫びたい。
 不憫に思うのなら、その手で私を払いのければいい。
 床に落ちた私を踏みつけて、唾を吐いて、罵ればいいじゃないか。

 ほんの少し嬉しそうな顔をしたから、期待してしまったんだ。
 私を食べておいしいって言ってくれるんじゃないか。
 私を連れてどこかへいってくれるんじゃないかって思った。
 私が見たことのない景色を見せてくれるんじゃないかって、夢をみてしまうじゃないか。

 どうして私を食べくれないのだろう。
 むしゃむしゃと口いっぱいに頬張ってほしい。
 あなたの喉を通って、あなたの深くまでは入りこんで、あなたに溶かされてひとつになりたい。
 あなたの体の一部になって、ずっと一緒にいたいだけなんです。

 どうか私を口にしてほしい。
 ひとりきりになんてさせないと誓う。
 ここは寒い。
 暗い。
 もうなにも見えない。
 私をここに置いていかないでください。

 私ならあなたをひとりで苦しませたりしないから。
 ゴミになりたいなんて言わせないから。
 辛いなら私を噛み砕いていいから。
 自分の手足を切るのはもうやめてください。

 そばにいて。
 また私を見て目を輝かせてほしい。
 悲しい顔をしないで。
 おいしいって言って笑う、あなたの姿が見たいだけなんです。

 私の中にはたくさんの愛が詰まっている。
 ふわふわ優しく包み込んであげるから。
 だからどうか、私の愛を受け取ってください。
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