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お題:林檎飴
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『屋台の林檎飴』
「かわいい! ねえねえ、ここに並べて撮ろうよ」
友人に連れられてやってきたのは林檎飴の専門店。
さっさと食べたらいいのに、さっきから何度も写真を撮っている。
「かわいい! ねえねえ、今度は二人で手に持って撮ろう」
透明なプラカップに入った林檎飴。
食べやすいようにカットされている。
使われている品種は産地直送の高級ブランド。
彩り豊かで、写真映えする。
「うんうん。いい感じに撮れたね」
友人は写真に満足したらしい。
ようやく食べてもいいのかと、私は林檎飴の入ったプラカップの蓋を開けようとする。
「ちょ、ちょっと待って。開けるところから一口たべるとこまで動画を撮るから」
「ええ、まだ撮るの? それなら私が撮るから先に食べなよ」
友人はSNSに力を入れている。
そんなにいいねが欲しいのかと呆れてしまうこともあるが、その情熱はすごいと素直に尊敬している。
つねに流行りに対して、敏感にアンテナを張っている。
こうしてわざわざ様々な場所に足を運ぶ行動力もある。
そんな彼女に、自分だけでは行かないところに誘ってもらえるのは、私にとって嬉しいことだったりする。
「それはダメ! アンタは撮るの下手くそだから」
「はいはい、わかりました。それじゃどこで食べようか? そっちのベンチの方が背景が映えるんじゃない?」
「お、アンタもようやくわかってきたねえ」
綺麗に手入れされた花壇の前にあるベンチ。
私はそこに姿勢よく座って、ゆっくりと林檎飴の入ったプラカップを開けた。
甘い香りが鼻をくすぐる。
「……おいしい」
ぱくりとひと口。
口の中に広がるやさしい味。
林檎のまわりをコーティングしている飴の甘さと、林檎自体のジューシーな甘さ。
絶妙にマッチしていて最高だ。
私はすぐにもうひと口。
「んー、やっぱりおいしい。何個でも食べられちゃいそう」
「ちょっとちょっと、早く食べすぎ! そんなにがっついたらかわいく撮れないじゃん」
「だって林檎飴を食べるの夢だったんだもん。もう写真はいいから食べようよ」
ぱりぱりしゃりしゃり。
音を立てながら林檎飴を食べている私を見て、友人は大きなため息をついた。
彼女は写真を撮ることを諦めた。私の隣に座ると、ゆっくりと林檎飴を食べはじめる。
「本当に林檎飴を食べたことなかったんだね」
「うん。だから今日は誘ってもらえて本当に感謝してる」
子供のころ、夏祭りの屋台で売っていた林檎飴。
いくら食べたいとねだっても、親に買ってもらえたことはなかった。
思春期になると、なぜか林檎飴を食べたがるのは恥ずかしいことなのではと思ってしまった。
本当は食べたかったのに、まわりの視線が気になって買えなかった。
「そう言われるとなんか照れるわ。こっちこそ撮影を手伝ってくれてありがとうね」
「いいえー。インターンに必要なんでしょ? それなら手伝わせていただきますよ」
友人がSNSに力を入れているのは、就活に必要なことだから。
ただ単に承認欲求をこじらせているわけではない。
「しっかし、本当にこの林檎飴はおいしいね。てか、もうこれ林檎飴じゃないよ」
「なにそれ。どう見たって林檎飴じゃん」
「いや、なんかさー、違うんだよ。林檎飴なんだけど、これが林檎飴だって思ってほしくない気がするー」
ぱりぱりしゃりしゃり。
友人は音を立てて林檎飴を食べながら、うんうんと唸っている。
彼女は難しい顔をしながら林檎飴を食べ終わったあと、勢いよくベンチから立ち上がった。
「よし、お祭りに行こう!」
そこからは早かった。
友人はスマホを取り出すと、なにかを調べはじめる。
彼女は大学付近で行われる直近のお祭りを見つけると、スマホ画面を見せつけてきた。
「次はここ。次はこれに一緒に行くよ!」
「う、うん。問題ないけど、どうしてお祭り?」
「だって、林檎飴っていったら夏祭りじゃん!」
友人がえくぼを作って笑う。
その笑顔を見て、私も笑った。
憧れの夏祭りで売っている屋台の林檎飴。
いまから待ち遠しい。
二人できゃっきゃと騒ぎながら、お祭り当日の予定を立てる。
「私が本当の林檎飴を教えてあげる!」
「いやだから。これだって林檎飴じゃん」
「ちーがーうーのー。これは林檎飴だけど、林檎飴じゃないんだってー」
私が屋台の林檎飴を食べることができるのはもうすぐ。
友人が伝えたかった「本当の林檎飴」を知ることができるまで、もう少し。
「かわいい! ねえねえ、ここに並べて撮ろうよ」
友人に連れられてやってきたのは林檎飴の専門店。
さっさと食べたらいいのに、さっきから何度も写真を撮っている。
「かわいい! ねえねえ、今度は二人で手に持って撮ろう」
透明なプラカップに入った林檎飴。
食べやすいようにカットされている。
使われている品種は産地直送の高級ブランド。
彩り豊かで、写真映えする。
「うんうん。いい感じに撮れたね」
友人は写真に満足したらしい。
ようやく食べてもいいのかと、私は林檎飴の入ったプラカップの蓋を開けようとする。
「ちょ、ちょっと待って。開けるところから一口たべるとこまで動画を撮るから」
「ええ、まだ撮るの? それなら私が撮るから先に食べなよ」
友人はSNSに力を入れている。
そんなにいいねが欲しいのかと呆れてしまうこともあるが、その情熱はすごいと素直に尊敬している。
つねに流行りに対して、敏感にアンテナを張っている。
こうしてわざわざ様々な場所に足を運ぶ行動力もある。
そんな彼女に、自分だけでは行かないところに誘ってもらえるのは、私にとって嬉しいことだったりする。
「それはダメ! アンタは撮るの下手くそだから」
「はいはい、わかりました。それじゃどこで食べようか? そっちのベンチの方が背景が映えるんじゃない?」
「お、アンタもようやくわかってきたねえ」
綺麗に手入れされた花壇の前にあるベンチ。
私はそこに姿勢よく座って、ゆっくりと林檎飴の入ったプラカップを開けた。
甘い香りが鼻をくすぐる。
「……おいしい」
ぱくりとひと口。
口の中に広がるやさしい味。
林檎のまわりをコーティングしている飴の甘さと、林檎自体のジューシーな甘さ。
絶妙にマッチしていて最高だ。
私はすぐにもうひと口。
「んー、やっぱりおいしい。何個でも食べられちゃいそう」
「ちょっとちょっと、早く食べすぎ! そんなにがっついたらかわいく撮れないじゃん」
「だって林檎飴を食べるの夢だったんだもん。もう写真はいいから食べようよ」
ぱりぱりしゃりしゃり。
音を立てながら林檎飴を食べている私を見て、友人は大きなため息をついた。
彼女は写真を撮ることを諦めた。私の隣に座ると、ゆっくりと林檎飴を食べはじめる。
「本当に林檎飴を食べたことなかったんだね」
「うん。だから今日は誘ってもらえて本当に感謝してる」
子供のころ、夏祭りの屋台で売っていた林檎飴。
いくら食べたいとねだっても、親に買ってもらえたことはなかった。
思春期になると、なぜか林檎飴を食べたがるのは恥ずかしいことなのではと思ってしまった。
本当は食べたかったのに、まわりの視線が気になって買えなかった。
「そう言われるとなんか照れるわ。こっちこそ撮影を手伝ってくれてありがとうね」
「いいえー。インターンに必要なんでしょ? それなら手伝わせていただきますよ」
友人がSNSに力を入れているのは、就活に必要なことだから。
ただ単に承認欲求をこじらせているわけではない。
「しっかし、本当にこの林檎飴はおいしいね。てか、もうこれ林檎飴じゃないよ」
「なにそれ。どう見たって林檎飴じゃん」
「いや、なんかさー、違うんだよ。林檎飴なんだけど、これが林檎飴だって思ってほしくない気がするー」
ぱりぱりしゃりしゃり。
友人は音を立てて林檎飴を食べながら、うんうんと唸っている。
彼女は難しい顔をしながら林檎飴を食べ終わったあと、勢いよくベンチから立ち上がった。
「よし、お祭りに行こう!」
そこからは早かった。
友人はスマホを取り出すと、なにかを調べはじめる。
彼女は大学付近で行われる直近のお祭りを見つけると、スマホ画面を見せつけてきた。
「次はここ。次はこれに一緒に行くよ!」
「う、うん。問題ないけど、どうしてお祭り?」
「だって、林檎飴っていったら夏祭りじゃん!」
友人がえくぼを作って笑う。
その笑顔を見て、私も笑った。
憧れの夏祭りで売っている屋台の林檎飴。
いまから待ち遠しい。
二人できゃっきゃと騒ぎながら、お祭り当日の予定を立てる。
「私が本当の林檎飴を教えてあげる!」
「いやだから。これだって林檎飴じゃん」
「ちーがーうーのー。これは林檎飴だけど、林檎飴じゃないんだってー」
私が屋台の林檎飴を食べることができるのはもうすぐ。
友人が伝えたかった「本当の林檎飴」を知ることができるまで、もう少し。
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