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31.神器と男爵
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すぐにでも兵舎に戻って海鮮でも肴に男爵と一杯やりたいところだが、まだ神器について検証したいことがある。
俺は切断された勇者の腕から、竜殺しの剣を拾い上げる。
『ぴろりろりん♪竜殺しの剣はシゲノブのものになった』
勇者が死んだ後であっても、神器は消えないのか。
しかし永遠に残り続けるわけではあるまい。
それならば大昔実際に勇者を召喚したことのある王国内には、もっと神器が残されていてもおかしくはない。
勇者以外に使うことができなかったとしても、飾っておくくらいはできるはずだ。
となれば時間の経過によって所有者のいない神器は自然消滅するのだろうか。
実験してみるか。
この男が持っていた中で俺に一番不要な神器といえば、剣豪の指輪だろう。
竜殺しの剣は言うまでもなく有用な神器だし、英雄の指輪は神巻きタバコとの効果重複ができるのであればまだ使い道はある。
だが、剣豪の指輪はおそらく剣技に対して補正がかかる神器。
俺にとってあまり意味の無い神器だ。
達人同士の打ち合いを見学できる機会を探すなどすれば、いくらでも代用可能な代物だ。
俺は英雄の指輪だけを男の指から抜き取る。
『ぴろりろりん♪英雄の指輪はシゲノブのものになった』
あとは剣豪の指輪がどうなるのかを観察しておくか。
俺は10分を測ることのできる砂時計を取り出し、ひっくり返す。
正確な時間なんて測れないからおおよその時間でいい。
落ちていた椅子を拾い上げ、腰掛ける。
なんだか疲れた。
ブルーノさんたちのほうも大体片付いたようで、縄で縛ったチンピラを続々と連行している。
問題はなさそうだ。
やがて砂時計の砂が落ち切ろうという頃、剣豪の指輪は光の粒となって消えていった。
10分くらいということか。
勇者を殺して10分くらいで神器は消える。
逆に言えば10分以内であれば神器を奪えるということだ。
まだ具現化していなかった神器がどうなるかなど分からないことはあるが、この事実は非常に大きい。
下手したら神器を奪い合って勇者同士で争いが起こる可能性がある。
中央の貴族なんかがこの事実を知ったらこの国は地獄と化すだろう。
貴族と勇者を巻き込んだ神器大争奪合戦が起こることは間違いない。
男爵にも相談してみないことには決められないが、秘密にするしかないだろうな。
もう気付いている者もいるかもしれないし気付いていない者が気付くのも時間の問題かもしれないが、あえてバラすことも無いだろう。
俺は複雑な想いを抱きながら、兵舎の一室に作られた臨時作戦本部へと戻る。
「シゲノブ殿、お疲れ様です」
「お疲れ様です男爵。見てましたか?」
「ええ、一部始終を見させていただきました」
「どうしましょうか。やはり勇者同士であれば神器を奪えるという事実を秘密にするくらいしかできることは無いでしょうか」
「そうですね。人間の欲望にはキリがありませんから、そんなことが広まれば王国どころか三国全土で争いが起こってしまいます」
そういえば、勇者がいるのはこの国だけではないのだった。
ステルシア聖王国とムルガ共和国にも、召喚された勇者が何十人も行っているはずだ。
この三国に、今現在戦争中の魔族を含めた四国が混沌の渦に飲まれる可能性があるのか。
日本でいう戦国時代みたいな時代に突入してしまうかもしれない。
なんとかできないものか。
「あまり気になさる必要は無いと思います」
「え?」
「どんな状況に陥ろうと、人間というのは意外と生き延びるものです」
「はあ」
ちょっと男爵が何を言っているのか分からない。
争いになれば、多くの人が死ぬんじゃないのか?
「その剣。元は神器だったものなのです」
「えぇ!?」
男爵は俺の腰の剣を指し示す。
これが神器だって!?
いったいどういうことなのか。
「元の名を神剣といいます。今では神器としての力をほとんど失ってしまいましたが、当時はとても強い力を宿す神器だったそうですよ」
「あの、神器をどうやって受け継いだのでしょうか」
「神器は勇者の実の子孫にのみ一部譲渡が可能だという話を以前しましたが、実は私の祖先も勇者だったのですよ」
「えぇ!?」
衝撃の事実だ。
しかし男爵領での勇者のもてはやされ方を見れば少し納得かもしれない。
勇者にまつわりがある一族が治める領地だからこそ、あれほどまでに勇者に対して好意的なのか。
「勇者は持っている神器のうち、一つのみを子孫へと譲渡することが可能です。しかしその神器の力は代を経るごとに衰えていく。そして今ではこんな感じです。もはや神器としての特性はほとんど残っていない。ただの良く切れる宝剣です」
「それでも十分だと思いますがね」
「ありがとうございます。確かに、貴族家の宝剣としての価値は当時よりも高いかもしれません。貴族というのは何でも古いものをありがたがりますから」
「ははは、なるほど」
「人はいつでも、争いの中に生きています。それは勇者様がいてもいなくても変わらない。実際に、この剣には多くの傷が刻まれている。神器は破壊不能の代物。傷が付いたのは最近でしょう」
それは、勇者のいた時代の傷が分からないだけではなかろうか。
破壊不能ならば傷なんて付きようがないのだから。
「そうですね。勇者の時代にもこの剣はたくさん使われたのでしょう。しかし、神器としての力がほとんど無くなるほどの時間が経っても争いが無くならなかったのも事実です」
「だから、勇者同士の争いも仕方が無いということですか?」
「言ってしまえばそういうことですね。人は大した理由が無くても争います。現に勇者様方を召喚する前から魔族と争っていたのですから」
「そうですね……」
争いの無い世の中なんていうのは、所詮綺麗ごとなのだろうか。
俺達のいた世界でも、争いはあった。
日本は70年ばかり大きな戦争はしていないが、それは人類の歴史の中ではあまりにも短い時間だ。
平和だなんて、とても言えたものじゃない。
ましてやここは異世界。
現在戦争中の国の中だ。
平和を叫ぶことは、あまりにも虚しかった。
俺は切断された勇者の腕から、竜殺しの剣を拾い上げる。
『ぴろりろりん♪竜殺しの剣はシゲノブのものになった』
勇者が死んだ後であっても、神器は消えないのか。
しかし永遠に残り続けるわけではあるまい。
それならば大昔実際に勇者を召喚したことのある王国内には、もっと神器が残されていてもおかしくはない。
勇者以外に使うことができなかったとしても、飾っておくくらいはできるはずだ。
となれば時間の経過によって所有者のいない神器は自然消滅するのだろうか。
実験してみるか。
この男が持っていた中で俺に一番不要な神器といえば、剣豪の指輪だろう。
竜殺しの剣は言うまでもなく有用な神器だし、英雄の指輪は神巻きタバコとの効果重複ができるのであればまだ使い道はある。
だが、剣豪の指輪はおそらく剣技に対して補正がかかる神器。
俺にとってあまり意味の無い神器だ。
達人同士の打ち合いを見学できる機会を探すなどすれば、いくらでも代用可能な代物だ。
俺は英雄の指輪だけを男の指から抜き取る。
『ぴろりろりん♪英雄の指輪はシゲノブのものになった』
あとは剣豪の指輪がどうなるのかを観察しておくか。
俺は10分を測ることのできる砂時計を取り出し、ひっくり返す。
正確な時間なんて測れないからおおよその時間でいい。
落ちていた椅子を拾い上げ、腰掛ける。
なんだか疲れた。
ブルーノさんたちのほうも大体片付いたようで、縄で縛ったチンピラを続々と連行している。
問題はなさそうだ。
やがて砂時計の砂が落ち切ろうという頃、剣豪の指輪は光の粒となって消えていった。
10分くらいということか。
勇者を殺して10分くらいで神器は消える。
逆に言えば10分以内であれば神器を奪えるということだ。
まだ具現化していなかった神器がどうなるかなど分からないことはあるが、この事実は非常に大きい。
下手したら神器を奪い合って勇者同士で争いが起こる可能性がある。
中央の貴族なんかがこの事実を知ったらこの国は地獄と化すだろう。
貴族と勇者を巻き込んだ神器大争奪合戦が起こることは間違いない。
男爵にも相談してみないことには決められないが、秘密にするしかないだろうな。
もう気付いている者もいるかもしれないし気付いていない者が気付くのも時間の問題かもしれないが、あえてバラすことも無いだろう。
俺は複雑な想いを抱きながら、兵舎の一室に作られた臨時作戦本部へと戻る。
「シゲノブ殿、お疲れ様です」
「お疲れ様です男爵。見てましたか?」
「ええ、一部始終を見させていただきました」
「どうしましょうか。やはり勇者同士であれば神器を奪えるという事実を秘密にするくらいしかできることは無いでしょうか」
「そうですね。人間の欲望にはキリがありませんから、そんなことが広まれば王国どころか三国全土で争いが起こってしまいます」
そういえば、勇者がいるのはこの国だけではないのだった。
ステルシア聖王国とムルガ共和国にも、召喚された勇者が何十人も行っているはずだ。
この三国に、今現在戦争中の魔族を含めた四国が混沌の渦に飲まれる可能性があるのか。
日本でいう戦国時代みたいな時代に突入してしまうかもしれない。
なんとかできないものか。
「あまり気になさる必要は無いと思います」
「え?」
「どんな状況に陥ろうと、人間というのは意外と生き延びるものです」
「はあ」
ちょっと男爵が何を言っているのか分からない。
争いになれば、多くの人が死ぬんじゃないのか?
「その剣。元は神器だったものなのです」
「えぇ!?」
男爵は俺の腰の剣を指し示す。
これが神器だって!?
いったいどういうことなのか。
「元の名を神剣といいます。今では神器としての力をほとんど失ってしまいましたが、当時はとても強い力を宿す神器だったそうですよ」
「あの、神器をどうやって受け継いだのでしょうか」
「神器は勇者の実の子孫にのみ一部譲渡が可能だという話を以前しましたが、実は私の祖先も勇者だったのですよ」
「えぇ!?」
衝撃の事実だ。
しかし男爵領での勇者のもてはやされ方を見れば少し納得かもしれない。
勇者にまつわりがある一族が治める領地だからこそ、あれほどまでに勇者に対して好意的なのか。
「勇者は持っている神器のうち、一つのみを子孫へと譲渡することが可能です。しかしその神器の力は代を経るごとに衰えていく。そして今ではこんな感じです。もはや神器としての特性はほとんど残っていない。ただの良く切れる宝剣です」
「それでも十分だと思いますがね」
「ありがとうございます。確かに、貴族家の宝剣としての価値は当時よりも高いかもしれません。貴族というのは何でも古いものをありがたがりますから」
「ははは、なるほど」
「人はいつでも、争いの中に生きています。それは勇者様がいてもいなくても変わらない。実際に、この剣には多くの傷が刻まれている。神器は破壊不能の代物。傷が付いたのは最近でしょう」
それは、勇者のいた時代の傷が分からないだけではなかろうか。
破壊不能ならば傷なんて付きようがないのだから。
「そうですね。勇者の時代にもこの剣はたくさん使われたのでしょう。しかし、神器としての力がほとんど無くなるほどの時間が経っても争いが無くならなかったのも事実です」
「だから、勇者同士の争いも仕方が無いということですか?」
「言ってしまえばそういうことですね。人は大した理由が無くても争います。現に勇者様方を召喚する前から魔族と争っていたのですから」
「そうですね……」
争いの無い世の中なんていうのは、所詮綺麗ごとなのだろうか。
俺達のいた世界でも、争いはあった。
日本は70年ばかり大きな戦争はしていないが、それは人類の歴史の中ではあまりにも短い時間だ。
平和だなんて、とても言えたものじゃない。
ましてやここは異世界。
現在戦争中の国の中だ。
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