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96.勇者ケントの蘇生

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「どうでもいいけど、生き返らせて欲しいのは長道だけなんだ」

「そ、それは……。ほ、ほかの2人も、できればお願いしたいです」

 ハーレムなんていうものが仲良しこよしでできる代物ではないということは分かっていたが、実際目にしてみると思ったよりも羨ましくないドロドロとしたものだな。
 他の2人もできれば生き返らせて欲しいと口にするライラの顔には、はっきりと生き返らせないでくれという本音が表れていた。
 このまま他の2人がここで死ねばいいと思っているのだろう。
 残念だけど君が生き返るっていうことは他の2人もほぼ確実に生き返るんだ。
 さて、次は誰にしようか。
 長道は一番最後にしたほうがよさそうだから、次は大商会の商会長の娘サラかな。
 親の権力順に並べるとこうなるだろう。
 アンナの父親の旅の剣士も有名なAランク冒険者らしいが、権力という点ではAランク冒険者はそこまで高くない。
 
「じゃあ次、サラを蘇生します」

 俺はライラよりも薄いサラの胸に触れる。

「え、なぜ胸に……。というか私の胸も触ったんですか?」

「気が散るので黙っていてもらっていいですか?」

「は、はい……」

 胸に触るのは心臓に電気ショックを与えるためであって、いやらしい意味はちょっとしか無いというのに。
 若い子はそういうところ過剰に反応するからな。
 必死に救命活動しても後でセクハラで訴えられるんじゃあ誰もいざという時命を助けてくれなくなるよ。
 先ほどと同じように神酒を口から胃に届け、数回電気ショックを与えた。
 ビクンビクンとサラの身体が痙攣し、少しずつ血色が良くなっていく。
 やがて傷が癒え始め、体中に刺さった杭が抜ける。

「ごっはっ、はぁ、はぁ、ごっほごほっ、うぼぇぇぇっ」

 女の子が発してはいけないような声を発し、サラは血の塊を吐き出す。
 サラは内臓の損傷が酷かったから、かなり苦しかったのだろう。
 
「はぁ、はぁ、ここはいったい……。なんであたし血まみれなの?ケント?ケントぉぉぉぉ!!」

 またも血まみれケント君を見て発狂するハーレム要員。
 耳がキンキンする。
 
「なんで、なんでケントがぁぁ、ケント強いじゃん!強いのになんで死んじゃうのぉぉ!!」

 長道に縋りついて泣きじゃくるサラ。
 そんなに長道が好きなんだろうか。
 どのへんに好かれる要素があるのだろう。
 秘訣があるのなら俺も真似したい。
 まずは人に迷惑かければいいのかな。

「落ち着いて、サラ」

「なんであんたそんなに落ち着いてるのよ!!ケントが死んだのよ!!あんたケントのことなんてどうでもいいっていうの!?」

「そんなこと言ってないでしょ!!あたしだってケントが死んだって知ったときは取り乱したわよ!!」

「じゃあなんでそんな落ち着いてるのよ!!」

「あんたが生き返ったからでしょ!!あたしたち全員死んでたのよ!!だからあんたやあたしが生き返ったようにケントも生き返るの!!」

 女2人の言い争いは見ている分には結構面白かったのでもっとやれと思っていたのだが、どうやらサラは落ち着いてきてしまったようで喧嘩はここでおしまいのようだ。
 もっとやればいいのに。

「い、生き返らせて。ケントを。お願いしますお願いします。わたしにできることならなんでもします」

 土下座2人目。
 これは気分がいい。
 こいつら俺のことを散々冴えないおっさんだとか、キモいとかウザいとか罵倒していたからね。
 さすがに俺も善良な女の子を土下座させたいとは思わないけれど、こいつらは別だ。
 
「君も、長道のことしかお願いしないんだね。もう1人、死んでいる仲間がいるのに」

「そ、それは……。あ、アンナのこともお願いします」

 やはりサラの顔にはできるなら生き返らせないでくれという感情が表れていた。
 ハーレムってはたから見ている分には昼ドラみたいで結構面白いんだね。

「そんなに頼むなら仕方ないな。サラから蘇生するよ」

「は、はい。ありがとうございます……」

 お礼を言うサラの顔は、全然嬉しそうじゃなかった。
 実際嬉しくないんだろうな。
 俺はそんなことも気にせずアンナの大きくも小さくもない胸に触れる。

「む、胸に……」

「黙ってて」

「はい……」

 神酒を胃に流し込み、電気ショックを与えるとアンナが息を吹き返した。

「ごほっ、ごほっ、ぶへっ、ぐぶぉぇぇぇっ」

 アンナは拳ほどもあるような血の塊を吐き出した。
 これは苦しそうだ。
 
「ケントぉぉぉぉぉっ!!」

 そしてまたこのくだり。

「おでがいじまず、ゲンドを、ゲンドをだずげでぐだざい……」

 土下座3人目。
 アンナの顔は涙と鼻水で酷いものだ。
 俺が酷いことをしているみたいだからやめてほしい。

「じゃあ、最後に長道を蘇生しますよ」

「「「お願いします」」」

 3人は綺麗に土下座して俺に頼み込む。
 さすがにもう土下座は食傷気味だ。
 やりすぎると引いてしまう。
 俺は若い女の子に土下座させて興奮する性癖はないんだ。
 さっさと終わらせよう。
 迷惑なハーレムの主を連れて早くムルガに帰ってほしい。
 俺は触りたくもない長道の胸に触れ、電気ショックを与えた。
 胃の中に送り込んだ神酒が効果を発揮し始め、体中の杭が抜ける。

「ごぶっ、ぶへっ、がっっはっ、げっほっごほっ、うぉぇぇぇっ」

 長道は血の塊やら胃の内容物やらを口から吐き出し、下からも色々なものを垂れ流しにして蘇生した。
 全員の中で一番醜い蘇生のしかただったな。

「ケントぉぉぉ!!」

「生きてる、生きてる!!」

「もう会えないかと思ったよぉぉっ!!」

 君たち本当にその男のどこに惹かれたのかな。
 長道を観察していれば分かるのだろうか。
 それを解き明かすことができれば夜の店でモテモテになれるかもしれない。
 長道を観察するなんて嫌だからやらないけど。

「おい、お前ら。なんだよ今日は甘えん坊だな。それよりダンジョンはどうなったんだ?」

「ケントのばかぁぁっ、あたしたち死んじゃってたんだよ!」

「ダンジョンなんてもう絶対に行かないし行かせないから!」

「もうケントが死んじゃうのは嫌だよ!」

「は?なんのことだよ。てか臭っ、俺なんか臭いな。お前らも血まみれだし、風呂行こうぜ」

「「「うぇぇぇん、ケントのばかぁぁぁっ」」」

 なんだこの噛み合ってない会話は。
 もっとちゃんと長道に自分たちが死んだってことを説明してくれないと、困るんだけどな。
 同じことを思ったのか、ドノバンさんが長道に話しかける。

「勇者ケント殿、あなたはドラゴニアのダンジョンの隠し階層で罠にかかって一度死んだのですぞ?分かっていらっしゃいますかな?」

「は?死んだ?何言ってるんだよ。俺はこうして生きているじゃないか」

「それはシゲノブ殿の神器による治療によって蘇生されたからにほかなりません。そちらの女性陣に聞いていただければ分かると思いますが、あなたの死体は酷い状態でしたよ」

「意味がわからねえ。シゲノブって誰だよ」

「はぁ……」

 ドノバンさんは馬鹿と話すのは疲れるとばかりに溜息を吐き、眉間を押さえる。
 頭痛に悩まされているようだ。
 
「ていうか俺ダンジョンの中にいたんだったな。ここは休憩室かどこかか?一応用心しておかないとな」

 状況が分かっていない長道は未だダンジョンにいるつもりなのか、周りを見回して警戒する。
 そして手の平を空中にかざすちょっと意味不明な動作を繰り返す。

「この、このっ、なんで出ねえんだ!おかしいだろ!」

「何をしている?」

「うっせぇなおっさん!くそっ、なんで、なんで神器が出ねえんだよぉ!!」

 なるほど、ここがダンジョンだと思って武器を出そうとしているのか。
 だが出るはずはない。
 なにせ、長道が一度死んでから10分は確実に経過している。
 とっくの昔に神器は長道のもとから消えているのだから。


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