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95.勇者とハーレムの蘇生
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振り下ろされる剣を避け、突き出される槍を触腕でいなす。
ここはドラゴニアのダンジョン18階層にある隠し階層。
Sランクモンスターのドラゴニュートが倍々で出てくるあの階層だ。
先日はエリーさんがいたので安全確実な方法でこの階層を突破したが、今日は一人なので正面突破にチャレンジしている。
ボスであるドラゴニュート×100まではいけないだろうが、ドラゴニュート×8かドラゴニュート×16まではいけると思うんだけどな。
今の俺はこの間の俺とは違う。
なにせ背中から触腕が生えているのだ。
手数が全然違う。
まだまだ使いこなせているとは言い難いが、最初よりはマシになったつもりだ。
強い亜人型の魔物が大量に出てくるこの階層は触腕の修行にちょうどいい。
考えてみれば神の触腕はこの階層の隠し宝箱部屋にあったのだ。
おそらくあの宝箱部屋で触腕を手に入れて、手数を増やして大量のドラゴニュートに挑むというのがこの階層の正しい攻略方法なのではないだろうか。
触腕を手に入れたくらいであの数のドラゴニュートに勝てるような奴は触腕がなくてもクリアできるだろうけどね。
少なくとも俺は触腕を手に入れてその日には無理だ。
1ヶ月は練習させてほしい。
今は触腕の練習を始めて1週間が経過したが、なんとなく触腕を使った戦闘というものに慣れてきたくらいのところだ。
もう少しで何か掴めそうな気がする。
しかし明日は死んだ勇者をどうするのか結論が出る日だ。
今日まで街の有力者を集めた会議で話し合い、明日には結論を出すとドノバンさんは言っていた。
面倒だが行かなければならないだろう。
せめてギリギリまでここで修行していよう。
俺はドラゴニュートの1体を触手で殴り飛ばした。
「よく来てくれたな、シゲノブ殿」
「いえいえ、それで結論は出たのでしょうか」
「ああ、やはり勇者がこの街で死ぬのはまずい。可能性があるのならばやってみてはもられないか?報酬は約束通り冒険者ランクの1ランクアップだ」
「わかりました」
生き返っても絶対面倒なことになると思うのだが、この街の有識者たちは死んだほうの面倒のほうがより面倒だと結論付けたのだろう。
それについては俺が口を出すようなことではない。
なにより報酬が魅力的だ。
ドノバンさんとの約束では失敗しても成功しても報酬は支払われることになっている。
つまりこの依頼を受けた時点で俺はBランク冒険者ということだ。
Bランク冒険者といえばどこの町に行っても歓迎されるし、他の冒険者たちからも一目置かれる存在だからな。
ついニヤけてしまう。
だがこの場でこの表情は場違いだと気付き、すぐに表情を消す。
まあ勇者は生き返るか分からないけれど、やるだけやってみようか。
俺はまた魔物の皮を敷き、その上に勇者とそのハーレムの死体を並べた。
前は全員一気に生き返らせたが、それだとまた自分たちが死んだということに気がつかない可能性がある。
またドラゴニアのダンジョンに潜られても困るし、自分たちがとても危ない階層にいて実際に2度も死んだのだということを分かってもらわなくては。
そうなると1人ずつ生き返らせるのがいいだろう。
仲間が実際に死んでいる現状を見せればさすがにまたダンジョンに行こうなんて思えないはずだ。
「じゃあまずムルガ共和国議員の娘のライラから試してみます」
「頼む」
ライラの親が一番権力持ってて厄介そうだからな。
もしライラが死んだなんて親に知れたらそれこそ戦争になりかねない。
死ぬような目にあった時点でヤバそうではあるが、それは俺は知らんよ。
ダンジョンなんか連れて行った長道が一番悪いと思うが、なんとなくそんなダンジョンに入ることを許可した街に責任があるとか言ってきそうではある。
こいつらを生き返らせれば、この街の有力者たちにはそういう化かし合いみたいな話し合いが待っているのだろう。
大変だな、権力者というのも。
俺はライラの心臓の上のあたりに触れる。
生きていたらさぞ柔らかかったであろうその胸は、冷たく固くそして血まみれだ。
吐き気は催しても興奮はしない。
死んでいることが残念でならない。
だけど生きていたら触ることは許されなかったというジレンマ。
まあ勇者の女とかそういう面倒なものに手を出す気はない。
さっさとやってしまおう。
俺は神酒を魔法で操作して口から胃に送り込むと、指先から電流を流し心臓を強制的に動かした。
ビクンと死体が痙攣する。
死んですぐの人間は1回心臓を動かせばあとは神酒の力で勝手に回復していくのだが、時間が経っている人間は何度か心臓を動かさなければならない。
3度ほど電流を流すと、少し顔色が良くなった気がする。
俺は胸から手を放す。
1分ほど様子を見る。
「ごほっ、ごほっ、はぁはぁ、ごほっ、ごほっ」
ライラの身体から杭が抜け、傷が再生していく。
よかった、なんとか蘇生は可能なようだ。
口からは血の塊を吐き出し、ライラの意識が戻る。
「ここは……あたし、ダンジョンで……そうだ!落とし穴に落ちて……あっ……け、ケント?なんで、そんな、ケントぉぉっ!!」
ライラは自身の横で死んでいる長道を目にすると顔を絶望に歪め、縋りついて泣きじゃくる。
前回は全員一度に治療してしまったからこの認識が無かったんだよ。
だからおっさんへのお礼の一言もなかったのかな。
まあそれはただの不義理かもしれないけど。
「ライラさん、落ち着いてください」
「落ち着いてなんかいられないわよ!!ケントが、ケントが死んじゃってるのよ!!息をしてないの!心臓も動いてない!!」
「先ほどまでのあなたも同じ状態だったのですよ?それをここにおられるシゲノブ殿が治療してくださったのです」
「へ?ち、治療?死んだ人間を?」
「そうです。お気づきではないかもしれませんが、あなたはダンジョンの隠し階層の中ですでに1度死んでいるのですよ?すでにこれは2度目の蘇生なのだとシゲノブ殿からお伺いしております」
「そ、それじゃああのとき……」
ライラは一瞬で顔面蒼白となった。
ただ大怪我で意識を失っていたと思っていたら、その間死んでいたのだ。
それは怖いだろう。
「お、お願いします!ケントを、ケントを助けてください!!お礼はします!!あたしにできることならなんでもします!!お願いします!!」
ライラは頭を床に擦り付けて俺にそう頼む。
まさか異世界で土下座される立場になるとは思わなかった。
なんだろう。
ダンジョンの中で散々暴言を吐かれたからかもしれないが、ちょっと気持ちいい。
ここはドラゴニアのダンジョン18階層にある隠し階層。
Sランクモンスターのドラゴニュートが倍々で出てくるあの階層だ。
先日はエリーさんがいたので安全確実な方法でこの階層を突破したが、今日は一人なので正面突破にチャレンジしている。
ボスであるドラゴニュート×100まではいけないだろうが、ドラゴニュート×8かドラゴニュート×16まではいけると思うんだけどな。
今の俺はこの間の俺とは違う。
なにせ背中から触腕が生えているのだ。
手数が全然違う。
まだまだ使いこなせているとは言い難いが、最初よりはマシになったつもりだ。
強い亜人型の魔物が大量に出てくるこの階層は触腕の修行にちょうどいい。
考えてみれば神の触腕はこの階層の隠し宝箱部屋にあったのだ。
おそらくあの宝箱部屋で触腕を手に入れて、手数を増やして大量のドラゴニュートに挑むというのがこの階層の正しい攻略方法なのではないだろうか。
触腕を手に入れたくらいであの数のドラゴニュートに勝てるような奴は触腕がなくてもクリアできるだろうけどね。
少なくとも俺は触腕を手に入れてその日には無理だ。
1ヶ月は練習させてほしい。
今は触腕の練習を始めて1週間が経過したが、なんとなく触腕を使った戦闘というものに慣れてきたくらいのところだ。
もう少しで何か掴めそうな気がする。
しかし明日は死んだ勇者をどうするのか結論が出る日だ。
今日まで街の有力者を集めた会議で話し合い、明日には結論を出すとドノバンさんは言っていた。
面倒だが行かなければならないだろう。
せめてギリギリまでここで修行していよう。
俺はドラゴニュートの1体を触手で殴り飛ばした。
「よく来てくれたな、シゲノブ殿」
「いえいえ、それで結論は出たのでしょうか」
「ああ、やはり勇者がこの街で死ぬのはまずい。可能性があるのならばやってみてはもられないか?報酬は約束通り冒険者ランクの1ランクアップだ」
「わかりました」
生き返っても絶対面倒なことになると思うのだが、この街の有識者たちは死んだほうの面倒のほうがより面倒だと結論付けたのだろう。
それについては俺が口を出すようなことではない。
なにより報酬が魅力的だ。
ドノバンさんとの約束では失敗しても成功しても報酬は支払われることになっている。
つまりこの依頼を受けた時点で俺はBランク冒険者ということだ。
Bランク冒険者といえばどこの町に行っても歓迎されるし、他の冒険者たちからも一目置かれる存在だからな。
ついニヤけてしまう。
だがこの場でこの表情は場違いだと気付き、すぐに表情を消す。
まあ勇者は生き返るか分からないけれど、やるだけやってみようか。
俺はまた魔物の皮を敷き、その上に勇者とそのハーレムの死体を並べた。
前は全員一気に生き返らせたが、それだとまた自分たちが死んだということに気がつかない可能性がある。
またドラゴニアのダンジョンに潜られても困るし、自分たちがとても危ない階層にいて実際に2度も死んだのだということを分かってもらわなくては。
そうなると1人ずつ生き返らせるのがいいだろう。
仲間が実際に死んでいる現状を見せればさすがにまたダンジョンに行こうなんて思えないはずだ。
「じゃあまずムルガ共和国議員の娘のライラから試してみます」
「頼む」
ライラの親が一番権力持ってて厄介そうだからな。
もしライラが死んだなんて親に知れたらそれこそ戦争になりかねない。
死ぬような目にあった時点でヤバそうではあるが、それは俺は知らんよ。
ダンジョンなんか連れて行った長道が一番悪いと思うが、なんとなくそんなダンジョンに入ることを許可した街に責任があるとか言ってきそうではある。
こいつらを生き返らせれば、この街の有力者たちにはそういう化かし合いみたいな話し合いが待っているのだろう。
大変だな、権力者というのも。
俺はライラの心臓の上のあたりに触れる。
生きていたらさぞ柔らかかったであろうその胸は、冷たく固くそして血まみれだ。
吐き気は催しても興奮はしない。
死んでいることが残念でならない。
だけど生きていたら触ることは許されなかったというジレンマ。
まあ勇者の女とかそういう面倒なものに手を出す気はない。
さっさとやってしまおう。
俺は神酒を魔法で操作して口から胃に送り込むと、指先から電流を流し心臓を強制的に動かした。
ビクンと死体が痙攣する。
死んですぐの人間は1回心臓を動かせばあとは神酒の力で勝手に回復していくのだが、時間が経っている人間は何度か心臓を動かさなければならない。
3度ほど電流を流すと、少し顔色が良くなった気がする。
俺は胸から手を放す。
1分ほど様子を見る。
「ごほっ、ごほっ、はぁはぁ、ごほっ、ごほっ」
ライラの身体から杭が抜け、傷が再生していく。
よかった、なんとか蘇生は可能なようだ。
口からは血の塊を吐き出し、ライラの意識が戻る。
「ここは……あたし、ダンジョンで……そうだ!落とし穴に落ちて……あっ……け、ケント?なんで、そんな、ケントぉぉっ!!」
ライラは自身の横で死んでいる長道を目にすると顔を絶望に歪め、縋りついて泣きじゃくる。
前回は全員一度に治療してしまったからこの認識が無かったんだよ。
だからおっさんへのお礼の一言もなかったのかな。
まあそれはただの不義理かもしれないけど。
「ライラさん、落ち着いてください」
「落ち着いてなんかいられないわよ!!ケントが、ケントが死んじゃってるのよ!!息をしてないの!心臓も動いてない!!」
「先ほどまでのあなたも同じ状態だったのですよ?それをここにおられるシゲノブ殿が治療してくださったのです」
「へ?ち、治療?死んだ人間を?」
「そうです。お気づきではないかもしれませんが、あなたはダンジョンの隠し階層の中ですでに1度死んでいるのですよ?すでにこれは2度目の蘇生なのだとシゲノブ殿からお伺いしております」
「そ、それじゃああのとき……」
ライラは一瞬で顔面蒼白となった。
ただ大怪我で意識を失っていたと思っていたら、その間死んでいたのだ。
それは怖いだろう。
「お、お願いします!ケントを、ケントを助けてください!!お礼はします!!あたしにできることならなんでもします!!お願いします!!」
ライラは頭を床に擦り付けて俺にそう頼む。
まさか異世界で土下座される立場になるとは思わなかった。
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