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おっさんずイフ
7.神酒
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商人になるために色々と模索してみるという梶原さんと別れ、俺はひとり酒場に残る。
葡萄フレーバーの水よりも薄いワインを飲みながらマスターと雑談することによって、少しでもこの世界の情報を手に入れるためだ。
「へー、やっぱりこの国でも酒は既得権益が強いんだ」
「酒の醸造となるとお貴族様が絡んでくる大事業だからね。新規参入者は酷い嫌がらせを受けたり場合によっちゃあ命に関わることもあるって話だよ」
「それは怖い」
「お貴族様は俺たち下々のもんの命なんてなんとも思っちゃいないのさ」
やはり酒を売って金を稼ぐというのは無理っぽい。
酒は命の水というけれど、生水が信用できない土地ではまさしく水の代わりとなる。
日本人にとっては酒は嗜好品という印象が強いけれど、ここではそうではないのだ。
酒は生きていく上で必ず必要なものだ。
だからこそ利権を持った人間には永続的に富が入ってくるようになっている。
それを脅かそうとする人間を許しはしないだろう。
「じゃあ葉巻とかってどうなのかな。ああ、これお替わり」
俺は酒のお替わりを頼み、少し多めの代金を支払う。
薄い酒で腹がチャポチャポいってきているがここが踏ん張りどころだ。
マスターは新しい酒を俺の前にどんと置き、代金を受け取ると話し始める。
「葉巻もだめだね。あれは輸入品の中でも高く売れるいい商品だ。香辛料に次いで重さあたりの価値が高い。おのずと販路が限られてくる。新しく参入するのはまず無理だよ」
「そうなんだ」
予想はしていたがやはり神器で金を稼ぐのは無理か。
誰にでも思いついて金になる商売というのは絶対に既得権益が存在するものだ。
小遣い稼ぎにちょいちょい売りに出すくらいは見逃されるだろうが、大規模に稼ごうと思ったら必ず横槍が入ることだろう。
そうなるとやっぱり俺の神器は金にはならない。
どんぐりを食べて初級魔法というものを使って何か金策に走ることも考えたが、やはりあのフレーバーテキストが気になる。
あの神器は育てなければならないようなそんな気がする。
「やっぱりコツコツ働くのが一番かな」
「その通りだね。人生コツコツが一番」
陽気なマスターに少しだけ励まされ、俺は酒場を後にした。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「あの、仕事を探しておりまして」
「どのような仕事がいいかなどのご希望はございますでしょうか」
「特に希望はありません。どんな仕事でも全力で頑張ります」
ここは職業斡旋所。
この国で仕事を探そうと思ったらここが一番だと酒場のマスターに教えてもらった。
商業ギルドでも仕事は探せるようだが、どちらかといえばそちらは事務仕事などの頭を使う系の仕事が多いらしくこの世界の常識に疎い俺には向いていない。
荷運びや清掃員などの日雇いの仕事はほとんどこちらの職業斡旋所に集中するようなので体を動かすことくらいしかできそうにない俺はこちらに来たというわけだ。
「かしこまりました。では常時募集のお仕事などはいかがでしょうか」
常時募集ということは常時人が足りていないということだ。
それだけ仕事がいくらでもあるということか、もしくは人が入っても長続きしないということだ。
前者だったらまだいいが、後者だったらあまり職場環境には期待できない。
しかし右も左もわからない異邦人の俺には仕事を選ぶことなんてできそうにないな。
「わかりました。常時募集の仕事をいくつか見せてもらえますか?」
「常時募集のお仕事はこちらの3件になります」
そう言って受付嬢が見せてきたのは3枚の紙。
城で貰ってなぜか取り上げられなかった翻訳アイテムのおかげで問題なく読むことができる。
「荷運びに下水道清掃、そして鉱山ですか」
「はい。おすすめは鉱山労働になります」
さらりと一番命の危険が高そうな仕事をおすすめしてくる受付嬢。
その笑顔は薄っぺらでビジネスライク。
血も涙もないのか。
鉱山労働が一番お給料がいいのは確かなのだが、どう考えても命が削られるだろう。
下水道も着替えの乏しい今は少し避けたい。
となると無難な荷運び一択だろうか。
「荷運びのお仕事をお願いしたいです」
「そうですか。残念です。鉱山もいいお仕事ですよ?」
「鉱山はまたの機会に」
「かしこまりました。では明日の朝この場所にお集まりください。軽く地図をお描きしますね」
「お願いします」
鉱山推しの鬼畜受付嬢から明日の集合場所の地図をもらい、俺は職業斡旋所を出た。
いつか鉱山行かされそうで怖いな。
とある安宿の一室にて、俺は女神様からもらった3つの神器を眺めていた。
酒とタバコとどんぐり。
自分で選んだものだから悔いはないが、これだけで異世界を生きていくのは正直きついな。
つらい現実に直面してしまったときは酒でも飲んで現実逃避するに限る。
俺は雑貨屋で買ってきた飾り気のない木のコップに神酒を注ぎ込む。
色は茶褐色、まるでウィスキーやブランデーのような色だ。
まずは香りから楽しむ。
フルーティな果実のような香りと、熟成によって染み付いたであろう樽の香り、それからハーブのような香りもするような気がする。
しかしこの香りは前にも嗅いだことがある。
これは前に友人に貰った高級ブランデーの香りじゃないだろうか。
俺は確かめるために神酒を一口飲む。
喉を焼く強烈な酒精。
しかし長い熟成によって角が取れ、まろやかな口当たりになっている。
鼻に抜ける様々な香り。
うまい。
これは人間の作った至高の酒だ。
「でも……」
間違いなく前に飲んだ高級ブランデーの味だ。
神じゃないじゃん。
まあでも、高級ブランデーが飲み放題なら十分神がかっているかな。
身体に良いという説明文を信じ、俺は1杯飲み干してもう1杯注ぐ。
しかし二度目に注いだ神酒は、まるで水のように透き通っていた。
えぇ、なんでさっきと色が違うんだ。
俺は驚いて香りも確かめずに透明な酒を一口飲む。
「これは……」
口の中に広がるのは穀物の旨味。
酒精は日本酒よりもやや強い。
これは、麦焼酎だ。
それも年間数千本しか生産されていない幻の酒じゃないか。
行きつけの居酒屋で5本だけ入荷できたといって1杯飲ませてもらったあの味だ。
1杯3000円も取られたけどね。
「毎回違う酒が出るのか」
どうやら神酒とは、色々な美味しいお酒が楽しめる神器らしい。
素晴らしい神器だ。
これで青汁のように身体にいいというのだから、本当にありがたい。
葡萄フレーバーの水よりも薄いワインを飲みながらマスターと雑談することによって、少しでもこの世界の情報を手に入れるためだ。
「へー、やっぱりこの国でも酒は既得権益が強いんだ」
「酒の醸造となるとお貴族様が絡んでくる大事業だからね。新規参入者は酷い嫌がらせを受けたり場合によっちゃあ命に関わることもあるって話だよ」
「それは怖い」
「お貴族様は俺たち下々のもんの命なんてなんとも思っちゃいないのさ」
やはり酒を売って金を稼ぐというのは無理っぽい。
酒は命の水というけれど、生水が信用できない土地ではまさしく水の代わりとなる。
日本人にとっては酒は嗜好品という印象が強いけれど、ここではそうではないのだ。
酒は生きていく上で必ず必要なものだ。
だからこそ利権を持った人間には永続的に富が入ってくるようになっている。
それを脅かそうとする人間を許しはしないだろう。
「じゃあ葉巻とかってどうなのかな。ああ、これお替わり」
俺は酒のお替わりを頼み、少し多めの代金を支払う。
薄い酒で腹がチャポチャポいってきているがここが踏ん張りどころだ。
マスターは新しい酒を俺の前にどんと置き、代金を受け取ると話し始める。
「葉巻もだめだね。あれは輸入品の中でも高く売れるいい商品だ。香辛料に次いで重さあたりの価値が高い。おのずと販路が限られてくる。新しく参入するのはまず無理だよ」
「そうなんだ」
予想はしていたがやはり神器で金を稼ぐのは無理か。
誰にでも思いついて金になる商売というのは絶対に既得権益が存在するものだ。
小遣い稼ぎにちょいちょい売りに出すくらいは見逃されるだろうが、大規模に稼ごうと思ったら必ず横槍が入ることだろう。
そうなるとやっぱり俺の神器は金にはならない。
どんぐりを食べて初級魔法というものを使って何か金策に走ることも考えたが、やはりあのフレーバーテキストが気になる。
あの神器は育てなければならないようなそんな気がする。
「やっぱりコツコツ働くのが一番かな」
「その通りだね。人生コツコツが一番」
陽気なマスターに少しだけ励まされ、俺は酒場を後にした。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「あの、仕事を探しておりまして」
「どのような仕事がいいかなどのご希望はございますでしょうか」
「特に希望はありません。どんな仕事でも全力で頑張ります」
ここは職業斡旋所。
この国で仕事を探そうと思ったらここが一番だと酒場のマスターに教えてもらった。
商業ギルドでも仕事は探せるようだが、どちらかといえばそちらは事務仕事などの頭を使う系の仕事が多いらしくこの世界の常識に疎い俺には向いていない。
荷運びや清掃員などの日雇いの仕事はほとんどこちらの職業斡旋所に集中するようなので体を動かすことくらいしかできそうにない俺はこちらに来たというわけだ。
「かしこまりました。では常時募集のお仕事などはいかがでしょうか」
常時募集ということは常時人が足りていないということだ。
それだけ仕事がいくらでもあるということか、もしくは人が入っても長続きしないということだ。
前者だったらまだいいが、後者だったらあまり職場環境には期待できない。
しかし右も左もわからない異邦人の俺には仕事を選ぶことなんてできそうにないな。
「わかりました。常時募集の仕事をいくつか見せてもらえますか?」
「常時募集のお仕事はこちらの3件になります」
そう言って受付嬢が見せてきたのは3枚の紙。
城で貰ってなぜか取り上げられなかった翻訳アイテムのおかげで問題なく読むことができる。
「荷運びに下水道清掃、そして鉱山ですか」
「はい。おすすめは鉱山労働になります」
さらりと一番命の危険が高そうな仕事をおすすめしてくる受付嬢。
その笑顔は薄っぺらでビジネスライク。
血も涙もないのか。
鉱山労働が一番お給料がいいのは確かなのだが、どう考えても命が削られるだろう。
下水道も着替えの乏しい今は少し避けたい。
となると無難な荷運び一択だろうか。
「荷運びのお仕事をお願いしたいです」
「そうですか。残念です。鉱山もいいお仕事ですよ?」
「鉱山はまたの機会に」
「かしこまりました。では明日の朝この場所にお集まりください。軽く地図をお描きしますね」
「お願いします」
鉱山推しの鬼畜受付嬢から明日の集合場所の地図をもらい、俺は職業斡旋所を出た。
いつか鉱山行かされそうで怖いな。
とある安宿の一室にて、俺は女神様からもらった3つの神器を眺めていた。
酒とタバコとどんぐり。
自分で選んだものだから悔いはないが、これだけで異世界を生きていくのは正直きついな。
つらい現実に直面してしまったときは酒でも飲んで現実逃避するに限る。
俺は雑貨屋で買ってきた飾り気のない木のコップに神酒を注ぎ込む。
色は茶褐色、まるでウィスキーやブランデーのような色だ。
まずは香りから楽しむ。
フルーティな果実のような香りと、熟成によって染み付いたであろう樽の香り、それからハーブのような香りもするような気がする。
しかしこの香りは前にも嗅いだことがある。
これは前に友人に貰った高級ブランデーの香りじゃないだろうか。
俺は確かめるために神酒を一口飲む。
喉を焼く強烈な酒精。
しかし長い熟成によって角が取れ、まろやかな口当たりになっている。
鼻に抜ける様々な香り。
うまい。
これは人間の作った至高の酒だ。
「でも……」
間違いなく前に飲んだ高級ブランデーの味だ。
神じゃないじゃん。
まあでも、高級ブランデーが飲み放題なら十分神がかっているかな。
身体に良いという説明文を信じ、俺は1杯飲み干してもう1杯注ぐ。
しかし二度目に注いだ神酒は、まるで水のように透き通っていた。
えぇ、なんでさっきと色が違うんだ。
俺は驚いて香りも確かめずに透明な酒を一口飲む。
「これは……」
口の中に広がるのは穀物の旨味。
酒精は日本酒よりもやや強い。
これは、麦焼酎だ。
それも年間数千本しか生産されていない幻の酒じゃないか。
行きつけの居酒屋で5本だけ入荷できたといって1杯飲ませてもらったあの味だ。
1杯3000円も取られたけどね。
「毎回違う酒が出るのか」
どうやら神酒とは、色々な美味しいお酒が楽しめる神器らしい。
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これで青汁のように身体にいいというのだから、本当にありがたい。
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