お題に挑戦した短編・掌編集

黒蜜きな粉

文字の大きさ
27 / 63

お題:オムライスから見たあの子

しおりを挟む
『オムライスという旅』



 とりとめのない話をするけど、かまわないかな。 

 料理をするのは旅と似ているって、誰かが言ってたんだ。
 完成した料理の姿、それが旅の目的地。
 料理の工程ひとつひとつは、目的地に到達するまでのただの通過点に過ぎない。
 だから、料理のレシピは地図みたいなものなんだって。

 例えば僕で考えてみようか。
 オムライスを作ろう、そう思った君の頭の中にいる僕の姿はどんなかな。
 卵の上に乗っているのはケチャップか、デミグラスソースか。
 もしかしてホワイトソース派だったりしてね。

 中身のライスをどうするのかも大切だ。
 チキンライスを思い浮かべたかな。
 それともバターライスか、はたまたガーリックライスかもしれない。

 そもそも、卵はどうなっているかな。
 ふわふわの半熟だろうか、それとも固焼きだろうか。
 ライスを卵で包む派かな、まとめた卵をライスの上に乗せる派かな。

 ほらね、オムライスひとつ作るのに、こんなにも工程が違うんだ。
 僕という存在にたどり着くまでに、数多の道のりがあることはわかってくれたかな。

 君という存在だって一緒じゃないかな。
 ゴミになりたかったと言う君が、どんな未来の自分を思い浮かべているのか、僕にはわからない。
 けれど、将来の君にたどり着くための道のりがひとつじゃないっていうのは、オムライスの僕にだってわかる。

 君はいま、未来の君へ会うための旅をしているんだ。
 いままで君の世界はものすごく狭かった。
 小さな地図の中で、身近な大人に指し示された道のりを歩んできた。
 大人が想像する理想の君の姿。
 もちろんレシピは大人が用意していたはずだ。
 少しずつ大人に近づいてきた君は、自分のレシピを考えてみたくなったんじゃないかな。

 君は人生という旅の分岐点に辿り着いた。
 これからは印のない地図を歩いて行くんだ。
 暗くて前が見えない。
 険しい道のりが待っているかもしれない。
 だけど、未来の自分に出会うため、旅を続けなければいけない。

 君が思い描く未来の君の姿は、誰にもわからない。
 僕のレシピが人によってバラバラなようにね。
 きっとまだ目的地がわからなくて、どうしようもなく苦しいだろう。
 暗闇の中で手探りしている状態なんだ、迷子にくらいなるさ。
 疲れて寝転んでみたら、起き上がるのすら辛いよね。
 
 君の人生の道のりは、君にしか見つけられないから誰も一緒に歩めない。
 完璧に同じ歩幅で歩くのは誰にだって無理なんだ。
 目の前が真っ暗でも、ひとりでもがくしかないんだよ。

 だけど、辛くなったら振り返ってみるといい。
 そこには僕がいるから。
 君の旅路がさみしくないように、そっと隣に寄り添うよ。
 一緒に歩くことはできなくても、君の名前をケチャップで書いてあげる。

 僕は覚えてる。
 君と初めて出会ったとき、僕に爪楊枝の小さな旗を立ててくれた。
 僕と君の旅路が交わった証。君が僕に寄り添ってくれた証。
 だから僕は捨てられたってさみしくないよ。悲しい顔をしなくていいんだ。

 君の人生に、もっとたくさんの旗を立てにいってほしい。
 僕のように、君に救われる人がいっぱいいるはずだ。

 君がここにいる証。
 生きている、人生の旗を立てにいく旅路。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...